18 岸の狭間で 下
「リズ、ミーナは大丈夫か?」
ミーナはぐったりとしていた。リズがミーナに治癒魔法をかけている。
「私が魔法で眠らせた。弾は抜けたみたいだから、なんとか出血を抑えてる」
一瞬で治癒出来ればいいのだが、魔法でも損傷した部位を治療するには時間がかかる。数分は治癒魔法を続ける必要があるだろう。
「渉、狙撃は私が防ぐから大丈夫。渉には傷口を塞ぐ前に工房で破片を調べてほしいの。見つけたら錬金術で除去して」
言われるがままに工房を手のひらで作り出し、ミーナの右肩周辺を覆う。俺は生物をトレースすることは出来ないが、工房で内部を見ることは出来る。無事に弾丸の金属片を全て認識して、錬金術にかけることができた。
「リズ、大丈夫。傷口を塞いであげて」
リズが頷いた後、俺の背後を指した。俺はどこに潜んでいるか分からなかったが、空を飛んでソイツの元へ向かった。
どうしてわたしはきらわれてばっかりなんだろうか。ニンゲンのむらでもそうだし、ジャリュウのむらでも、わたしのことをかわいがってくれたのはお姉ちゃんだけだった。
お母さんのさいごのかおがおもいだせない。
「ミーナ、私はもう、あなたを育てるのが疲れたの」
そういって、お母さんはわたしを森においだした。
お母さんとわたしは、ちいさな村にすんでいた。そこはもともとニンゲンしかすんでいなかった。ツノがはえたジャリュウのわたしを、村のみんなはきみわるくおもってた。
お母さんはそんちょうのはたけではたらいた。いちにちのいちばんさいごまではたらかされても、いちばんもらえるものがすくなかった。
わたしのむらではニンゲンのふんがはたけにまかれた。あつめるのはかならず、わたしとおかあさんだった。
むらのこどもに石をなげられた。あたまからちがでても、だれもわたしのことをたすけてくれなかった。かぜをひいて、なんにちもねこんだ。お母さんは、そのあいだわたしのぶんもはたらいてくれた。
みっかたったら、お母さんがあるけなくなった。コップをもつと手がふるえるし、なにもできなくなった。わたしはこまって、そんちょうのところにいった。
そんちょうはお母さんのようすをみて、かみさまのもとへおくりとどけるといった。その日から、なにもしなくても村の食べものをまいにちもらえた。わたしとお母さんはすこし元気になった。
この村では、かみさまにいけにえをささげるぎしきがある。いけにえは村のいりぐちではりつけにされて、やりでさされてころされる。そのあと火あぶりだ。なんどもみている。
わたしはジャリュウだから、いけにえにはされない。ニンゲンしかえらばれない。わたしとお母さんは、ぎしきの日までふつうにすごした。
ぎしきの日のあさ、村のみんながねてるころに、わたしとお母さんは村のいりぐちまで歩いた。お母さんはいつもよりずっときれいなふくをきていた。すごくきれいだった。
わたしは村のいりぐちがみえるとめまいがした。お母さんにつれられてなんとか歩いた。村のいりぐちで、お母さんはわたしにいった。
「ミーナ、私はもう、あなたを育てるのが疲れたの。これからミーナは、村を出て独りで生きていきなさい」
お母さんのかおがまっくらだった。あたまがいたくて、なにもかんがえられなかった。でもわたしはまっすぐ歩いていた。村のいりぐちは森へのいりぐち。森のいりぐちについたときにふりむいた。お母さんのすがたはもうなかった。お母さんがはりつけにされるじゅうじかをみて、わたしはまたふりむいて森をはしった。
わたしはまた石をなげられた。ちをながしてまたたおれた。お母さんがわたしをよんでいる。何回もわたしのなまえをよんでいる。からだがまったくうごかない。目をあけることもできない。でもちっともこわくない。
「ミーナ、起きて。ミーナ、目を開けて」
わたしは、お母さんのひざまくらでねむっている。めをつぶっていても、お母さんだってわかる。お母さんのひざまくらはひさしぶりだ。お母さんといっしょがいい。まだおきるひつようなんてない。
「ミーナ、ミーナ、目を覚ますんだ。ミーナ」
お父さんもわたしをよんでいる。わたしにお父さんなんていないのに。もしかしたら、お兄ちゃんなのかもしれない。
こわい。おきるのがこわい。こわくてなみだがぽろぽろと出てくる。
「ミーナ、起きなさい。あなたは独りぼっちじゃないから」
ほんとうのお母さんのこえがきこえた。わたしはおきあがった。村のいりぐちだった。
お母さんはわらってわたしをみていた。お母さんはきれいだった。いつも着ていたふくだ。いつも泥だらけだったのに、今日はきれいだ。こんなお母さんを、わたしはみたことがなかった。わたしははしってお母さんにだきついた。
「ごめんなさいお母さん、お母さんをたすけられなかった。わたし、村のみんなにひどいことをした」
あのときに今みたいなちからがあれば、お母さんをたすけられた。ぎしきがはじまるまえに、あのあいだに森にいっていれば、あのときわたしはお母さんをたすけられた。
「ミーナ、あなたはもう私のことで苦しまなくていいの」
お母さんがわたしのあたまをなでてくれる。このままお母さんといっしょがいい。村にもどれば、お母さんとまたいっしょにくらせるきがした。お母さんがとつぜんわたしをふりほどく。お母さんはひっしになにかをいおうとするけれど、こえにならない。わたしはまたお母さんにだきついた。
あのときといっしょだ、ぎしきのよういはされてないけど、あのときといっしょなんだ。
お母さんがのぞんでることはわかってる。わたしはまた森にいかなきゃいけないんだ。お母さんのかおをみる。お母さんはなみだをふいて、わたしにほほえんでいる。わたしのなみだをぬぐってくれる。わたしはまたお母さんにだきついた。
手をはなして、すこしずつうしろにさがる。あのときの、村を出たときのお母さんのかおだった。いまやっとおもいだした。お母さんはこのさきがてんごくじゃないってしっている。そんなかおするなら、わたしをつれていってくれればいいのに。
わたしはふりむいてはしった。森のいりぐちについたときにふりむいた。お母さんはまだそこにいた。わたしに手をふっていた。わたしもすこしだけ手をふって、森のおくへとはしりだした。




