表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/54

4 異世界昔話 下

「何百年も前の話と聞いているけどな。結局ドラゴンと邪龍はどうなったんだ?俺はこの世界に生まれて間もないから何もわからないんだわ」


 ソカーニルとリズの異世界昔話の結末を知らないのは俺だけだ。ソカーニルが、戦わなければ邪龍に滅ぼされると言っていた事から、ダークエルフがドラゴン狩りのために生み出した邪龍は、やはりドラゴンの天敵であり、未だにドラゴンを苦しめているのだろう。現状では兵隊として送り込まれているので、支配されている感じだろうか。一方のソカーニルは


「お前は大精霊なのに生まれて間もないのか?」


 と、目を丸くした。俺は魂魄結晶で大精霊になったわけだが、本来なら精霊が誕生するのには果てしなく長い時間がかかる。微弱な意識しか持たない精霊が、人間のように行動する大精霊となるにはこれまた時間がかかる。


 そういうソカーニルもドラゴンなのに精霊である。


「俺は本当にこの世界に生まれたばかりで右も左もわからないのさ。正直、人間の味方をしているのも知り合いの精霊であるリズの頼みだからだ。君こそどうなんだ?君はドラゴンなんだろう?なのに何故俺たちと同じ精霊なんだ?」


 俺は嘘は全く言っていない。基本的に嘘はつかない主義だ。精霊は悠久の存在だから、精霊によっては「生まれたばかり」と言っても百年やそれ以上の可能性もありうる。ソカーニルは少し長く考え込んだ。


「私は一人の人間に出会ってな。一人の人間の少女だ。その子が私に精霊としての姿を与えてくれたのだ。私の精霊としての肉体は彼女の肉体そのもの。私は(ドラゴン)としての肉体と、人間の少女の肉体という二つを持っているのだ」


 ソカーニルは人間の少女が自分を精霊にしたのだという。少女が龍を少女に……異世界はなんでもありだな。地球なら完全にほら話だ。


「彼女は既に死んでしまっている。瀕死の彼女が、最後に私に肉体を預けてくれたんだ」


 ソカーニルは遠い空を仰いだ。その表情を見た俺とリズは、これ以上聞くのを躊躇ってしまった。ソカーニルは悪い奴じゃない気がした。お互い敵同士であるので、これが向こうの作戦である可能性はもちろんあるが。


 ついつい話が二転三転して世界史やら出生の話とかになってしまった。こういうのって敵同士で親睦を深めるのにいいのかもしれないが。ここまで話していたところで、アストリッド殿下が現れた。ソカーニルはドラゴンの姿のままだ。アストリッド殿下お付きの騎士たちは各々得物を構えて即応態勢をとっている。アストリッド自身は武器を手に持たず、物怖じしない態度で現れた。


「殿下が現れたからそちらと話すといい。彼女が人間たちの指揮官だ」


 ソカーニルは改めてアストリッドを一瞥いちべつした。ソカーニルに人間の姿の方が話しやすいだろうか、と問われて、俺は恐らくそのほうがいいだろうと首を振ってのみ答えた。ソカーニルは改めて人間の姿になった。アストリッドと騎士たちは、俺とリズのように一瞬の出来事に驚いていた。









「これ以上の戦闘は望まないと。それは邪龍を除いた全魔族軍の総意であるのだな」


 アストリッド殿下にこれまでの経緯を説明した。今はソカーニルの提案について話し合われている。


「そうだ。我々ドラゴン以外の魔族もこの戦いに嫌気がさしている。彼らは私の操る魔獣に、戦いを強いられているに過ぎない。そして私自身は、元から戦いを望んでいない」

「つまり君はどうしたいのかね」

「アダマス海南部から邪龍の監督役を派遣させる。私が向こうに行って話をつけてくる。その邪龍の指揮する魔族と決戦を行い、諸君らには勝ってもらいたい」


 なんか話が飛躍している気が……アストリッドも困惑しているようだ。


「決戦?……邪龍に戦いを見せてどうなるというのだ」


「邪龍達にこの戦争に勝ち目がないことをはっきりさせる。そうしなければ、奴らは戦いを止めない」


 うーむ……戦いを止めるために邪龍を倒せと。とりあえずそういうことらしい。俺としては、戦いたくないなら自分で何とかしてほしいんだが。ソカーニルが魔獣を操ったり、仲間のドラゴンと協力して邪龍を殲滅してくれるのがベストだろうか。だが戦力がどんな感じなのか分からないので、どうなるのか俺には想像できない。


「邪龍ってのはどれくら強いんだ?」


 殿下に失礼を承知で会話に割り込む。俺の質問に対し、アントワーヌという騎士が喋り始めた。


「邪龍は翼を持ち空を飛ぶ。身体能力でも魔力でも、人間を遥かに凌いでいる。奴等の繰り出す一撃は、人間では一溜まりもない。鉄のように固い皮膚で覆われているにもかかわらず非常に俊敏だ。魔力はドラゴン由来で容量が大きく、なおかつ無尽蔵に湧く。そのうえ広範囲の精霊魔法も使いこなす。言ってみれば本物のバケモノだ。唯一の弱点は、知能が低く抑えられているくらいだろう」


 彼はカエルラの騎士団長だったはずだ。騎士として自分が聞き及んだことを話してくれたのだろう。


 アントワーヌの説明を聞いて分かったのは、とりあえず人間じゃ勝てないってことだった。邪龍は何体も討ち取られているという話を聞いていたので、多少ながら楽観していたんだが……南部戦線には邪龍が現れていて、カエルラ帝国の騎士たちは何度も討ち取っているという。人間の騎士団らしいけど本当に人間辞めてる連中なんだろうな。


 それと、リズいわく、知能が抑えられているというのはどちらかと言えば感情が抑えられていることらしい。食欲や性欲みたいな欲望とか、楽しいや苦しいみたいな感情も乏しいみたいだ。口はあるけどあまり喋らず、念話でコミュニケーションをとっているという噂がある。そこら辺は兵器としての扱いやすさの為なのだろう。


「この場にいる中で、その邪龍を倒せる人は居るんですか?」


 俺の質問に色よい返事は帰ってこなかった。短い沈黙の後


「君に倒す自信はあるかね?」


 と逆にアントワーヌに返されてしまった。どうなんだろうか。騎士達が倒せるなら、大口径の火器とか、ドラゴンみたいに対戦車ミサイルなんかが当たれば倒せそうではあるが。困った時にはリズを見るようにしている。


「渉なら倒せるよ。私でも、渉と協力すれば倒せる」


 皆から感嘆の声が上がった。正直、俺自身は確信が持てない。リズは邪龍と戦ったことがあるんだろうか……


「なら話は早い。私が邪龍を呼んでくるから君たちが倒してくれ。オジクスと呼ばれる邪龍の支配者がいる。奴を倒せば、この戦いは終わるはずだ」


 また飛躍してるよな。しかも俺が巻きまれている。これには思わず苦笑いである。とりあえず今すぐ否定はしたくない。邪龍の支配者というと、一番強い邪龍、みたいな感じだろうか。人間の強さが個々によって差があるように、邪龍もそうであるはずだ。などと考えていると、アントワーヌの目の色が変わっていることに気づいた。


「オジクスは我らカエルラ騎士団も倒せなかった強敵。奴がこの戦いの原因であるというのは、カエルラの方でも掴んでおります」


 カエルラ帝国はオジクスと戦ったらしい。どのような過程があったのか分からないが、倒すことは出来なかったようだ。やはり並みの邪龍ではないのだろう。


「ソカニールは俺とリズが前回戦っていたのを見ていたのか?」

「その場には居なかったけれども戦場全体を見ていたよ。一瞬だったから、君たちが何をしたのかはっきりと見てはいないが」


 ソカニールは俺に、君がドラゴンを倒したのかと尋ねていた。


「そのうえで俺たちにオジクスという邪龍と戦って勝てると思っているのか?」

「勝てると思うよ。君たちが勝てば、この戦いは終わる」


 ソカーニルは俺とオジクスを戦わせたいわけだ。彼女の考えがようやく解ってきた。ソカニールは別に俺たちが負けても損はしない立場だ。この戦争では敵同士だしね。一方で、オジクスを筆頭とした邪龍に同族であるドラゴンは無理やり戦わされており、排除したいと思っている。人間が負けようが邪龍が負けようが、ソカーニル達ドラゴンはどちらに転んでも問題ないわけだ。それでよく見ていないのに、俺に太鼓判を押してオジクスと戦わせようとしているのだ。そうなると……


「リズはどう思う?邪龍は俺たちに倒せるって言ったけど、オジクスは倒せると思う?」

「倒せるよ。渉と私たちならね」


 リズはよく解らないけど勝てるという。心の中でズッコケた。皆がいる場で、どうして勝てるのかなんて聞けないっスね。教えてほしいっス、リズさん。とりあえず顔には出さず、腕組みして考えてる感じを出しながら考えてみる。


 リズは俺が使える兵器を知っている。ソカーニルのこの提案は受けるべきか。オジクスはどういう人物なのか。


 その後もリズとソカーニルの会話は続く。ソカーニルは間違いなくオジクスは呼べば来るという。ソカーニルいわく、俺とオジクスの一対一タイマンでもいいし、パーティー組んでオジクスに挑んでもオジクスは構わないらしい。リズは決闘の場所はここがいいと地図を差した。俺たちが陣を敷いている地点からかなり離れている。そして「こちらが初手で最強の一撃を放つ」ことをオジクスに伝えるようソカーニルに言った。それを実行するのは恐らく俺なのだろう。


 リズまでトントン話を進めるので、地図を見ていたが思わず顔を上げた。俺の困っている様子には、指揮官であるアストリッド殿下やアントワーヌを含め、この場の人間は何らかの反応を示した。俺が二人の会話についてけないのがバレバレかな。


「分かった、伝えよう」


 とソカーニルは返答していた。どうも俺の思考回路から話が逸れている。俺は決闘するなんて言ってないがキナ臭い流れだ。決闘を受けるべきか判断材料を集めようとしていたが、リズとソカーニルはやる気満々。その他のメンバーは俺を含め基本的に静観の構えだ。リズの言うように勝てる戦であるならば、ソカーニルの言うように戦いが終わるならば、戦うのはやぶさかではない。要は二人を信じるか信じないかだ。


 リズは勝機を見出した時は突っ走るタイプだったっけ。RTSリアルタイムストラテジーFPSファーストパーソンシューティングゲームをやってる時も、俺が突っ込むリズを全力でサポートしてたな。ソカーニルは人懐っこそうな美少女で、不敵な笑みを終始浮かべているが美少女だ。そこは好印象を持てる。だが本来はドラゴンであり、その体は少女から譲り受けたに過ぎない。このドラゴンが俺を誘い出して殺すための罠ってことも考えられるが……



「ちょっといいかな。リズと二人で話をしたい。それと、その間にこの決闘について受けても良いのか話をまとめておいてほしい」


 アストリッド殿下に視線が集まる。


「私は受けても良いと思っている」


 それだけだがキッパリと彼女は言った。リズと二人で会話してくる許可も取っておいた。


「それでは、決闘を受けるか二人で相談してきます。ソカーニルと皆さんで話を続けていてください」


 最後のはアントワーヌを見ながら答えた。彼は頷いていた。俺たちは空を飛んで、一団から遠ざかる。










「リズ、この話を傍受出来ないように、とか出来る?」

「ソカーニルは精霊魔法の使い手だから、自分の手下の精霊だったり小さなバグズみたいな使い魔を出して盗み聞きすることは可能かな。とりあえずもうちょっと離れようか」


 リズに従ってまた飛ぶ。あっという間だが完全に陣地から離れてしまった。


「平地で隠れる場所は無いからここなら話を聞かれないでしょう。この辺りに私の精霊を巡らせておくね。これで魔法による傍受は出来ないはず」


 リズは特に何もしていないように見える。この辺も、信じるしかない。


「渉も大精霊だからそのうち精霊と仲良くできるよ。そしたら彼らに協力してもらえると思う。私は世界中を旅しているから、世界中の精霊と仲良しなの」


 なるほど、いろいろと合点がいった。あの戦場で野良の精霊は見かけなかった。確かにここら辺なら精霊を感じられる。動物と同じで精霊も争いを避けているのだろう。リズは知り合いが居るところに寄って、盗み聞きされないように見張ってもらってるわけだ。


「リズ、悪い虫はいなさそう?」

「うん。大丈夫そう」


 とりあえず大丈夫そうなので本題に入る。


「リズはオジクスを倒せるって思ってるみたいだけど根拠は?」


 これが解らなきゃ話は進められない。


「オジクスは世界に散らばったドラゴンを狩って力を付けたという放浪の邪龍。力を付けた彼は邪龍の縄張りに戻り、邪龍たちの王になった。私はオジクスと会ったことがあるの。百年も前の話。彼はまだ子供だった。その時すでに数体のドラゴンの力が彼から感じられた。彼は感情の乏しい邪龍の中で、ひと際強い感情を持った子だった。彼は私を倒して力を取り込もうとした。森の中で会うなり、尾行されて、その後襲ってきたの。一撃で倒してあげた」


 リズは神妙な面持ちで語る。


「それがオジクスに勝てると思ってる理由か?」


 リズは首を振る。


「彼はのた打ち回っていた。それで分かったの。彼は負けず嫌い。彼は私のことを覚えてると思う。その私が全力の一撃を繰り出すって言ってるんだから、彼はそれをまともに受けた上で勝とうとするはずだよ。俺はお前を超えたんだってね」


 百年も前のことか。リズはオジクスに会って戦ったことがあった。リズは邪龍という種族にも知識がある。その上でこの結論に至ったと。


「なるほどね。で、繰り出す最強の一撃ってあれか?()()()って事?」

「そう。あの一撃はどうあがいても防ぎきれない。邪龍の繰り出す防御魔法すらも突破してくれるはずだよ」


 リズの話は不確定要素だらけだ。それを俺が嫌いなのは、リズがこの世で一番分かっている。


 オジクスに俺は会ったことがない。リズの考えてる通りになるとは限らない。それに、ここは地球じゃない。魔法なんてものが存在する世界では、科学の世界だった地球と比べて、遥かに不確定要素が増してしまうのは当然だ。俺はこの世界の物差しを知らないのだから。








 俺とリズは戻ってきた。


「受けようと思う。オジクスとの決闘。もちろん、向こうが乗ってくればの話だけど」


 特に反対は無かった。


 俺とリズは、オジクスと決闘することになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ