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6 衝撃と畏怖

 渉は投下してから直ちに移動を開始した。オジクスら邪龍達は、渉が離れていくのを訝しんで見ていた。ステファンら騎士達は様子を見守っているが、距離もあって何が起こっているのか全く分かっていない。ソカーニルはステファンらと共にいた。エズリーズは、MOABを誘導することに全神経を集中していた。オジクスは落下する物体を目視してから、大精霊の一撃とはどんなものなのかと興奮を覚えていた。


 エズリーズが導いたMOABは、オジクスの目の前に着弾、爆発した。ただ見物に来ていただけの邪龍達は一瞬で爆発に飲み込まれた。オジクスは自身の全力で対抗し、世界が燃え尽きるのを見た。しかしそれもあっという間だった。結界に入ってきた熱風が瞬く間にオジクスを焼き尽くした。死ぬ間際に何を感じたのか、もしくは何か感じることが出来たのかは、誰にもわからない。エズリーズは誘導の必要がなくなってから行動を開始したが、逃げるには遅すぎた。全方位に結界プロテクション魔術防壁スペルウォールを張り、身体強化ストレングスの魔法を使って耐え凌ごうとした。渉は後方で爆発したことを感じ、全速力で離脱した。騎士達はあまりの威力に喜び震え上がった。自身達の元まで強風が来た時には更に歓喜した。ソカーニルは爆発を見てあまりの規模に驚いたが、周囲の様子を見て逆に冷静を取り戻した。








「リズ…………」


 爆心地からキノコ雲が上がる。リズがいた辺りは完全に爆発に飲み込まれていた。

 突然、煙の中から炎の球体が飛び出し、地面に着地した。急いで空を駆けた。炎の中から現れたのは、リズだった。


「リズーーーー!!」


 死んではいないだろうと思っていたが、生きているのを見て安心した。着地した俺は、走り寄ってそのままリズに抱き着いた。


「あーもう。渉は心配性だな。核爆発に巻き込まれた訳じゃないんだから。かなりの衝撃だったけど、ご覧の通り生きてますよ」


 リズはポンポン背中を叩いてくれた。安全な距離まで離れていなかったはずだ。こうなることは解ってたんだから、もっと遠くに離れればよかっただろう。意味も無く命を張ったことに、俺は怒りを覚えていた。


「次からもっと安全を考えようぜ。リズが死んだら、意味ないんだからな」

「だから考えすぎだって」


 笑いながらリズは答えた。


「でも分かった。次からは気をつける。ゴメンね」


 リズともう一回ハグして仲直りをした。





 爆心地には何体かの邪龍の死体があった。真っ黒になってしまっている。オジクスの死体もあった。頭部は無いが体は残っている。大きさから見て間違いなくオジクスだ。右手を前に出したような形で、消し炭のようなオブジェクトになっている。もっとも、右腕は根元しかない。自分で使っておいてなんだが、俺は全く同じものを生み出せるだけでトレース元の性能なんかは分からない。どれほどの熱量がオジクスを焼き尽くしたのだろうか。邪龍は火山に住むドラゴン達を元に作り出されたらしい。そのおかげで火には強い種族だ。


「あっけなかったな。こいつがこの戦争の主犯なんだろ?」

「そうだね。でもオジクスはカエルラの騎士団でも倒せなかった奴だよ。馬鹿正直に戦ってたら私達でも勝てなかったかもしれない」


 そのカエルラ騎士団ってのがいまいちピンとこないので何とも言えない。俺はまだこの世界で魔法っぽい魔法も見てないし。いや、飛んだり現代兵器を量産してるけどさ。雷とか隕石降らせたりあるじゃないっすか。

 それにしても、リズはあれだけ自信満々に勝てると言っていたけどなぁ。まだ俺は根に持っている。別に俺は死んでも構わないけど。精霊の俺が死んでも、地球で本当の俺が生きてて寝てるだけだし。リズは死んだらお終いだ。二度と会えない。こんな事言ってもリズを困らせるだけか。


「だったらリズが体張る必要無かったんじゃないの?リズが死んだら、意味ないんだからさ」


 でも抑えきれずにいらない言葉が出てしまった。やっぱりリズは困った顔をしていた。 









 騎士達を呼んで爆心地の様子を見せることになった。到着するなり、オジクス達の死体を見ては各々何かを感じ取っていた。話は殿下の本陣まで伝わり、大勢で見に行くことになった。夜になり、今では決闘の地でお祭り騒ぎになっている。俺はそういう気分では無かったので、そっちはリズに任せて本陣でブラブラしていた。


「一日中不貞腐れまくっちゃって、自分でも嫌になりますよ」

「そんなことはない。君は親友思いの良い精霊だ」


 ひょんなことからアストリッド殿下と並んで座って、お茶を飲んでいる。ユーニスという従者さんも含めて、この場には三人しかいない。俺が高校二年生で十六歳だが、アストリッド殿下は十七歳、ユーニスさんは十八歳だった。ちなみに俺の年齢は言っていない。

 今は決闘の話を聞かれている。二人とも美人なので、ついつい話が進んでしまう。


「君とエズリーズは、いつ出会ったんだい?精霊が一人旅とは珍しい。二人とも契約者がいないんだろう?」

「リズとは十年以上前に知り合ったんです。俺はこっから遠い所に住んでいたのですが、そこで出会ったんです」


 俺は東の方を指差す。この世界に日本は無いのだが、日本とはそういうものだ。森林の遥か彼方を、アストリッド殿下は眺めている。


「そういうわけで俺はこの世界を何も知らないんですよ。あなたがどこかの国の王女ということも知らなくて」

「私はそういう扱いをされるのは好きじゃないんだ。殿下、なんてのもやめてくれ。私のことはアストリッドでいい」


 こっちを見て真顔で言って来た。自分でも分かるくらい心臓の鼓動が早くなっている……


「ありがとう」


 と礼だけ言ったが、沈黙が生まれてしまう。ダメだリズ、今すぐ謝るし許すからマジで今すぐ帰ってきてくれ……


「私もお話を聞きたいのですが、宜しいでしょうか?」


 後ろに居たユーニスさんが切り出してきた。どうぞどうぞと話を進めてもらう。


「オジクスを倒した魔法というのは、ワタル様が考えたのでしょうか?」


 オジクスは、リズと共同で放った魔法によって倒したと言ってある。ここは中世ヨーロッパじゃなくて銃弾飛び交う近代であるが、大規模爆風兵器なんて言っても分かんないだろうし。実際、リズと二人で放った魔法である。


「俺達が考えた魔法じゃない。それしか言えないかな」


 とりあえずお茶を濁す。


「そう言われると、人間知りたくなってしまうものですね」


 ユーニスさんにそう言われても、俺も知らないしなぁ。この世界の人達は詠唱とか無しで魔法を使うが、魔法というものは理解していないと使えないものなのだろうか。精霊である俺は、それすら分からない。


「ユーニス、お客様だぞ。お客様を困らせてどうする」


 ユーニスさんに謝られるが、アストリッド殿下も特に厳しく叱るわけでもない。


「殿下、別に謝るほどのことではありませんよ」


「いや、気分を害してすまない。君は今回の戦いの英雄だよ。私達二人とも、あの爆発を見ていた。戦いの時間は知らされていたから、私だけでなくここに居た全ての者達が見ていた。オジクス含めた邪龍六体を二人で相手取り倒してしまうなど、カエルラ近衛騎士団でも出来ない偉業だ。分かるだろう?皆、君に興味津々なんだ。だから許してくれないだろうか」


 この美貌で迫られると、男の子はノーとは言えない。うーむこの人には敵いそうにない。


「それと、私のことはアストリッドで構わない」


 またそこを突っ込んでくるか。


「わかりました。ミス・アストリッド」


 殿下が渋い顔をしてくる。どうすりゃいいんだ。ユーニスさんは笑い出した。これこそ失礼ですよ、殿下。


「ア……ァストリッド……」


 二人とも笑い出してしまった。初心な男心をからかって楽しんでるよ、トホホ。


「私のこともユーニスで構いませんので」

「だったらユーニスも俺のことを渉と呼んでください。約束ですよ」

「分かりましたワタル。これで構いませんね?」


 片目でウィンクされる。堪らずアストリッドに向き直る。


「アストリッド、これからはアストリッドと呼びます。これでいいんですね。でも人前ではマズいでしょう。あなたは将来ライゼンリードの女王になるんだから」

「名前で呼んでくれと言っただろう?まだ王ではないからな。王族なんて沢山いるさ。それに、ワタルは私が王になっても名前で呼ぶことを許す。いや、名前で呼ばなくてはならない」


 気に入ってくれたのかな。まぁそこは素直にうれしいところだ。


「分かったよ。アストリッド」


 それにしても凛々しい顔に見合わずお茶目なお姫様だことだ。ともあれ、仲良くやっていけそうな気がする。



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