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5 母の力

 決闘にはいろいろと条件を付けた。例えば、決闘は俺かオジクスが死んだらその時点で終了だ。決闘は三日後の同じ時間で、そうでなくても何らかの返事をお願いしている。


 もちろん全てオジクスと結んだ訳ではなく、ソカーニルに伝えた内容だ。あとはソカーニルが連れてくるのを待つだけ。陣地から離れて、俺とリズはだらだら過ごした。今はソカーニルが行ってから一日ほど経っている。




「決闘の準備はよろしいのですか?」


 アントワーヌが草むらの上で考え事をしていた俺たちに話しかけてきた。本陣から様子を見に来たようだ。ステファンも一緒に来たようで、少し離れたところに停めてあるハンビーを覗いている。


 ステファンは英語も使えるのだが、彼とはあまり話したことがなく、挨拶ぐらいしかしていない。フランス人(正確にはカエルラ人だが)にしては寡黙な人物に見える。


「俺は決闘なんかしたことない。どれだけ準備すればいいのか分からないよ。ミスターアントワーヌはしたことあるんですか?」


 質問に対して質問で返した。


「私はないですね」


 アントワーヌは信頼できる人物だ。一九歳という、若くして派遣軍団の長を任されたにもかかわらず、紳士的な態度で他国の人物と接している。自国の騎士たちにも、見ている感じ怒鳴りつけたりしない。


「ステファンには決闘の経験があります。聞いてみますか?」


 アントワーヌと同じ一九歳のステファンは、決闘をしたことがあるという。アントワーヌとステファンは同年代で仲が良い。俺からすれば二人とも年上だ。折角なので話を聞くことにした。要約すると、下級貴族のステファンが、上流貴族の坊ちゃんにケチ付けられて学校内で行った決闘らしい。当時まだ一三歳だったそうだ。真剣のレイピアで行った決闘で、ステファンは相手の突きや切込みを全て受け止め、首元にレイピアを突き付けて勝つという、見事な勝ち方をしたそうだ。


「アイツは剣士の名家のくせに、首元にレイピアを突き付けられて降参した。ヤツは俺に勝つ気合も自信もあったし、レイピアの基本も一応身についていた。だがそれだけだったんだよ」


 ステファンは淡々と切り捨てるように語った。


「本当に見事な戦いだった。あれ以降、尊敬と畏怖の念でステファンは避けられるようになったのですがね。私は逆に、そこから仲良くなったんです」

「俺は元々ダチ公なんか作っていなかったけどな」


 アントワーヌは大公家のご子息だとか。要はカエルラ王族の血筋か、それじゃなくても上流貴族の中の上流だ。二人は身分も性格も違うけど、こうして知り合ったんだな。


「オジクスと戦って、俺も仲良くなれたらいいんですどね~」


 俺の呟きに、二人は大笑いしてくれた。











 ソカーニルが行ってから三日経った。約束の時間までもう少し。


 射撃訓練、近接戦闘、どちらも数日で一流の兵士まで伸びるわけではないが、一応やった。アントワーヌから、邪龍と戦った騎士たちの話や、オジクスと戦った生き残りの話を聞くこともできた。その上で、リズと二人で作戦を練った。初手必殺のプランA、本格的な戦いに巻き込まれるプランB。基本的にこの二つだろう。決闘のルール変更なんかを求められたら、臨機応変に対応するしかない。



 今日は来客お断りで、丘の上にいるのは俺とリズだけだ。ステファンら各国の騎士らが見学を希望していたのだが、戦闘に巻き込まれる可能性が高いため数キロ先にいる。そのまた先にある本陣では、アストリッド殿下らが臨戦態勢をとっている。


「渉、来たよ。三時の方向」


 時間をキッチリ守るんだな。止めているハンビーの進行方向で三時の方向を見る。目視では分からなかったので双眼鏡で覗くと確認できた。白龍が一と、邪龍と思わしき小型の姿が六見える。数は最小限だが油断はできない。錬金術で以前のM4と同じものを作り出した。


「リズは?そのライフルでいいの?」


 リズは以前作ったライフルをずっと持っている。射撃練習のたびにメンテナンスして、可愛がっているようだ。


「これで良いよ。邪龍にこいつが効くと思うし」


 リズはMk11を背負い、手に持った弾丸を俺に見せた。リズが自作した弾丸ハンドロードだ。ボディーアーマーやら鉄の塊やらに試し撃ちを繰り返して作ったリズの対邪龍特製弾である(まぁ殆ど米軍の徹甲弾なんだが)。






 邪龍とソカーニルが俺たちの前に降りてきた。邪龍は身長180センチ以上だろうか。既に成長期を終えた約175センチの俺よりデカそう。その中でもオジクスはひと際デカい。下手すりゃ3メートル近いんじゃないだろうか。


 オジクスは単にデカイだけじゃない。人間の原型が分かる顔立ちをした他の邪龍に比べ、オジクスの顔立ちはドラゴンそのものだ。山羊頭の悪魔を想起するような恐怖感に駆られる。オジクスを含めて六体いる邪龍たちの後ろには、白き巨大な龍が静かにこちらを見つめている。


「お待たせして悪かったね」


 邪龍たちと短い間睨み合いをしていたが、やっと少女の姿をしたソカーニルが割って入ってきた。約束の時間はまだ過ぎていない。待たせたのは三日間のことなのか、それともこの数十秒のことなのか。


「時間通りなので安心したよ。さっそくで悪いんだけど、条件は伝えたままでいいのかな?」

「オジクスは君たちと結んだ条件で受けるそうだよ」


 それを聞いてリズをチラ見した。反応は特に示さず、ポーカーフェースの大精霊モードだった。


「こちらは私と渉の二人がお相手する。そちらはどうするのかな?」

「私以外の邪龍六人。でも基本的にオジクス一人が戦うことになっている。他の邪龍たちは、面白そうなら参加したいそうだ。それでも構わないのかな?」


 面白そうなら参加したいか、まぁなるほど。リズに、俺は構わないと目線だけ送った。


「それでいい」


 リズが答えた。ソカーニルが振り返る。白い髪が綺麗だ。


 邪龍たちは体を動かしたり、声を上げたりし始めた。ソカーニルは何も喋っていないが、邪龍と明らかにコミュニケーションをとっている。アニメでよくある念話か何かだろう。オジクスだけは全く動かず、腕を組んで仁王立ちしている。アウトロー集団と硬派なリーダー、という構図が俺の中で浮かんできた。


「決闘の合図はどうする?ソカーニルが行うようにするか?俺たちはそれで構わないけど」

「大妖精エズリーズは初手で一撃を繰り出す、と言っていただろう。オジクスとは、それを開始の合図にするかと相談しておいたが」


 話を聞くとオジクスはそれを望んでいるらしい。()()をマトモに受けてくれるのね。開幕に必殺技を許すなんて、本当にリズの言ってた通りになったな。返答はリズに任せた。


「分かった。私たちは上空から一撃を放つ。それを開始の合図としよう」


 ソカーニルが振り返る。オジクスは首を縦に振っていた。普通に肯定と捉えていいのかな。


「オジクスも了承した。さて、私はどうすればいいかな」


 リズが返答する。


「私たちの決闘を見届けている者らがあっちの方にいる。ちょっと遠いんだが、決闘が始まるのを伝えてくれると助かるかな。特等席とは言えないが、アルビオンの連中(イギリス人)が紅茶とスコーンを出してくれる」


 ソカーニルはそれに賛同した。オジクスも同意したようだ。少しの静寂の後、ソカーニルは龍の姿に戻って去っていった。


「渉、行くよ」


 リズが上昇していく。俺はオジクスを一瞥(いちべつ)した後、リズを追う。オジクスは相変わらず仁王立ちで俺たちを見送った。


「私はここでいい。渉はもっと上空に行って。私は大丈夫だから」


 約150メートル上空でリズが位置につく。最低限の訓練はやった。後はぶっつけ本番だ。


「大丈夫か?リズ」

「大丈夫。終わったらそっちに行くから」


 セリフがバッドエンドのテンプレで怖い。だが俺はリズを信じる。リズよりも遥か上空へ行く。PDA(軍用端末)で位置を確認し、無線機でリズに位置についたことを知らせた。いつでもいいと返事が返ってくる。


「…………はぁ。頼むぞ。リズ」


 深呼吸をして息を整える。地上にいるときに作っておいた鉄球を五個取り出して浮かせた。


 巨大な『錬金術師の工房』を目の前の空間に作り出し、鉄球を工房に入れる。工房内で鉄球を砂状に変換しながら目的のものを作り出す。大規模爆風兵器(Massive Ordnance Air Blast)、アルファベットを略してMOAB(モアブ)、すべての爆弾の母と呼ばれる兵器である。長さ約九メートル、重さ約十トンと言われる巨大な爆弾だ。


「行ってこい!」


 作り出したMOABを睨み、そして落とした。後の誘導はリズに任せる。俺は、全力で騎士たちの待機している方向へ逃げ出した。

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