12 安息の邪魔者達
オストフチを出て、ヘルハウンドの群れが通ると思われる地点で待機している。この一群はワーフ大森林を抜けて以来、街道沿いに進んでいる。おかげで進行ルートが読みやすい。
今は夜中で、白い月と星々が地面を照らす。地球の夜空と何一つ変わらないように思える。
街の人から馬を借りることができた。殆どの馬は魔族に接収されてしまったが、上手く隠していた住人がいた。少し先が丘のようになっていて、ステファンとソランジュさんのカエルラ騎士コンビが馬上で待機していて、群れを誘導してくれる手はずになっている。
リズは魔力の使いすぎで疲れてると言ってたが、戦闘に参加してくれるそうだ。眠ることによって効率的に魔力を回復できるのだが、リズは二日寝ていない。UAVで魔族の活動を監視し始めてから、リズは監視作業につきっきりだったのだ。昼間は俺がパソコンで監視して、リズに睡眠をとってもらっていた。だが昨日はオジクスとの決闘があり、今日は上陸用舟艇の操縦をお願いしていた。精霊であるリズは三日続けて起きてても平気だから、人間の基準と比較できない。時間を見つけて休ませてあげるべきだった。本人はまだ大丈夫だと言い張っている。
「リズ、もうすぐだけど、体調は大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫。これが終わったら休ませてもらうから」
ここには俺とリズの二人だけしかいない。道のど真ん中で、二人で机の上に置いたノートパソコンを見ながら敵の到着を待つ。百メートル後方にて、アストリッドを含めた他の騎士達が潜伏して待機している。
「俺はリズに無理してほしくない。それに、確実な策なんてのは戦場において存在しないよ。ここまできたら、俺の策を信じてほしいな」
リズは少し不機嫌そうな顔だ。心配されてるのが嫌なのだろう。
「はいはい。私が体調悪いなんて言っちゃったのが悪かったかなぁ。本当に大丈夫だからね?」
「リズ、覚えてる?リズが三日間帰ってこなくて、ヘトヘトになって帰ってきた日のこと。あの時のリズを思い出しちゃってさ。あの時は、魔力がかなり減ってたんだよね。精霊って、魔力が命の源じゃん?リズが魔力が切れそうって言ったとき、俺は本当に心配だったんだよ」
リズが第一空挺団の冬季訓練を見に行った時のことだ。帰ってきたときは本当に疲れ切った様子だった。
「地球じゃ魔力の補給が出来ないからねぇ。確かにあのまま歩けなくなってたら大変だったかも。渉が一緒に寝てくれたおかげで魔力の回復も早かった。あの時以来かな。年下の渉に主導権を握られるようになったのは」
リズは地球では俺の家じゃないと魔力を補給できない。俺の家にはリズの持ってきた世界樹の苗木があるからだ。俺の家の外だと、何もしなくても魔力を使ってしまう。あの日、魔力切れになったリズが心配で「何かして欲しいことはないか?」と聞いたら「一緒に寝て欲しい」と言われたのだ。別にやましい意味じゃない。あれ以降、リズは毎日寝る必要がないのに、俺と一緒に寝るようになった。
言われてみると確かに、リズはあれ以来ベタベタくっついてくるようになったな。風呂なんかも一緒に入りたいと言い出したし。どんどん俺の中のリズのイメージが、姉から妹に変わっていったんだよな。元々リズは小六か中一くらいの見た目だし。いつまでも変わらないリズと違って、俺は相応に成長している。別に完全にリズの兄貴面するわけでもないが、リズが大切な家族であることは俺の中で確固としている。
「今の俺でも、一緒に寝たら魔力補給は捗るのかな」
俺のこの問いに、リズは少し期待していたようだった。
「もちろん、効率は良いよ」
なら決まりだな。俺もリズが心配だし。リズと一緒に寝ていてもこちらにデメリットみたいなのはないし、リズの体調が良くなるなら俺も協力してあげたい。リズは恥ずかしかったのか、言うなり正面を向いてしまった。俺はリズを後ろから抱きしめた。
「了解。今日はゆっくり休もうな」
リズは大丈夫と言ってるが、何回か魔力切れのリズを見ているからわかる。リズは本当に疲れ切ってるんだ。この世界は地球と違って、魔力で溢れた世界なのに。オストフチでどこかに泊めてもらえるはずだ。向って来るヘルハウンドを倒してしまえば、前進するのはなにも今日明日じゃなくていい。俺ら以外の皆も疲れているだろうし、今日が終わったらゆっくり休もう。
俺とリズは早く休みたい雰囲気だったが、PCのモニターにはヘルハウンドがこちらに近づく様子が映っている。リズの為にも、オストフチの住民の為にも、この群れを早く片づけたい。
「カエルラのお二人とも、敵がもうすぐ来ます」
無線で二人に呼びかける。ソランジュさんから「了解」との返答があった。ヘルハウンド達がもう少し進むと、視界を遮っていた林が無くなって囮の二人が見えるようになる。二人が敵を俺たちの方に上手く誘導できるかが、この戦いの鍵である。




