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32 護るべきもの 下

 川の対岸で、邪龍たちがたむろっている。どうやって挨拶したら仲良くなれるだろうか。



 第一印象は大事だ。戦闘装備一式を作り出して、ご挨拶の身支度を整える。相手は邪龍だ。ビビったら負けかもしれない。逆に、俺の方が強者であると認識させる必要がある。



 文字通り弾丸のように飛び出し、ドラゴニア数体の近くに着地した。着地の衝撃と逆噴射で放出した魔力により、光の雫のような風が吹き荒れている。



 邪龍たちは一瞬の出来事に驚いていたが、すぐに身構えた。俺は両手を挙げて、戦闘の意思がない事を示した。


 ドラゴニアの一人は、黒髪の邪龍だった。二十代後半くらいの女性で、顔立ちは南欧系だ。だが、大きな翼があって尻尾もある。映画に出てくる「美しい女性の悪魔」のようなドラゴニアだった。




「俺は話がしたくて来たんだ。黒髪の貴女の名前は、ミラジットで合ってるかな?」


 黒髪の邪龍に、手を差し伸べるようにして指差した。


 返事はすぐに帰ってこない。暫く沈黙が続いた。邪龍たちは、俺が指差したドラゴニアの顔色を伺っている。


「合ってるわ。私がミラジット。貴方、大精霊のワタルでしょう」


「その通り、俺がオジクスを殺した。ソカーニルから俺のことは聞いてるかな」


 彼女が、ソカーニルと一緒にミーナを育ててくれたドラゴニアだ。


 邪龍内には、三人のリーダーを頂点とした三つの派閥がある。その頂点に、絶対王者としてオジクスが君臨していた。ミラジットは三人のリーダーの一人で、オジクスの副官を務めていた。


 ミーナ曰く、三つの派閥の中でも、ミラジットの派閥は規律が保たれていて、最も団結力が強い。ミーナやソカーニルは、ミラジットの派閥に属していると言える。


「決闘の話は聞いてたけど、貴方が私に会いに来るなんて言ってなかったわよ」


「それはすまない、彼女にも何も言ってないんだ。ちょっと君たち二人に用があってね。ソカーニルはポルタヴァにいると思うけど、彼女をここに呼んでほしい。同じ精霊として話がある。それと、俺が来たことはポルタヴァの邪龍には内密にね」


 なるべく精霊らしく、無邪気な感じに振舞った。


 ミラジットは返事をせず、暫く俺を観察していた。そして一体の邪龍に目を向け、その邪龍は勢いよく飛び去っていった。


「あの邪龍に伝言を頼んだわ。それで、貴方の目的は何?」


 ミラジットが増援を呼んでいたら戦争になる。一応ここに来る前に、バーティに依頼して警戒態勢を引き上げてもらった。


 この件はリズに指揮が任されていて、砦の作戦司令部で将校らと共に画面越しに見守ってくれている。


 俺が身につけている音声発信機で会話内容を作戦司令部に流しているので、さっき飛び立った邪龍にも無人偵察機グローバルホークが割り当てられて、リズが監視してくれるはずだ。


「さっきも言ったように話がしたいんだ。率直に言って、この戦争をどう思ってる?勝てると思うかな」


 俺は笑顔で、余裕があるように振舞っている。対して、ミラジットは苛立っている感じだ。他のドラゴニアたちは、ただお互いの顔を見合わせている。


 純粋な邪龍たちは、戦闘態勢を解除して棒立ちになっている。彼らは本当に、ただの人形だ。命令があれば実行するが、自分の意思というものを獣よりも持っていない。言い方を変えれば、戦闘兵器である魔獣の完成形だ。ガウナのようなヘルハウンドも魔獣だが、ガウナはハッキリと自分の意思を持っている。



 そんなことを考えていたが、ミラジットはまだ俺の質問に答えない。どうやら苛立っているのではなく、何を言ったらいいのか必死に考えているようだった。


「この戦争が終わっても生き延びたいなら、さっさと返事を聞かせて欲しいんだが」


 これにはミラジットも怒った。


 強気な態度で押し通すしかない。実際にコイツらを皆殺しにするには、自爆覚悟でMOABを使う必要がある。


 今は邪龍たちの間合いに入っている。ミーナの話だと、このミラジットは俺がたとえ弾丸の様に飛ぼうと捕まえる事が可能らしい。逃げ足だけが俺の取り柄だ。それが生かせない状況で戦闘になれば、俺はコイツらに捻り潰されるだろう。


「もう勝者気取りって訳?私達わたしたちは劣勢だなんて考えてないわよ?貴方さえここで倒せば、人間じゃ私達に勝てる訳がないんだもの」


 俺の心配が見抜かれたか?ミラジットは強気だ。


 だが、そう言って本人は意気込むが、邪龍は棒立ち、ドラゴニアたちも腰が引けている。



 コイツら団結力が高いんじゃなかったのか?この場にいるのが全員ミラジットの派閥とは限らないが、それでも周りの連中は薄情な奴らだ。


 ミラジットがキレたので、俺も強気に出ないとダメだろう。


「別に俺も人間の仲間って訳じゃないさ。だけど、お前たちは世界樹に手を出したな。ローザは一体どうしているんだ。殺してはいないようだが、彼女や世界樹を傷つけたら、お前ら全員殺すからな」


 軽くキレた感じで答えた。


 この世界には「世界樹」がいくつもあって、それぞれが「世界樹の精霊」と呼ばれる代弁者を作り出している。


 外見はどの「世界樹の精霊」も一緒だが、髪の毛の色が違う。ポルタヴァの精霊はピンク色の髪をしていて、「ローザ」と呼ばれている。


「オジクスが彼女を保護するように言って、皆それを厳守している。世界樹の担当は私だ。私も、部下達に手厚く保護するよう厳命している」


 ミラジットは、さっきの強気な発言とは一転、弱々しい弁明をしていた。


「なら、ローザと世界樹を解放しろ。それでお前だけは助けてやる」


 とりあえず、話の流れで言ってみた。実際に世界樹が解放されれば、ライゼンリードが戦う必要がなくなる。


 ミラジットは、また暫く考え込んでいた。その表情は暗く、敗北を認めているのだろう。ドラゴニアたちの間でも悲壮感が漂っている。


 戦った本人が言うのもなんだが、オジクスって相当強かったらしいな。アントワーヌとバーティに、「オジクスって邪龍何体分の強さなんだろう」って聞いたけど、そんな測り方では語れないらしい。


 ミーナ曰く、邪龍の間でも絶対的な強者で、「ワタルがオジクスをたおしたせいれいだって知ったら、アイツらこわくてふるえるんじゃないかな」って言っていた。どうやらそれは本当だったらしい。



「分かった……世界樹は解放する。だが待って欲しい。私だけでなく、私の部下達も救ってくれないだろうか」


 ミラジットはそう言って俯いた。


 ミラジットの頼みに、正直言って心を打たれた。仲間を思い、自分だけ助かろうとしない。そういう人情に弱いんだよねぇ。


「邪龍なのに仲間を見捨てないんだな。その心意気には、純粋に尊敬するよ」


 俺がそう言って笑顔を見せると、ミラジットたちは安堵していたようだった。





「渉?聞こえるかな。ミラジットをよく口説いてくれた」


 ここでリズから無線が入った。


「分かってると思うけど、ミラジットとの交渉は渉一人で決めるわけにはいかない。彼女を招待するから、各国の大使を交えて交渉しよう。これから大急ぎで枠組みを作るから、夕方以降まで来賓として「おもてなし」することにした。私がミラジットの相手をするから、渉は会議の方に参加して欲しい」


 なんかあっという間に、話がスゲェ大きくなっていた。リズの背後で、司令部が大慌てになっている音も聞こえている。それに合わせて、リズの声も大きかった。


「リズ、白竜はくりゅうの方はどうなってる?あの邪龍は到着したのか?」



 一旦ミラジットを無視して、日本語でリズと交信を始めた。ドラゴニアたちが俺の様子を伺うが、俺は待つようにジェスチャーで対応する。


「渉?ゴメン、もう一度お願い」


「さっき飛び立った邪龍はどうなった?もう市街には到着してるのかな」


「あぁ、さっきの邪龍か。つい先ほど市街に到着した。……渉、ソカーニルと話をしているようだ。この二人の周辺には誰もいない」


 早いな。もうポルタヴァに到着していたか。邪龍は喋らないが、テレパシーで会話をしているのだろう。


「渉、ソカーニルが飛び立った。さっきの邪龍と二人だけでこっちへ来る。……ポルタヴァ市街の邪龍に動きはない。多分、ソカーニルはすぐ到着するね。私もそっちへ行く。ソカーニルが到着次第、二人を砦へ招待するよ」


 俺は「待ってる」と伝えて、リズと会話を終えた。司令部は更に混沌としているようだった。これから巨大なドラゴンが来るんだ。対岸で警戒中の兵士たちはパニックになるな。



 ソカーニルか……会うのは久しぶりだ。ミラジットとソカーニルが仲間になれば心強い。


 ミーナ曰く、この二人に使役術で敵う者はないらしい。ミーナの使役術を軸とした今回の作戦は、大きな修正が可能になる。そしてミラジットの派閥も取り込めれば、(本当に単純計算だが)敵の三分の一が寝返ることになる。


 もしかしたら、戦わずに講和も可能かもしれない。だが人間というものは、明確な敵と、明確な結末を望むはずだ。邪龍が生き残れば、憎しみの連鎖が続いていく可能性がある。後にその責任を問われるのは、この場にいる俺たち全員になる。


 俺は邪龍の将来なんか知ったこっちゃない。ミーナさえ守れれば、その他は処刑されたって構わない。人間は、目の前の人間しか守れない。だけど、それだとミーナが生きづらい世界になっちゃうから。


 ミーナを拒否する世界なんて要らない。そんな世界なんて必要ない。あんなに優しい子を、ただ邪龍という理由で拒否するのは許さない。


 もちろん、全部俺の勝手な妄想だ。勝手にミーナを将来の被害者に仕立て上げている。だけど、ミーナの笑顔を見るたびに心が締め付けられる。絶対に、何をしてでも、俺はミーナを守らなきゃいけないって。


新元号までに話を一段落させて、登場人物の紹介を投稿しようと思っていたのですが、令和に間に合いませんでしたorz


カスタムキャストでイメージを作ったので、合わせて投稿しようと思っています。

男性がなかなか上手く出来ないので、女性の方がメインになりそうです。


挿絵(By みてみん)

新元号を告げるソカーニル。


令和の元で心機一転、筆を取る時間を増やしたいですね。

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