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31 護るべきもの 上

 俺たちはアリヴェーニュ公の方から会談を申し込まれた。


 場所は昨日の会議室だ。アントワーヌを含めて、広い会議室を五人で使っている。


 昨日の会議は、俺が帰った一時間後に終わったらしい。費用負担などの時間のかかる事案は翌日以降に棚上げされた。


 昨日は、作戦内容と邪龍の扱いについて話し合ったようだ。作戦内容は既定路線で進んでいる。問題は邪龍についてだろう。




 捕らえられた邪龍たちは馬車に乗せられて、レタレクティア帝国が引き取っているらしい。


 会議の場でアリヴェーニュ公は、この戦争の責任は邪龍にあるとして、捕らえた邪龍を全員処刑することを提案した。多くの国がこの意見を熱烈に支持し、満場一致で邪龍の処刑が決まった。




 ミーナに関しては、アルビオン、ライゼンリード、レグニスタ、そしてレタレクティアが、大精霊である俺とリズの監視下に置くことに賛成してくれた。


 一方のカエルラは反対というわけではなく、万が一の場合を考えてカエルラ騎士を常に同伴させることで許可を与えようとしていた。




「やったじゃん。俺ら三人、カエルラのボディーガードがタダで雇えるってよ」


 俺はアリヴェーニュ公の提案を聞いて、そう言った。リズとミーナは無言だ。もちろん俺も「ミーナには監視が必要」と言われて、喜ぶようなクズじゃない。


 これは要するに、俺たち三人に対する監視だ。この戦争が終わった後、俺たちがどこで何をするのか。そして、他国が俺たちに接近してくるのかどうか。


 監視をつけたいから、アリヴェーニュ公はミーナに「危険人物」というレッテルを貼り付けた。ソランジュさんの伯父さんとはいえ、俺はこの人を一生許さないかもしれない。


「それでアリヴェーニュ公、ミーナの監視に具体的な期間は考えておられますか?」


 それでもこの人はカエルラの宰相……リズ曰く、首相のようなものだ。敵に回すような事はしたくない。ミーナのために。


「我々がヴィルヘルミナ嬢を人類の敵でないと判断したら、監視はもう必要ないだろう。だが、感情というものは一定ではない。この戦いでは邪龍を倒す協力をしてくれるのかもしれないが、数年後には邪龍再興の狼煙を上げるかもしれん」


 この人の言い方はいちいちイラつく。


「我々に協力してくれるミーナに対して、敵意を向けるのはやめていただきたい。ミーナが善人であることは、大精霊として俺が保証します」


 アリヴェーニュ公は、瞳を動かしてリズを見る。


「私も、大精霊として保証する。そして彼女の命が尽きるまで、私達が導くことを誓う」


「精霊として誓う訳だな」


「勿論。大精霊二人が誓う。不満かな?」


 俺は頷いて、リズに賛同の意を示した。


 リズは、右隣りのミーナの手を取った。そして頭を撫でている。幸せそうな光景を見て、改めて二人を絶対に守ろうと思った。


 俺は以前、アストリッドと友情を誓った。精霊にとって『誓い』は絶対で、神聖なものらしい。日本にいる時でも、リズは滅多なことで誓ったり、確約しない。リズもミーナを本気で守ろうとしてくれている。


「ミーナは、カエルラの騎士に監視されるのは嫌?」


「べつに。ついてくるぶんにはどうでもいい。ずっととなりにいるようならいやだけど」


 俺の質問に、ミーナはそっけなく答えた。もう少し聞いてみる。


「私生活を邪魔されなければいいのかな」


「へんな騎士じゃなかったらいいよ」


 ミーナの方は問題なさそうだ。



「君はヴィルヘルミナ嬢の監視に賛成なのかね」


 アリヴェーニュ公が話に入ってきた。


「ミーナをそんな風に見るのは気に入りません。ですが、世間の目が厳しいことは理解しています。カエルラの騎士が付き添って、それでミーナを世間の人が受け入れやすくなってくれるなら、俺個人はその方がいいのかもしれないと思っています」


 俺としては、例えばソランジュさんのような信用できる人物なら、監視をつけられても問題ないと思ってる。


「承知した。こちらとしては、その方向で動かせてもらおう」


 さっきのは完全に俺個人の意見だ。ミーナには意見を聞いただけだ。ミーナ不在で、コイツは話を進めようとしている。


 俺はミーナの顔を見た。ミーナは、俺に頷いていた。その笑顔を見て、俺は目を閉じて怒りを抑えた。


「衣食住はこちらで提供します。給料は出してあげてください。それと、ソランジュさんのような信用できる人でなければダメです」



 結局、敵意を隠せないでアリヴェーニュ公を見た。そんなアリヴェーニュ公の瞳が、俺の発言の後、一瞬だが激しく揺れた。


「ならばソランジュを君達に付ける。これは、あくまでも私の一存だが」



 俺たち三人は顔を合わせた。話がトントンと進んでしまって、三人とも不意を突かれたような顔をしている。


 アントワーヌも同じだった。その顔を見て、俺は一気に冷静になれた。


「アントワーヌはどう思う?ここまでの話、特にソランジュさんの件はどう考えてるの?」


 リズとミーナよりも、アントワーヌに先に質問した。


 俺はもちろん、ソランジュさんなら賛成だ。さっきのは恐らくアリヴェーニュ公の咄嗟とっさの判断であり、アントワーヌの率直な意見が聞きたかった。


 アントワーヌは少し表情を歪めた後、「私も賛成です」と答えた。


 心の底から賛成していないのが見え見えだ。親友であるステファンの、恋路の邪魔になると考えたのだろうか。それとも、俺たちとソランジュさんは仲がいいことを知っていて、ソランジュさんでは不適切だと考えたのだろうか。


 ミーナの監視が名目上の理由だけど、たぶん俺とリズも監視対象に入っている。そんな俺たちにソランジュさんをつける……むしろ人質として差し出すような感じだ。


 この短い間にアリヴェーニュ公に対する敵意が爆発してたから、監視のイメージも厳しいものを勝手に考えていた。住居や行動を制限されて、気に食わない奴がミーナや俺にいちいち口出してくる。そんなマイナスのイメージで妄想が膨らんでいた。冷静に考えると、カエルラは俺とリズを敵に回す必要はないんだ。



「まだここだけの話ですから、これ以上話を詰めてもしょうがないでしょう。一旦持ち帰って検討しませんか?」


「そうだな。それもいいだろう。まだ早いが、良い時間だった」


 会談は終了だ。全員で席を立つ。アリヴェーニュ公が前に出てきた。俺が代表として、公爵と握手を交わした。


「アリヴェーニュ公がミーナの将来を考えて下さった事に感謝します。邪龍であっても、決して全員が悪人ではないことを、俺たち三人で証明していきます」


 アリヴェーニュ公の瞳がまた揺れた。一礼して、俺たち三人は会議室を後にした。








 邪龍は、多くの罪無き人間を殺した。ミーナも人殺しだ。


 だけど、だからこそ……いや、とにかく俺はミーナを救いたい。本当のミーナは、とっても優しい心を持っている。


 この戦争の責任を「邪龍全体の責任」とされてしまえば、ミーナにも責任追及の圧力がかかる。まだ幼いミーナに、そんなものを一生負わせる訳にはいかない。


 ミーナの他にも、良い邪龍は絶対にいる。作戦が開始される前に見つけ出して仲間に出来れば……


 そうだ、共に戦った仲間なら、処刑は出来ないんじゃないか?この状況に危機感を抱いている邪龍を見つけ出して、共にポルタヴァを攻略する……そこにソカーニルを巻き込めれば、ミーナの願いを叶えられる。


 プランが少しずつ見えてきた。邪龍と話し合えるかやってみるか……


 ミーナの話だと、英語を話せるドラゴニアは多い。ミーナとリズに俺の考えを話して、そしてミーナがどう思っているのか、何を望んでいるのかを聞いてみよう。


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