7 決闘を終えて
翌日朝になると作戦会議が開かれた。今度は俺とリズも招かれ、出席している。
「偵察の結果、魔族は散り散りになっています。ドラゴン及び翼竜は完全に撤退。ソカーニルは、オジクス死亡を南部戦線の邪龍に伝えると言い残し、その後の接触はありません」
ライゼンリード軍の騎士が報告している。
「また、先のカエルラ偵察隊の行方は、分かりませんでした」
それを聞いて、今回の騎士団長であるアントワーヌは静かに十字を切っていた。地球で多国籍軍による作戦会議をしてるんだったらこの場で黙祷をするのだろうが、この世界には黙祷という不文律は存在しない。その代わり、各々が神に祈りを捧げていた。俺も、俺なりのやり方で黙祷を捧げる。リズが時を見計らって発言を始めた。
「私も上空から魔族の様子を調べてきた。かなりの魔族が移動を続けている。恐らく住処に帰るのだろう。その中で、ヘルハウンドが集団で移動しているのを見つけた」
ヘルハウンドは本来集団行動をとらないらしい。あれだけの巨大な獣が集団で狩りをする必要がないし、獲物を分け合って腹が満たせるとも思えない。
「ヘルハウンドは明らかに操られていたと思われる。奴らに監視が悟られないようにするために接近はせず、誰が操っているのか確認はとっていない」
昨日のうちに無人偵察機を飛ばしている。GPS無しでも、単独でアダマス海北東のワーフ大森林を巡回するようにプログラミングされている。地図上の距離でいえばさほど離れていないので、通信が可能な状態だ。俺のラップトップパソコンには、グローバルホークから送られた森林の様子が映し出されている。
現在の画面では詳しく確認できないが、ヘルハウンドの群れはワーフ大森林をアダマス海沿いに南東に向かって進んでいる。ヘルハウンドを操っているのは使役術を扱える者であり、邪龍やソカーニルだ。邪龍がヘルハウンドを操っており、南部戦線に合流する、と考えるのが自然だろう。
「邪龍達はポルタヴァを占拠して拠点にしている。そこはオジクスが拠点としていた場所だ。よってポルタヴァが最高司令部だったと思われ、現在もその機能が置かれていると思われる」
ポルタヴァは地球の地名からとられたものだろう。同じように、同名のドニエプル川があり、川の形が現代の地球のそれによく似ている。地図で見ると、南部戦線の戦闘地域自体が地球とそっくりだ。ベラルーシに当たる場所がアダマス海になっていて、ドニエプル川沿いに展開される戦線とみなすことができる。ベラルーシ北東からポルタヴァは遠い。こちらでも同じだ。リズと交代して発言する。
「奴らが南下している以上、南部戦線に合流すると考えるのが自然だろう。俺とリズはこの群れを追ってみようと考えている。もしかしたらこの邪龍は利用価値があるかもしれない。その処理が終わり次第、南部戦線に合流する予定だ」
俺とリズは自由気ままな精霊なので、大きな反論がない限り出発する予定だ。
「私は大精霊様お二人に賛成です。カエルラからも兵力を出したいと思います」
アントワーヌは賛成のようだ。兵力を提供してくれるようだが、率直なところ、彼らではヘルハウンドに追いつけるのか疑問がある。ヘリか輸送車を使えばいけるだろうか。ちなみにリズはアパッチ(攻撃ヘリ)でもチヌーク(大型輸送ヘリ)でもオスプレイでさえも操縦できる。リズさんマジパナイんだよなぁ。俺はヘリを操縦なんか出来ないので、操縦士は一人しかいない。さらに言えば、グローバルホークを改造しているのもリズだ。地球では天才ハッカーであり天才プログラマーである。見た目はこんなに可愛らしいのだが、本当にリズさんはマジパナイ。
「私もワタルの意見に全面的に同意する。ワタル、私はどうすればいいのかな?」
アストリッドは俺の意見に同意してくれた。まぁ事前に伝えてあるんですけどね。カエルラ及びアルビオンとも意見交換が済んでいる。アストリッドと二大国、その三方と完全に合意が取れている以上、今回の会議は俺にとって自分のケツを叩きに来ているに過ぎない。カエルラ側と事前に話した時は、大将であるアントワーヌは騎士団を動かすとは言っていなかった。一方で、アルビオンの大将であるマドラスは同意してくれた後、この陣地は任せておけ、的なことを言っていた。マドラスはこの会議を静かに見守っている。
結局のところ、各国の希望により、ヘルハウンド追撃の部隊を編成する事になった。この部隊は南部戦線に合流することとなる。俺たちと直ぐに出発する部隊に加えて、後続も投入することになった。後続の隊はライゼンリード軍を中心に編成されることになる。
現在、どちらも各国で人員を選定しており、前回の会議終了から一時間後に、アストリッドを中心に小会議が行われる。会議に会議の連続なんだな、こういうところって。確かにヘルハウンドをなんとかした後に南部戦線に合流するのであれば、兵力は多いに越したことはない。会議が終わったらリズと二人で出発しようと思っていたが、思わぬ待ちぼうけだ。
「渉がいれば補給面で問題ない。本当にチート能力だよね」
リズさんに言われると複雑な気分だ。俺の錬金術で食料を作り出せるし、彼らの装備もトレースすれば作り出すことが可能だ。だけど、それすらもリズの持ってきた魂魄結晶のおかげだし、軍事装備を中心に俺の作り出す物の大半はリズが収集してきたものだ。
軍隊の兵站を俺で支えることは可能だが万全ではない。量としては多分いくらでも作り出せる。俺は大気中の魔力を使って錬金してるので問題ない。決闘前の暇なときに、丘の上で大量の装甲車を並べて遊んでたけど問題なかったし。問題は、俺には作り出せないものがあることだ。野菜や動物をトレースしてもうまくいかないのだが、要するに生きているものをトレースするのがうまくいかない。大豆は無理でも豆腐なら作り出すことができる。なぜか俺の好きな具だくさんカレーはうまくいかない。具なしカレーならホカホカのまま皿付きで作り出すことができる。ライスが無いのだが……
「リズ、褒められたくて言ってるでしょ」
「あ、わかっちゃった?」
可愛らしくドヤ顔である。リズは褒められて伸びる子だ。頭をよしよし撫でてあげると、リズが嬉しそうにしている。俺とリズのお決まりだ。膝の上に乗せて、さらにリズを褒める。
「リズとなら世界を相手にできるからなぁ。本当にチート能力だよ」
リズは技能だけじゃない。俺の選んだ魂魄結晶もリズがたまたま拾ったものだし、強運の持ち主だ。リズの直感は経験に裏付けされていて、俺は信頼を寄せている。
「伊達に何百年生きてないなぁ。さすがリズさんだ」
おばあちゃん扱いのこの発言には、大層お怒りのようだった。これもやはりテンプレである。俺は再び頭を撫でて、ご機嫌をとるのであった。




