22 リストチェントに雪が降る 上
リストチェントの地に雪が降り始めた。人狼達が焼かれた家の中で、少しでも風から身を守るために隠れている。
家を焼かなければ良かったんじゃないか?俺はそう思いながら画面を切り替えた。画面には俺達の姿が映っている。リストチェントまで歩いて三十分の距離に来た。今は朝の九時で、四時間後に行動を開始する。
俺達もこの先の人狼達と同じように、冬の林の中で風をやり過ごしている。林の中には、青い軍服のライゼンリード軍だけでなく、黒を基調とした軍服の一団が増えた。と言うか、彼らの方が若干多いらしい。彼らはレグニスタ公国の兵士達だ。
レグニスタ公国はマクシミリアノ共和国の左隣に位置する。つまり本来であれば、北部戦線に居たはずである。しかし、レグニスタとマクシミリアノは何度も戦争を繰り返していて、仲が悪い。周辺国が北部戦線に参加する中、レグニスタは南部戦線に出兵した。
南部戦線の北側を守っていた彼らは、ドニエプル川を越えてここまで辿り着いた。レグニスタの兵はここから少し離れたところに別の大隊がいる。合計すれば、俺達のライゼンリード一個大隊にレグニスタ歩兵二個大隊及び騎兵二個大隊。これがリストチェント攻略の戦力だ。結局のところ、歩兵だけで二千名、騎兵も四百にもなった。
俺とリズは、彼らレグニスタの兵士達がドニエプル川を出発するのを見送っている。彼らに会うのはその時以来だ。彼らが道中で邪龍に襲われた時は助けに行く手はずだったが、特に戦闘なく無事に辿り着いた。合流したのは昨日なので、皆が慣れない雰囲気に多少なりとも戸惑っているだろう。今はそのレグニスタの話を中心に、いつも通りのメンバーで立ち話している。俺はこの世界の住人じゃないから、レグニスタについて詳しいわけじゃない。基本的に、俺が皆に質問しているような形になっている。
「レグニスタとライゼンリードってどんな関係なの?海峡を挟んでいるから、地続きって訳じゃないよね」
俺は左隣のリズを挟んで、アストリッドに尋ねた。右隣にはミーナとガウナがいる。リストチェントを前にして、ミーナとはやっと距離感が戻りつつある。
「以前は我々が大陸に進出していた時期もあってな。ライゼンリードとレグニスタも、何度も戦火を交えている。それを言えばマクシミリアノも同じだな。マクシミリアノとレグニスタが、我が国と戦うために共闘した歴史もある」
まぁそんなものだろう。人間の歴史は戦争の歴史なんて言うし。結果として今現在、ライゼンリードはマクシミリアノの為に兵を出したが、レグニスタはそうではない、という話だ。
ライゼンリードは、多少強引に考えようとすれば、地球でいうところのスカンディナビアに近い。同じように、マクシミリアノはポーランド、レグニスタは……リズ曰くプロイセンに近いそうだ。地球とこの世界は繋がっていた。この世界の言語が地球と同じなのがその証拠だ。一般的に、この世界では三百年前までは地球と繋がっていたと考えられている。
その時代である三百年ぐらい前は、ダークエルフがこの世界を支配していた。地球からこの世界に来た人達は、地球で同じ国の出身だったり、同じ民族だった人達と一緒に住み着いた。彼らはダークエルフを打ち倒した後に自分達の国を建国したが、やっぱり自分の知っている人達と一緒に国を作った。だからマクシミリアノ人はポーランド人の流れを汲んでいるし、レグニスタはプロイセン人の血を引いている。
アストリッドは大陸に進出した時期もあった、と言っていた。ライゼンリード王国はスカンディナビアのような形の島と、島に向って伸びる半島を領土としている。その半島の先がマクシミリアノ共和国だ。アストリッドの言っていた話は、地球で言えばバルト海の覇権を巡る戦いだ。半島を巡って両国が対立したのは容易に想像がつく。今でも大陸側の半島を持っているのに「大陸に進出していた」なんて言ってるんだから、マクシミリアノ共和国での激しい戦いだったに違いない。そんな事を考えながら聞いていた。
「ライゼンリードはカエルラやアルビオン、レタレクトと仲がいいですよね。私もライゼンリードは昔から好きですよ」
カエルラのソランジュさんがアストリッドに言った。さっきと同じような理論で言えば、カエルラはフランス、アルビオンはイギリスに例えられるだろう。この両国は元の国に比べれば、かなり大きい領土になっている。
カエルラ帝国は地球のドイツ、イタリアに近いような所も抑えている。もっとも、カエルラ帝国は一つの国として存在しているのではなく、複数の国がカエルラの皇帝に忠誠を誓う形で成り立っている。カエルラが直接的に支配しているのは、やっぱりフランスと同じくらいの領土だったりする。
アルビオン王国はイギリスと同じ島国だ。こちらは単純に、島が大きい。アルビオンは数年前に現在の女王が即位した。アストリッドは何回か会っていて、非常に好感を持ったそうだ。年齢は二十歳で、まだ未婚らしい。
俺達が今戦っているレタレクティア帝国は、地球でかつて存在したオーストリア=ハンガリーが近いらしい。リズ曰く、多様な民族が集まっているそうだ。カエルラ、アルビオン、レタレクティアの三国が、この世界での三大国家と言えるだろう。
俺はミリタリー系のゲームは好きだけど、第二次世界大戦とか現代戦のゲームがメインなんだよな。一次大戦系もなんとなくやったことがあるし、明治維新あたりは好きなので東アジア情勢なら微妙に分かる。中世ヨーロッパは詳しくないし、近代って言ったらナポレオンとか大英帝国って名前が頭に浮かぶ程度だなぁ。
「ライゼンリードは大国と距離があったから上手くやってこれたんだよ。お隣のマクシミリアノは共和制(貴族共和制)だから、君主制が当たり前のこの世界では風当たりが強い。政治体制が近いのは、内閣が政権を握っているアルビオンしかいないからね」
リズが今言ったように、そういう理由もあるのかもしれない。リズ曰く、議会は殆どの国にも何らかの形であるけれど、国王の権力をある程度制限しているに過ぎないらしい。
「確かにアルビオンと政治体制は近いですが、マクシミリアノは選挙の度に政権が変わり、前政権とは大きく変わった行動に出ます。アルビオンにしても周辺国にしても、大きな悩みの種になっているのは間違いありません」
アルビオン出身のユーニスが呟いた。いつもはアストリッドの傍に控えてるだけで、話題を振らないと入ってこないので珍しい。
改めて思うけど国際色豊かなメンバーだな。レグニスタの話をしていたら政治的な話で盛り上がってしまった。世界がみんな俺達みたいに仲が良ければいいんだけどね。今は十字軍で各国が協力し合っているけど、終わったらどうなるんだろうか。いや、今でも水面下では分からないものだ。
そういやミーナってどこの国の出身なんだろ。ミーナって過去を話したがらないから、聞きたいけど聞けないんだよな。最近避けられてたのがやっと落ち着いたので、今のところは触れないのが無難だろう。そんなことを考えてミーナを見ていたら、ミーナが口を開いた。
「いいんじゃない?わたしたちなんてきょうりょくすらしてないんだから。まぞくはジャリュウにむりやりしたがわされてるだけだよ。このたたかいがおわれば、アイツらはなにもなかったようにころしあいをはじめるよ」
ミーナが政治の話をぶった斬って魔族の話をした。相変わらず魔族に対して容赦がない。ミーナの魔族自虐ネタを久しぶりに聞いたな。元気が出てきた証拠だ。俺はそういう意味で嬉しかった。でもやっぱり、ミーナはどう思ってるんだろう。
これまでの話を整理したり、設定を考えていたらかなり時間がかかりました(汗)
週二ペースで投稿出来るようにしたいですが、この章が終わったらまたすこし間隔が空くかもしれません




