9 海上の龍
「上陸まで残り一分、上陸まで残り一分」
「上陸まで残り一分、了解、以上」
渉と短いやり取りを終えた。渉とユーニスは私たちの攻撃を待っている。周りの騎士たちはお淑やかだから、私がロックンロールを鳴らさないといけない。
「このまま波止場に横付けするから、各自上陸して魔族を倒すように」
皆には上陸後、各自で戦ってもらう。ゴブリンやオーガに負ける連中ではない筈だ。隣にいるアストリッドの手を握る。アストリッドには私の傍を離れないよう言ってある。操縦桿を手放して、アストリッドを引っ張りながら銃座の前に付く。渉が居なくなった後に操縦桿無しで動かせるようハッキングした。魔力で電気信号を紡いで、それによって船を操作する。船の方も、自分自身の状態を逐一電磁波で報告してくる。まるで私はこの船と会話するように操っている。
「ちょっとうるさいかもしれないから、耳にかけてるやつを外して、私みたいにこれ付けてて」
私はイヤーマフを耳にかけた。アストリッドはイヤホンを外してこちらに渡し、イヤーマフを耳にかけた。
「私の声聞こえる?」
「ちょっと変だが、聞こえる」
騒音制御型なので、逆に聞き取りやすくなっているはずだ。さらに言えば外部接続可能なので、ハッキングしてアストリッドの無線とイヤーマフをリンクする。
「ここを押しながら、感度確認、感度確認、終了って言ってみてくれる?」
アストリッドが復唱するが、無線から問題なく聞こえた。イヤーマフのマイク、および無線機との接続は問題なさそうだ。渉が皆に配ったイヤホンは無線式なのでイヤーマフを付けると感度が悪くなるだろう。私と渉みたいに有線式にしていればよかったのだが、騎士である皆には有線式では動きづらいための配慮だ。
魔族の少ない方向から侵入する。間もなく波止場に到着だ。すると、まだ波止場まで三十メートルはあるがステファンが飛び出した。跳躍から船が揺れる。
「それじゃあ、お先に失礼するぜ!」
わざわざ無線を使って報告している。この距離を水平に飛行魔法で飛ぶのは、人間にしては確かに大した技量だ。かなり無茶な体勢だが。それを見たレタレクト帝国のテオドールが顔面蒼白で飛び立とうとしたが、肩をつかんで止めさせた。
魔族たちは私達の襲撃に気づき始め、港は慌ただしくなっている。船を波止場に着けた。私とアストリッド以外の乗員が降りていく。
「皆、死ぬんじゃないぞ。私は海上から援護する」
そう言って船を走らせる。
「エズリーズ、私たちは行かなくていいのか?」
「私が戦ってもいいんだが、この子の力を借りたほうが楽なんでな。アストリッドはもう少し下がって船の後方に。左右に揺れるから何かに掴まってて」
港にいる魔族に狙いをつけて、Mk19(自動榴弾発射機)の引き金に指をかけた。
「渉、こちらは上陸を開始した。パーティーを始めるから少し待ってろ。以上」
引き金を引き、調子のいいリズムと共に40ミリグレネードの弾幕を叩きこむ。初弾から波止場に雪崩れ込むゴブリンの集団を捉えた。次々とグレネードが爆発し、ゴブリン達が飲み込まれていく。次に、こちらに真っすぐ近づこうとする木造帆船に狙いを付ける。船首ではゴブリン達が小さい体で、待ちきれないのか飛び跳ねている。
「ならこいつを食らいな」
甲板に、僅かな曲射で榴弾の雨を降らせる。速度の遅いM203の40ミリだったら、もっと楽なんだけどな。マストやロープの隙間を縫うように撃ち込み、そのまま船体中央に連射したが沈まない。船首に数発撃って穴をあけてやると、回転して沈んでいった。
この無駄遣いで弾を浪費してしまった。弾薬を取りに行くのも面倒なので、次の銃座に移る。遠方では、先行していたステファンが独りでオーガやオークの群れに飛び込もうとしていた。私はミニガンのスピンアップを始め、引き金を引いて群れを一掃した。目の前で挽肉が出来上がるのを見て、あのステファンが凍りついていた。隣にいるアストリッドも、まだ波止場にいた騎士たちも同じだった。
「今のは龍の息吹か?まるで龍が火を噴いているようにしか見えなかったぞ」
アストリッドがイヤーマフを外して叫んでくる。外したいのは分かるけどねぇ。
「いやいやそれ外しちゃダメだって。龍の咆哮で耳をやられちゃったら困るんだって。兎に角アストリッドはもう少しそれ付けておとなしくしてて」
私は船を移動しながら制圧を続けた。奴らは目の前の仲間が死なないと恐怖を感じないらしい。こちらとしては本当にただの作業だ。なんの工夫もなく、ただ引き金を引くだけの。
一連の作業が終わると、港には死体の山が点在していた。渉の報告によれば、市街にはまだ魔族がいるはずだ。
「アストリッド、私たちも陸に上がるよ。今度こそ、それ外していいから」
Mk11 Mod0の調子を確認する。サプレッサーが付いているのでイヤーマフを外して、アストリッドのも回収した。逆にイヤホンを手渡す。
「渉、港の制圧が完了した。今からそちらの広場に向かう。オーバー」
「リズ、敵は多い。こちらの広場から港に向かっている敵は見えないが、油断するな。以上」
「了解だ。私たちが向うから待機しててね。以上」
皆のいるほうに船を向ける。騎士たちはそこで待機していた。上陸して合流する。
「みんな無事?」
「俺たちは何も問題ねぇ。しかしすごいな、大精霊の力は」
「私だけの力じゃない。渉がいないと出来ないことだから」
日本での生活に慣れていたからか、謙遜というのが先ず頭に浮かんでくる。それが渉の、日本人の美徳でもある。渉と知り合う前の私だったら、どうだったのかな。
「あの船を降りちゃったから、私は市街に入ったらさっきみたいな援護は出来ない。ここから先は皆に戦ってもらうからね。もちろん私も援護するから」
私はライフルの銃口を上に上げた。各自、既に得物を手にしている。
「無茶はしないこと。住民を見つけたら基本的に家の中で待機させて。場合によっては、私の元に逃がしてくれればいい」
グローバルホークからの映像を船の通信設備を通して受け取る。頭の中で受け取った映像を処理するが、相変わらず市街地に人影は少ない。港周辺の魔族は既に此処にやってきたので問題ないが、あれだけ派手に暴れたにもかかわらず市街の魔族たちに行動の変化が見られない。
渉の言う広場には確かに沢山の魔族がいる。センサーを切り替えてIFFによって渉の位置は確認できた。
私が予め作っていたオストフチの簡易地図を取り出し、皆に状況を説明する。私たちは広場の方向に向けて行動を開始した。




