表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ギルドカードを手に、今日も僕は旅を続ける

作者: 陽乃優一

リハビリ投稿。短編としては無駄に長くなってしまった…。

 神様の手違いで死んでしまった。あの空間の亀裂は想定外だったとかなんとか。

 魂だけが不自然に残ってしまった僕は、神様が創造した別の世界へ転生することになった。

 人生の続きをということで、記憶はそのままに異世界で生まれ変わらせてくれるらしい。


「チート能力、もらえないんですか…」

「すまんのう。物理的な干渉は難しくてな」

「四次g…定番の無限収納も無理そうですね」


 友達は少なく、ラノベやアニメだけが趣味の、冴えない人生だった僕。両親も既に他界していた。

 だから、元の世界に未練はなく、むしろ異世界転生にわくわくさえしたのだけれど…。

 せっかくだから、何かチート特典をもらえないかとあれこれ尋ねてみたものの、なかなか厳しい。


「あと、鑑定の類もダメなんでしたっけか」

「アカシックレコードが関わるからのう」

「ラノベ知識がどこまで使えるかなあ…」


 神様曰く、原則として、精神世界の現象として実現できるものしか与えることができないらしい。

 コンピュータで言えば、ハードウェアやデータベースはダメだけど、プログラムはOKみたいな。


「元の記憶のこともあるからの、言語や知識の習得能力の底上げはしておこう」

「でも、記憶量は変わらないんですよね。それと、筋力とかの肉体能力底上げは物理的だから…」

「無理じゃな。似たような理由で、魔力量にも手が出せぬ。魔剣の類も、世界のバランスを崩すしの」


 今度の世界は誰でも魔法が使えるらしい。魔法自体は他の人より覚えやすくなるようだ。

 でも、魔力量が普通ならどこまでできるのやら。特大ファイアボールひとつ打って終わりじゃなあ。


 うん、ラノベ知識がネガティブな方向に発揮されている。あきらめるしかないか…ん?ラノベ?


「もしかして、冒険者ギルドとかがある世界ですか?」

「あるのう。お主には、中世ヨーロッパ風の剣と魔法の世界、と言えばわかるかの」

「そ、それじゃ、『ギルドカード』下さい!」

「ギルドカード?」


 転生でも転移でも、主人公が手に入れるまで大変面倒なカード。チートがないなら尚更だ。

 しかしひとたび手に入れれば、あらゆる身元確認に使え、銀行カードになったりもする。

 そんなカードがあればどこにでも自由に行ける。ラノベが好きだったのも、旅に憧れていたからだ。


「そのギルドカードか。しかし、今回は転生じゃぞ?生まれた時に身元ははっきりするが」

「だけど、どんな立場になるかはわからないんですよね?リセマラ不可だし」

「リセマラというのはよくわからんが、確かに、辺境の村人や街の孤児となる可能性もあるな」


 それもあるけど、たとえば王族あたりに転生しても、自由が効かず面倒になるのは目に見えている。

 一文無しで飛び出しても、『それ』さえあれば簡単な仕事がすぐ得られるし、街も出入りできる。

 魔法がそこそこ使えることは保証されているし、孤児Aでも家出王族でも暮らしていけるだろう。


「よくわかった。お主が念じれば出現するようにしよう。カード1枚なら物理干渉も可能じゃ」

「ありがとうございます!」

「ついでに、元の世界のお主の所持金を金銭情報として入れておこう。こちらもさほど影響せんしの」


 それほど多くの貯金はなかったけど、現地では物価の違いで相当な額となるらしい。ありがたい。


「名前は自由に設定できるようにした。生年月日と性別は変更できないが、良いかの?」

「はい、大丈夫です」

「こんなところか。では、良き第二の人生を」


 目の前がふっと暗くなり、次いで、意識が遠のいた―――



 夕食の途中、僕は話を切り出す。


「父上、僕も明日で13歳です。以前よりお話していたように…」

「…考えを変える気はないようだな。わかった、旅に出ることを認めよう」

「ありがとうございます!」


 僕は結局、伯爵という割と上位の貴族の子として生まれた。

 エルソード帝国という国家の、帝都に程良く近いラシルト伯爵領。そこの3番目の嫡出子だ。

 嫡男とかではないので伯爵家を継ぐわけではないが、このままだと堅苦しい立場となるだろう。


 ならば、せっかくの『アレ』を使って、前世からの念願である旅に出ることにしたのだ。


「しかし、長くて2年だ。『成人の儀』は受けてもらわねばならぬ。無理にでも連れ戻すぞ」

「わかっております。僕がこの領から出るには、城下町のギルドで登録する必要がありますし」

「そういうことだ。追跡はいつでも可能であることを忘れるな」


 伯爵である父親は、この地域一帯の領主だ。国家を超えるギルドも、地元の権威は無視できない。

 僕が城下町のギルドで登録すれば、その登録情報は父親にもわかる。伯爵家の者としての素性も。


 そう、あくまで『城下町のギルドで登録すれば』の話。僕がそうしないのは言うまでもない。


「本当に、支度金は金貨1枚でいいの?ギルドに振り込めばいくらでも…」

「大丈夫ですよ、母上。人並以上の魔法が使えることは母上も御存知でしょう?すぐ稼ぎますよ」


 とは言ったが、『アレ』の金銭情報はここでは金貨100枚の価値があった。家出するには十分だ。

 なお、金貨1枚あれば、城下町の宿に朝食付で2~3週間は泊まれる。2年どころか5年は籠もれる。

 もちろん、引きこもるつもりは全くない。可能な限り、いろんなところに行ってみたい。


「自衛を考えれば、もうちょっと剣の腕を磨いて欲しかったが…」

「レオネス兄上の剣術にはかないませんよ。魔法もありますし、『魔法剣士』としては十分です」

「剣術と魔法を組み合わせるとはな。身体強化ができるほど魔力がないと知った時は残念だったが」


 魔力量はやはりというか、人並だった。身体強化のためには、魔法技術以前に大量の魔力が必要だ。

 けれども、剣に魔法をかけて強化することはできた。風の魔法を付加すれば切れ味は良くなる。

 ラノベ知識が役に立ったが、一度見られれば真似されるだろう。ユニークというわけではないのだ。


「馬車で旅をするわけではないのでしょう?お洋服数枚なんて、私には耐えられないわあ」

「ミリアナ姉上…」


 残念ながら、時空間が絡む魔法はやはり存在しなかった。収納はもちろん、空間転移系も。


「心配しなくとも、僕は大丈夫です。時々は手紙を送りますから」

「手紙と同時に訃報が届くなどという事態だけは避けるのだぞ」


 通信の類も発達していないから、こういう心配もされる。いくら追跡できると思っていてもね。

 家族に恵まれた立場としては、実は家出同然のつもりであるのは心苦しいのだけれど…。

 前世の記憶がある限り、『二度目の人生』を意識せざるを得ない。まあ、死なないようにはしよう。



 旅に出てから数週間後。僕は既に6つ目の街にたどり着いていた。

 門番に見せるため、ポケットに手を入れて『ギルドカード』を出現させ、取り出して渡す。


「『ユーリ』と言うのか。この街は初めてか?」

「はい。魔物討伐で路銀を稼いで、また次の街に向かおうかと」


 『ユーリ』は、元の世界での名前を現地っぽく改変したものだ。

 転生後の名前とも似ているが、前世の記憶がある僕としては懐かしい『偽名』である。


「ほお、冒険者ギルドだけでなく商業ギルドにも登録しているのか。行商人を兼ねているのだな」


 資金に余裕があるので、街を出る時に塩や胡椒を仕入れ、次の街までの途中の村で物々交換をする。

 もっとも、たくさんの荷物を持って旅をするのは厳しいので、少量の作物との交換がほとんどだ。

 村に留まって魔物退治をすることもあるが、その報酬も一宿一飯で換えるのが定番だ。


「実力はあるようだが…お前のような者が一人旅とはな。危険ではないのか?」

「まあ、無理はしないようにしていますよ。索敵能力は人並以上にありますし」


 これは別にチートではない。風の魔法の応用で、半径1km程度の範囲なら人や獣の気配がわかる。

 この街に来る途中の街道の一部が森の中だったので索敵を続けたら、数多くの集団の気配があった。

 盗賊の可能性もあったから、少し戻って遠回りの街道を使った。3倍ほどの時間がかかったのだが…。


「ああ、そりゃエルフの集落だ。数家族が住んでいる。我々人間にも敵対はしていないな」

「え゛」


 それなら会ってみたかった!また戻るのは時間がかかるし…。チートではないとこうなるか。


「他種族に会ってみたいのか?この街の鍛冶屋のほとんどはドワーフだ。手入れのついでに会えるぞ」


 おお、そうなのか。一応、剣も使っているし、行ってみるかな。買い替えてもいいかも。


「宿屋も数多くあるぞ。メインストリートを歩いていればすぐ見つかる」

「はい、ありがとうございます」


 とはいえ、荷物を減らしたいから、まずは商業ギルドかな。若鶏の胸肉を手に入れたんだよな。

 それなりの値段で売れたら、今晩くらいはいいところに泊まろう。お風呂があるといいなあ。



 早速、商業ギルドで鶏肉を売る。中級宿2晩分になった。ほくほくである。


「なんだと!?銀貨10枚とはどういうことだ!」


 取引額を受け取って去ろうとしたら、横の受付で手続きをしていた男がそんなことを叫んだ。


「こ、これでも、査定額を大幅に見積もったのですが…」

「ふざけるな!俺を誰だと思っている!この街の領主の息子だぞ!」


 どうやら、領主のドラ息子がギルド職員に突っかかっているようだ。ラドリア子爵家だったっけ?

 どこかから手に入れた骨董品を高く売りたいようだけど…ただの土器に見えるな、アレ。


「もう一度、査定をしろ。ほら、やり直しだ」

「そ、そんな…」


 ギルド職員の水晶板に自分のギルドカードをかざし、無理矢理リセットするドラ息子。

 ギルド登録の時と同様、地元の権威は無視できない。貴族階級を意識した権限設定だ。

 おそらく、ここのギルドマスターであっても、この権限は覆せないだろう。


 まだ帝国内だし、伯爵家の子として登録していたら、僕の権限でリセットを無効化できたけど…。


「あの、水晶板貸してもらえますか?僕のカードの登録情報を直接確認したいので」

「は、はい、どうぞ」


 鶏肉を売った受付のギルド職員から水晶板を借りて、ギルドカードをかざす。


「…よし、参照メニューが出た」


 水晶板に、全ての(・・・)設定項目が現れる。


「『ラドリア』は…うん、これか。ぽちっと」


 そうして、まだ隣で水晶板にかざしていたドラ息子のギルドカードそのものを無効化してしまう。


「…!?な、なんだ!?なぜ突然、何も反応しなくなったのだ!?」


 ドラ息子が騒ぎ出す。うん、うまくいった。

 魔力パターンのレベルで無効化したからね、再登録も不可能だろう。


「貴族の誰もがあんな横暴だと思われたら気分悪いもんなあ…やれやれ」


 僕の唯一のチート。神様からもらった、ギルドカード。

 それは、この世のあらゆる認証において、最高権限をもたらしてくれるものだった。

 最初に冒険者ギルドで依頼を受けた時に気づいた。表示がランク度外視でびっくりした。


「ドラゴン討伐さえ受注可能ったって、実力が伴わないし。表示が制御可能で良かったよ」


 カードは登録した魔力パターンで反応し、必要な情報のみ表示する。普段は名前だけだ。

 そして、このギルドカードに限っては、端末である水晶板の表示や機能も制御可能だった。

 最低限の本人確認情報のみとすることもできれば、あらゆる権限を執行することもできた。


「とはいえ、チートで目立つのは避けたいよな。ていうか、バレても説明ができないし」


 こちらの世界では元の世界以上に転生なにそれである。神様がどうのというのもおとぎ話だ。

 仮に問い詰められても知らんぷり。カード機能を制御できる以上、他者には再現不可能だ。


 未だ騒いでいるドラ息子の声を無視して、商業ギルドを出る。いい宿が見つかるといいな。



 良さそうな雰囲気の中級宿を見つけ、2泊分の部屋をとる。

 この世界では珍しく、受付専用のフロントがある。それだけに、身元確認はしっかりやる。


「ユーリ様ですね。ギルドカードはお返しいたします」


 とはいえ、単純な本人確認だ。チートな設定は関係ないが、念のため承認権限を最高にしておく。


「あ、宿泊代もギルドカード経由で…」

「いえ、チェックアウトの際の精算で結構です。お客様のカードならば後払いとなります」


 と思ったら、関係あった。ふむ、今まで比較的安い宿ばかりだったから気づかなかった。

 しかしそうか、無一文でも一応は泊まれて、その間に商品や素材の売上が手に入れば払えるな。

 …ああ、『一文無しで飛び出しても』とは確かに願ったなあ。思い出した思い出した。


「わー、いい眺め!」


 部屋の窓を開けると、城下町と高原が広がっていた。のどかさと街の喧騒が同居している。

 とてもあのドラ息子の子爵家が治めているところとは思えない。領主はまともなのかな?


「ユーリ様、お食事をお持ちいたしました」

「ありがとう…おおお」


 ひさしぶりのごちそうだー。実家の食事も悪くはなかったけど、こちらは山の幸が盛りだくさん。

 ふかふかのパンにフレッシュジュース、山菜をふんだんに使ったメインディッシュ。

 もちろん、前世の料理と比べたらアレだけど、文化が中世ヨーロッパ風って中では大健闘だ。


「父上は鶏肉の唐揚げが好きなんだよなあ。日本人かってくらいに。あの領は地鶏が有名だからかな」


 厳格に見えて割とお人好しな、伯爵家の当主である父上。家を出た時は孤児院の運営に熱心だった。


「温泉はないけどサウナがあるのはいいよね。母上と姉上がお肌スベスベとかってハマってたなあ」


 少し心配性の母上と、ぽわぽわな性格のミリアナ姉上。どちらも箱入りお嬢様の典型である。


「あ、鍛冶屋に行くの忘れないようにしないと。レオネス兄上にもらった剣が錆びついちゃう」


 兄上はさわやかイケメンだけど、剣術バ…剣に熱心だ。次期当主よりも王国騎士団に向いてそう。

 まあ、婚約者のローラさんも一騎当千の魔導士って感じで、お似合いではあるんだけれども.


 前世の人間関係に未練はないけど、今世の家族は大切にしたい。貴族にしては賑やかだけど。


「みんな、今頃どうしているかな…。そろそろ手紙を送ろうかな」


 明日は鍛冶屋と冒険者ギルドに行って、ひと仕事したら手紙を書こう。そう決めて、布団に入った。


「おやすみなさい」



「お父様、大変ですわ!」

「どうしたミリアナ、そんな大声で食堂に飛び込んで来て。そんなことでは、公爵家との縁談が…」

「そんなのどうでもいいですわ!あの子が、街のどのギルドにも登録されていませんの!」

「なんですって、それは本当なの!?」


 ガタガタッ


「そんなバカな!ギルドカードを作らず街を出ることなど出来はしないぞ!」

「でも兄様、先ほど商業ギルドで新作ドレスを買った際に尋ねたら、あの子のことは知らないと…」

「お前、また買ったのか…」

「古いドレスを数着売って買ったのですわ!それで、他のギルドも回ったら、やはり知らないと…」


 ガヤガヤ


「あの子、身分を伏せてギルドに登録したのかしら…」

「だが、あの子の魔力パターンは魔石を使って、全てのギルドに届けてある。偽名は使えん」

「そんな…それじゃあ、一体…」


 コンコン


「旦那様、手紙が届きました」

「手紙…まさか!」


 ガサガサ


「これは、まさしくあの子の字!とりあえず無事のようだ」

「高原の街…もう、そこまでたどり着いたのか」

「でも、それではどうやって旅に…?」


 すくっ


「父上、俺があの子を追いかけて問いただします!行かせて下さい、このままでは…!」

「次期当主が長期不在となるのは問題だが、背に腹は代えられない。行ってくれるか」

「お願いね!私も心配だけど、あの子は多くの領民にも慕われていたから…」

「そうだな。しかしそう考えると、こっそり出奔した方法と理由がますますわからん…」


 ワイワイ


「では、早速明日出立します。馬で高原の街に向かって移動しながら、あの子の情報を収集します!」

「頼むぞ、レオネス!ああ、従者としてローラを必ず連れて行くのだぞ」

「え、いやその、父上、それは…」

「領内でも由緒正しき魔導士の血筋に連なる私が護衛では御不満ですか?レオネス様」


 スタスタ


「ローラ!?し、しかし、いつ戻れるのかわからんのだぞ?」

「レオネス、ローラはお前の婚約者でもあるのだぞ。離れぬ方が良いではないか」

「御配慮、ありがとうございます。さあ、レオネス様、共に旅の支度を」

「あ、ああ…」


 ズルズル


「レオネスも、あの子にばかり構わずローラと懇意にすれば良いものを…」

「あら、父上も、母上よりあの子の料理に夢中ではありませんでしたか?」

「まあ、そうだったわねえ。明日はひさしぶりに料理の腕を振るおうかしら」

「料理長が困惑しない程度にな…」



 高原の街を出発した僕は、更にいくつもの街や村を巡り、古都と通称される街に到着した。

 数百年前までは王国の王都だった街。近隣の王国と連合して帝国となるまでは文明の中心だった。


「あのドラ息子じゃないけど、骨董品か何か手に入るかな。ガラクタかと思ったら古代の…とかね」


 とりあえず、冒険者ギルドに向かってみる。この街の門番さんが各ギルドの場所を教えてくれたし。

 お宝発見なら、商業ギルドよりも冒険者ギルドだよね。遺跡はダンジョン化していることがあるし。

 多くの魔物が住み着いて手付かずとなっている場所が多いとも聞く。ロマンではあるけど…。


「一攫千金を狙うつもりはないし、考古学者でもないし。危険を賭して挑む理由はないなあ」

「ほう、この街の冒険者ギルドの入口でそんなことをつぶやくとは、命知らずな子供だな」

「え?」


 冒険者で賑わっているギルドに到着して、ふとそんなことを口にしたら、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、いかにも冒険者然とした男たちが3人ほど佇んでいる。

 セリフがセリフだから『お約束(テンプレ)?』と思ったが、粗野な感じはしない。むしろ、落ち着いた雰囲気?


「ああ、ごめんなさい。僕は路銀さえ稼げればいいので、攻略には興味がなくって」

「…」

「…?あの、気を悪くしたら謝りますけど…」


 なぜか、3人とも驚いたような顔をしている。はて、なんだろ?

 そういえば、ここまで冒険者がたくさん詰めかけているギルドは初めてかも。

 僕が13歳の子供なのは確かだし、童顔でもあるから、顔を見て場違い感が増したのかな。


「あ、ああ、いや、すまん。もしかして、ギルドには護衛依頼か何かで来たのか?」

「いえ、発掘調査を兼ねた簡単な魔物討伐の依頼がないかなと。一応、魔法剣士なので」

「魔法剣士…お前、名前は?」


 う、もしかして。


「ユーリ、といいますけど…。これ、ギルドカードです」

「…そうか。いや、少し前に冒険者ギルドに捜索依頼が入ってな。特徴がお前によく似ている」

「はあ…」


 うーん、もうバレたのか。手紙を送れば安心すると思ったけど、逆効果だったのかな。


「ソロの魔法剣士と言っていたのだが、カードの名前が全く違う以上は…お前に心当たりは?」

「いえ、全然ありません。魔法剣士自体少ないですから、一度会ってみたいものですが」

「確かに、珍しいな。…そうだ、一回だけ、俺達と組まないか?さほど危険はないはずだ」


 え?



 冒険者ギルド併設の食堂で話を聞くことにした。組むこと自体は悪い話ではないからね。


 主に僕に話しかけていたのは、3人組のリーダーだった。21歳で、名前はケンジ。…ケンジ?


「俺はマサト。魔導士をやっている」

「セイヤだ。重騎士…まあ、盾役だな」

「そして俺が剣士だ。バランスいいだろ?」

「…ですね」


 ああ、訊きたい尋ねたい問いかけたい。『あなた達、日本から来たの?』って。

 でも、こちらからそれを尋ねたら、最終的には洗いざらい話すことになりそうなのがなあ。

 そう、ギルドカードのことを含めて。唯一のチートをうかつに喋るわけにはいかない。


「実は俺達、半年ほど前にこの街の領主に召k…招待されてな。その関係で、ある魔道具(アーティファクト)を探している」


 はい、確定。そーですか、異世界召喚ですか。しかし神様、物理的な干渉はできなかったんじゃ。

 ん?神様じゃなくて、この世界の誰かが直接召喚した?なんか、そんなラノベがあったような。


「アーティファクト?」

「ああ。それがあると、異世界…遠い場所に一瞬で行けるらしい。転移門、だったか?」

「それだと、同じ世界の移動になっちまう。異界門?次元門?そんな感じ」


 ああ、元の世界に戻りたいのね。いやまあ、普通はそうか。

 みんな同い年の仲間みたいだし…大学生かな。一応、ラノベ知識もあるようだ。

 でも、時間軸が同じなら、僕が転生してから13年以上経っている。まだ異世界モノ流行ってるの?


「この半年、短いようで長かった…。無限収納、便利だけど、要は運送業だよな」

「万能鑑定もロクなことなかったぞ?知りたくもない情報を知っちまうからな」

「魔力量∞もなあ。いつまでも身体強化すると、その後の反動で体が動かなくなるし」


 異世界転移でチートしっかり身についてるし!しかも、僕がもともと欲しかったのばかり!えー。

 っていうか、もっとうまく使えるはずだよ?手ぶらで旅ができたり、高速歩行で旅ができたり…。

 あれ?旅のことばっかだ。この街でずっと暮らしていたなら、残念な結果だったのかな。


「すまん、変な話になったな。とにかく、そいつがあれば、俺達はすぐに故郷に帰れるんだ」

「一方通行だけどな。まあ、領主には引き換えに現代技術を伝えたけど」

「技術って、紙飛行機折っただけだろ?グライダー作ったら腰抜かしてたけど」


 コスパ良すぎ!なに、それなら今から僕にもできるじゃん。うーむ。


 いかん、いつまでも聞き入ってたら逆に怪しまれる。そろそろ本題に。


「えっと、よくわかりませんが、とにかくそのアーティファクトを手に入れる手伝いをしてくれと」

「ああ。俺達、なぜか魔法付与ができないんだ。魔法剣士なら、剣に魔法を付与できるだろ?」

「付与…ああ、確かに、剣や杖にいろんな魔法をまとわりつかせることはできますね」


 なるほど、チートが身につく代わりに、簡単に出来そうなことができないのか。魔力の定着とか。

 ちなみに、彼らの口元を意識してよく見ると、口の動きと声が全く一致していない。自動翻訳か。

 異世界に無理矢理転移するって、こういうことなのかな。便利なだけでなく、弊害も多そうだ。


「なぜか魔法付与の考え方自体が普及してなくてなあ。魔法剣士の話を聞いて、それで声をかけた」

「魔道具はある遺跡の奥にあるんだが、いくつもの門があって、魔力を込めないと開かないっていう」

「で、普通に魔導士に頼むと、奥に着く前に魔力が尽きちまうんだ。魔法付与なら、と思ってな」


 まあ、いいか、協力しよう。元の世界に帰りたくて帰れるのなら、それに越したことはないし。


「わかりました、臨時でパーティを組みます。報酬は…途中で見つかった遺物の一部で」

「ああ、いいぜ。おっしゃー、ようやく帰れる!」

「うおー、居酒屋が俺達を待っている!」

「帰ったら宴会だな!」


 フラグ立てないでよ。



「間違いない!これまでの証言を合わせれば、あの子は今、古都にいるはず…!」

「おーい、騎士様、鶏肉の唐揚げってのはこれでいいのか?」

「おお、すまんな店主、わざわざ作ってもらって」


 もぐもぐ


「むう…カラっとしていないし、柔らかくもない…」

「何言ってんですか、中はカリカリ、皮は柔らかいじゃないですかい」

「違う、違うんだ…。ああ、あの味と歯ごたえ、世界広しと言えど、あの子にしか出せないのか…」


 ぐびぐび


「レオネス様、そろそろお休みになられては。明日も早いのですから」

「そ、そうだな、確実に追いつかないと…」

「…唐揚げは、私が宿の厨房で魔法で揚げ直してみますので。明日の朝、一緒に食べましょう」

「うむ…」


 ちびちび


「本当に、あの方のこととなると、いつも…」



「うんめー!なつかしー!」

「マジ唐揚げじゃねえか!なあ、これどこで覚えたんだ!?」

「え、あ、旅の途中で、ある村の人に…」


 うむ、日本人にはやはり唐揚げがウケる。遺跡に入る前に宿の厨房でお昼用に用意して良かった。

 まあ、父上も好物だけど。あと、兄上や出入りの商人さんも。城下町で評判になったとかなんとか。


「偶然かな?それとも、俺達の他にも…」

「偶然じゃね?そんなに複雑な料理じゃないし」

「でも、俺達誰も作れねえよな?」


 ふっふっふ、コツがあるのですよ。こう、油で揚げる時のね。


「ごっそさん。さて、先に進もう」

「そうだな。今日中に帰りたいものだよ」


 そういえば、その魔道具を使えば僕も『帰れる』んだろうか。まあ、帰るつもりはないけど。

 一方通行じゃなきゃ、いろいろ便利そうなんだけど。いくつかあったよね、行ったり来たりの作品。


「よし、次の門が最後だ…おっと」


 レッドウルフ が 現れた!


 ざしゅっ


「おい、まだ気を抜くなよ。ふんっ!」


 キングスライム が 現れた!


 キンッ

 カンッ、カンッ


「『ファイヤーアロー』!」


 ぼっ

 しゅううう…


 うん、見事に瞬殺。さすがチート。


「よし。じゃあ、ユーリ、頼む」

「はい」


 門に魔力を込める…のではなく、効果が持続するよう、文字通り『付加』する。

 この世界の魔法使いなら誰でもできそうだけど、付加のイメージがどうにも思い浮かばないらしい。

 魔法は魔法、道具は道具。固定観念が浸透してしまっているようだ。


「よし、開いた…おお」


 そこには、一際大きい門が佇んでいた。いや、大き過ぎるよ!三階建の建物くらいの高さだよ。

 そして、門にも関わらず、行き止まりの壁を背にして据えられているだけ。なんとも奇妙である。


「さて、『渡り人』の伝承通りなら、俺達が開けようとさえすれば機能するはず…」


 ああ、そういう仕組みか。じゃあ、僕には開けられないし通れないかも。


 ギギィ…


「『ふふ、ふふふふ、ふははははは!』」


 な、なに!?この、頭に響くような声!


「なんだ!?門の向こうから何か出てくるぞ!?」

「あれは…え、ド、ドラゴン!?」

「そんな…なんで…!?」


 門から、いかにもドラゴンですよって姿の、大きなトカゲが現れた。ドスン、ドスンと大地が響く。


「ようやく『魔界門』を開けてくれたな。礼を言う、異世界の者達よ」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


「なんだ!?この地響きは!?」


 ザザッ


「おい、門番!古都で何が起きている!?」

「お、俺にも分からねえ!急に、遺跡の方から…!」

「まさか、あの子も巻き込まれているのか…!?」


 ダッ


「お待ち下さい、レオネス様!まずは、状況確認を!」

「そんな悠長なことを言っている場合か!危険だと言うなら、ローラはここに残れ!」

「…私も行きます。街の反対側の郊外の遺跡から聞こえているようです。馬を借りましょう」

「よし、急げ!」



「バカな!異界門とかじゃなかったのか!?」

「ふん、魔界も異界のひとつだろう。(いにしえ)の召喚勇者によって作られた、狭い空間だがな」


 えーと、これはアレか。ドラゴン退治で召喚されたけど倒せなくって、チートで封印したっていう?

 時空魔法の持ち主だったのかな。それで、封印のための空間と門を作り出したとか。

 あれ、もしそうなら…。


()の世界に戻りたければ戻るがいい。この空間の向こう側に、お前達の世界があるはずだ」

「そうなのか!?」

彼方(かなた)此方(こなた)の狭間に作られたのが魔界。我は大き過ぎて、彼方には渡れぬがな」


 渡ったらリアル怪獣映画だよ!東京が火の海だよ!

 いや、僕としては、今住んでいるこの世界のことを心配しないと。


「みなさん、早く門を通って元の世界に!その後、僕が扉を閉めますから!」

「い、いや、しかし…って、ユーリ、『元の世界』を理解していたのか!?」

「いいから、早く!門が使えるみなさんを、ドラゴンがいつまでも見逃すはずはありませんから!」


 3人がこの世界に留まれば、門はいつでも開くことができる。

 それはつまり、ドラゴンを再び門の向こうに追いやることができることを意味する。

 そんな3人を、ドラゴンがこの世界でいつまでも生かしておくとは思えない。この場で始末される。


「…っ!わ、わかった。おい、二人とも、行くぞ!」

「あ、ああ…。ユーリ、生き延びろよ!」

「絶対だぞ!お前を犠牲にして帰還したなんて、後味悪過ぎるからな!」


 そう言って、門に入っていく3人。


 パタン、と扉を閉める。


 …うん、最後まで、僕の前世のことを伝えずに済んだ。


「…貴様、どういうつもりだ?」

「…何が?」

「我をどうにかしたいのなら、あの者達のひとりでも残そうとするはずだ。なぜ、あっさり帰した?」


 そうだね。そう、思うよね。


 うん。それはね、


「あの人達は、この世界の存在じゃない。この世界のことは、この世界の住人がなんとかするべき」

「見くびられたものだな。我を、この世の理だけで制することなど出来はしない!」

「かも…ね!」


 ダッ


「ふん、どこに逃げても、我は好きに動く。生きとし生けるもの全てを蹂躙し、略奪し、支配する!」


 ドラゴンの口から『ブレス』が発動しようとしている。異界門を含めて遺跡を壊す気だ!



 タッタッタッタッ


 いくつもの門を逆にたどり、遺跡の入口に向かう。

 身体強化できない身では辛い!レオネス兄上のようにはいかないか。


 とにかく、なんとかしてドラゴンの…


 ゴオッ


 巨大な炎が迫ってくる!あともう少しで入口なのに―――


「『風よ、我らが盾となれ!』」


 シュバッ


 僕の後ろに幅広くて厚い空気の壁が現れ、炎の流出が防がれる。この魔法は!?


「ローラさん!?なぜここに!」

「レオネス様と共に、あなたを探しに来たに決まっているでしょう!」

「あ、やっぱり?」


 そっかー、やっぱりバレたのかー。さーて、どうやって誤魔化そう。


 って、そんなこと考えてる余裕はない!遺跡が崩れて、ドラゴンが現れる!


「『ゴアアアアアアア!』」


 全身を現したドラゴンが咆哮を上げる。

 このまま街に向かっていったらヤバい!


「うおおおおお!」


 馬から飛び降りた銀色の塊が、ドラゴンに向かっていく!

 あ、鎧に身を固めたレオネス兄上だ。


 ザシュッ


「ぐはっ!?バカな、羽根を貫いた、だと…!?」


 ああうん、兄上の剣って神剣だからね。

 我が伯爵家に伝わる、その昔、世界を覆った危機を克服するため神より授かった…。


「そ、その剣、我を魔界に追いやった召喚勇者が使っていた…!?」


 …おおう。ウチって、召喚勇者の血筋だったのか。元の世界に戻らなかったのかな。


「『悪しき魂よ、闇に帰せ!』」


 ボフッ

 シュウウウ…!


 ローラさんの詠唱で、黒いもやのような塊がドラゴンの周囲にいくつも現れる。

 あれって…小型ブラックホール?すごいな、おい。


「ぐあああっ!?か、体の一部が、魔界に引きずられる…!?」


 なるほど、んでもってローラさんちも召喚勇者の末裔っと。あの門、御先祖様が作ったのかな。


「戻らぬ…戻らぬぞ!故郷の世界と同様、あらゆるものを食らい尽くすまではな!」


 ちょっと待った。ドラゴンさん、あんたも異世界人、じゃなかった、異世界転移した竜だったん?

 あー、そういえば、こっちの世界の竜種ってここまで強いブレス吐かないって聞いたなあ。


 え、なに、じゃあ、みんな異世界転移チート持ってたの?転生した僕だけがないの?しょぼんぬ。


「このまま戻るくらいなら、力尽きるまで蹂躙し続けてくれるわ!『風よ、我を天空に導け!』」


 浮いた!?

 ドラゴンは羽根じゃなくて魔法で飛ぶって本当だったんだなあ…じゃない!


「群れなす人間共よ、我が渾身の咆哮を受けて消え去るがいい!」


 上空のドラゴンの口に光が集まる。

 炎じゃない!輝く雷光が放たれようとしている!


 カッ


 古都全体が、まばゆい光に包まれ―――



 なーんて、ね。


「あ、あれ?あの子はどこに!?」

「レオネス様、あそこ!ドラゴンの背に乗っています!」


 腰をかがめた僕は、ギルドカードをドラゴンの背に当て、つぶやく。


「な…!?何をするつもりだ、リリアナ(・・・・)!!」


 うん、そうだね。

 僕の今世の名前は、リリアナ・エルシア・ラシルト。ラシルト伯爵家の次女だ。

 でも、今は…『神崎(かんざき)悠里(ゆり)』が求めたチートを、行使する―――


「『権限停止:ブレス』」


 ふっ


 ドラゴンの口で輝いていた雷光が、消える。まるで、最初からなかったかのように。


「な…何が、起きた…!?」


 起きたんじゃない。

 起きなかったんだよ。


「なぜだ、なぜ、我のブレスが発生しない…!?魔力はあまりあるのに…!?」


 ブレス能力はそのまま。魔力量にも、僕は手を出していない。というか、手が出せない。


 でも、ブレスを使うこと自体を認めない。この世の理において(・・・・・・・・・)


「『権限停止:浮遊』」


 ドラゴンが、下降していく。

 この世界に溶け込むように、ゆっくりと、地に降りていく。

 大地に足をつけたドラゴンは、最初から飛べなかったかのように、佇む。


「何が…我は…」


 まあ、理解できないよね。知識や記憶には影響を与えていないしできないから、なおさらだ。



 ちゃっ


 レオネス兄上が、ドラゴンの頭に向けて剣を構える。


「よくわからんが…観念しろ。どうやらお前は、数百年前のように国々を蹂躙できなくなった」


 異世界から転移したドラゴンによって、いくつもの国が滅び、生きとし生けるものが疲弊した。

 ドラゴンは召喚勇者達によって別次元の空間に封印され、生き残った人々は連合王国…帝国を作る。

 そして、現在に至る。数百年続いた平和な世界で、過去の経緯はおとぎ話ように語り継がれた。


 いやあ、そのおとぎ話のほとんどが真実だったとはねえ。

 まあ、異世界とか、こっちの人々は理解できないから『渡り人』や『魔界』とかになったんだけど。


「ふざけるな…ふざけるなあっ!!」

「レオネス様!!」


 兄上に詰め寄り,前足のツメでレオネス兄上を切り裂こうとする、元チートなドラゴン。


 そう、元、だ。


 ざくっ


「う、が…。き…貴様に、やられる…のか…。召喚勇者の、剣でもなく…術でもなく…」

「この世界のことは、この世界の住人がなんとかするべき。僕は、そう言ったよね」


 レオネス兄上の後ろから,風の魔法を付与した剣で、僕はドラゴンの右目を奥深く貫く。

 剣先は、脳にも届いているだろう。


 ドスンッ…


 数百年前に封印された異世界のドラゴンは、復活してすぐに潰えた。特別な力を発揮できないまま。



「確かに、リリアナお嬢様の名前が記載されていますね…」

「おかしいな…領都のギルドはどこも記録に残ってなかったぞ…?」

「何か不具合があったのかもしれませんね。ドラゴンがブレスを吐けなくなるような御時世ですし」

「いや、そのりくつはおかしい」


 んー、あながち間違いでもないんだけれども。


 とにかく、ギルドカードの名前をフルネーム表示させて渡して、全力でとぼけてみた。

 そしたら、なんとかなった。…なったよね?


「まあいい。ドラゴンの後始末が済んだら、一緒にラシルト領に戻るぞ」

「え、まだ数週間しか…」

「もう十分だろう。ここから先は、帝国に属さない国々が続く。今回以上の危険があるかもしれない」


 いやあ、さすがにチートなドラゴン以上の事態は起きないんじゃないかなあ。


 こう言ってはなんだけど、ギルドカードの有用性は、他国に行ってこそ、よりメリットを享受する。

 言葉も通貨も法令も違う外国で、ギルドカードだけはどの国でも使えるよう整備されている。

 一応、日常生活程度の会話は、近隣諸国の言葉でもできるよう学んだ。活用せずしてなんとする。


「逃さんぞ。門番には、お前が古都を出ようとしたら留めるよう伝えてある」

「はあ…わかりました。とりあえず、僕が泊まっている宿で部屋をとって下さい」

「何を言う、ここの領主が屋敷に泊まるよう言っている。お前が宿を引き払うんだ」


 強引だなあ。力づくとも言う。


「でも、宿の厨房には、下ごしらえしてある鶏肉がまだ残っていて…」

「なに!?唐揚げが食べられるのか!?なら、今晩だけは宿に泊まろう」

「レオネス様…」


 ちょろい。

 うん、夜中にこっそり宿を抜け出して古都を出よう。もちろん、『ユーリ』として。

 荷物は大して持っていないし、今回の宿は前払い制だ。旅立ちの準備はすぐにでもできるだろう。


「そういえば、途中の港町でコメを手に入れた。これで『ゴハン』も作ってくれ!」

「ええ…」

「り、リリアナお嬢様、私の分もありますでしょうか…?」

「えええ…」


 なんだろう、ギルドカードよりもよっぽど唐揚げの方がチートっぽい。なんだこれ。

 うん、『唐揚げ令嬢』とかいう悲しい二つ名が古都でも広まらないうちに旅立とう、そうしよう。



「「「カンパーイ!!!」」」


 ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ


「ぷはー。いやー、半年も行方不明扱いになってどうなるかと思ったけど、なんとかなったな」

「だなー。でもよ、半年で済んで良かったぜ。これが『渡り人』の伝承通りだったらと思うと…」

「ああ、全く。あの娘のおかげで助かったぜ」


 ガヤガヤ


「しかし、あの娘がこの世界からの転生者だったとはなあ」

「『魔界』からこの世界に来ようとしたら神様が現れてびっくりしたよな」

「神様、本当にいたんだなあ…」


 からあげ、んまんま


「なあ、ところでこの『力』、どうするよ」

「神様は、好きに使っていいって言ってたけど…」

「でもよう、結局こっちでも同じじゃね?運送業にストーキングにボディビルダーだぜ?」


 うーん、うーん


「…そっか、あの娘のように、旅に出ればいいんだ!」

「おお、なるほど。手ぶらで世界中回れるぜ!むしろ、家要らねえ!」

「バザーでの転売は任せろ。目利きしてやるぜ!」

「身体強化は他人にもかけられるんだよな。バスもタクシーも乗らなくて済むな!」


 わくわく


「じゃあ、早速手に入れるか、ギルドカード!」

「「ねえよ」」

いや、パスポートとクレジットカードでいいじゃん。あー、最近はVISAデビットが便利なんだよなあ(聞いてない)。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ぐぬぬ、男だとおもってたっー!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ