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セブンスランクルーク  作者: 蔵雨 箸
プロローグ
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2 妖精の子守唄

 リズにはとっておきの切り札があった。世界樹の世界を長らく支配していたが、ある日突然消えてしまったというダークエルフ達の作り出した秘宝『魂魄結晶』である。


 リズはテーブルの上に大小異なる二つの宝石のようなものを置いた。それは透明な水晶の結晶体のようなもので、どちらも紫の内包物インクルージョンが入っていた。


  小さい方はオーラのような深紫こきむらさきが水晶のほとんどを占めている。もう片方はより大きな結晶で、全体の半分、中心部に薄紫の輝きがちりばめられている。どちらも吸い込まれそうな美しさだった。


「これは?」


 俺の質問にリズが答える。


 名の通り魂を扱うシロモノであり、扱うのは使用者自身の魂である。使用者の魂を封じ込め、結晶に宿すことで自身が精霊となり、強大な魔力を扱えるようにするものらしい。ダークエルフの残した失われた技術(ロストテクノロジー)であり、世界に数えるほどしかないという。


 元々強大な魔力を使えるダークエルフが、より強大な魔力を扱えるようにするため、そして自身には習得不可能な魔法を、結晶内に書き込んで行使可能とするために作ったらしい。リズはそれを二つも持っていた。


 向こうの世界に行くにあたり、これで俺の身の安全を保障するとか言いながら「この結晶に渉の魂を入れま~す」なんて言われた時には「俺の魂はどうなってもいいのかよ」とツッコんだ。


「いやいや、そのまま使うとと使用者の魂すべてを吸い取ってしまうんだけどね。本来であれば、魂の一部で自身の現身を作り出すアイテムなの」

「リズはこれを正しく使えるってことか?」

「まさにそのと~り」


 えへんと腕を組んでみせるリズ。リズはこう言っているが大丈夫なのだろうか……



「とりあえず精霊になれたとして、いきなり雷を落としたり空飛んだり隕石降らせたり出来るようになるもんなんか?」


 リズは使えても、俺自身ゲームの中でしか魔法を使ったことがない。魔法陣やら詠唱やら、二ヶ月で実戦に耐えるものを習得可能なのだろうか。


「う~ん、一般的な魔法は精霊になっても勉強しないとすぐには無理かな。でも、肉体を持ったものが精霊として生きるための基礎的な魔法は入ってるはずだよ。例えば体を維持するとか、空を飛ぶとか、記憶することでさえも魔法を使っているの。要は人間が呼吸したり考えたりみたいな無意識に体に命令しているものを、私たち精霊はある程度の魔力の流れを伴って制御していて、自然と身につくものなの。そういった精霊にとって基礎的な魔法の使い方は結晶内にインプットされているから使えるようになると思うよ。向こうの世界でも人間が魔法で空を飛ぶのは難しいから、それだけでも大きなアドバンテージになるかな」


 リズが腕を組んで超越者的なポーズをしながら(フフフと口に出ている)フワフワと浮かんで見せる。


 リズが自由に空を飛んでいるのは何度も見たことがある。ジェット噴射も何もなく、突然ふわりと浮かんだと思えば、自由自在にさながらハリウッド映画のように飛んで見せる。



 目の前の宝石を睨み、これを使えば俺も空を飛べるようになるのかと胸が弾む。


「だけどそれだけじゃ戦闘に役に立たないよな。炎系とか雷系魔法みたいなのはすぐに身につくものなのか?」


 リズに昔どんな魔法が得意なのかと聞いて、雷系魔法が得意だと言っていたっけな。


「人間と比べれば、体は魔法でできている。みたいな精霊の方がはるかに覚えは早いよ。それに人間にとって、魔法は使用し続けることで使える魔力が増える面もあるからね。この結晶で精霊になっちゃえば膨大な魔力を行使できるようになる。魔力のキャパシティを増やしていく、っていう過程を通り超せるから、学習すれば普通の人間よりはるかに強力な魔法を使えるようになるのは間違いない。精霊になれば魔法の知らなかった渉でも、人間最強の魔法使いを超える膨大な魔法を行使できるようになるよ」


 ということはゲーム的に考えるとMP容量は多いけど使える魔法が無い状況って感じか。だけど精霊になって魔法を学習していけば、人間よりもはるかに強力な魔法を使えるようになるわけだ。これはチートしてキャラメイクしてるレベルだな。


「それにこの魂魄結晶は、ダークエルフが自身では使えなかった魔法を使えるようにするために作ったものだからね。この中には制作者が考え出した、魔道を極めた者でも扱うことのできない強力な魔法が封じ込められているの。作った本人じゃないとどんな魔法か分からないけどね。この結晶に紫色が広がっているでしょ。魂魄結晶に込められた魔法がこの紫なの」


 目の前の二つの結晶を比べてみる。透明な結晶の中に波のような紫色が広がっているが、色味や広がりが異なっている。


「これは魔法を起動させるための魔法陣のようなもので、色の濃さがその結晶に込められた魔法の複雑さを現しているの」


 改めて二つを凝視する。小さいほうは殆どが濃い紫に染まり、大きいほうは中心部に薄紫が広がる。この小さい方はとても濃い紫色だから複雑な魔法が封じられていて、逆に大きいほうはそうではないのだろうか。




 二ヵ月という期間は短いと思う。大きな方の結晶はそのサイズから将来性を感じさせるが、精霊という存在がそもそもチートレベルであるのならば……


 俺は小さいほうの結晶を手に取る。


「こっちにする。俺はコイツに込められた魔法が、強力なことに賭けるよ」
















 ここまでいつものテンションで喋ってしまった。私は渉を戦争に連れて行こうとしているのだ。この戦争に、渉は全く関係ない。それでも、私と共に来てくれると言ってくれた。


 いつも一緒にやってるゲームの中の戦争とは違う。本当の戦争だ。私は一人で戦うのが怖くて、頼れる相棒が欲しかった。それは渉しかいない。


 渉は床に寝そべって仰向けの状態になっている。渉は右手で魂魄結晶を握ったまま胸の前に置いた。


「本当にやっちゃっていいんだよね?」


 と声をかける。


「大丈夫だ」


 とだけ渉は呟いた。心の中はモヤモヤしているが、気持ちの整理をして落ち着けようとしているのだろう。私は渉に膝を貸して彼の額に手を置き、魔力をこめてシューベルトの子守唄を歌った。段々と眠りに落ちていく。渉が完全に眠りについたところで、呪文を唱えて魂魄結晶を起動し始めた…

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