プリンシパリティーズ
対テロ組織を目的に、軍とは異なる組織がARK社直属に独立部隊が結成されていた。
その名もプリンシパリティーズ。
いくつかの種類の対人兵器パペットを束ね、独自に活動を行っている。
軍とも警察とも違う、民間企業の一機関が管理する集団なのだ。ごく少数人間の戦闘員もいるが、彼らは前線では戦わない。パペットの後方支援や管理が主な任務だ。
世界政府の結成した世界統一軍というものが存在していたが、組織が大きくなりすぎて、小回りが利かず、かえってテロリストのような少数で犯罪を犯す集団には全く効果がなかった。自国の経済を守るのに必死な状況において、国家間の戦争など起きない時勢にあって、時代遅れの軍隊と言えた。
それに対してプリンシパリティーズのパペットは、EDENと接続しARK社のサーバーからの命令で行動している。主に単独行動が多いが、場合によってはチームを編成することもある。
ブレイブ・ファングのような狼型パペットが何頭も街中をパトロールしていて、不審者がいれば即座にその牙でねじ伏せてしまうのである。過剰とも思える警備に、市民からは不満の声もあったが、黙殺されている。
拳銃の弾丸くらいなら物ともしない装甲に覆われたブレイブ・ファングは、プリンシパリティーズの主力と言えた。
また上空には鳥型のブレード・ウイングが昼夜問わず地上を監視していた。偵察、情報収集が主な任務だった。
もし、街中の一角にテロリストがいた場合ブレード・ウイングが発見、情報発信し、その情報を元にブレイブ・ファングが駆けつけるのである。銃弾をものともせずに襲い掛かり、仮にテロリストが自爆したとしても、修理が可能なのだ。修理不能であっても代替えはいくらでも生産される。
この地道とも言える部隊のおかげで、世界的なテロ集団を壊滅に追いやった功績を持っている。次々に現れるテロ組織をその都度つぶしてきた実績は燦然と輝いているのだ。
だが、ここ近年強力な智力を持ったパワーズが現れるようになって、ブレイブ・ファングでは太刀打ちできないことがしばしばあり、もっと強力なパペット開発が急がれつつあった。
またEDENでは、アークエンジェルズによる頭脳犯罪も増えていた。各国の省庁の極秘情報、企業機密、個人情報にいたるまでサイバー攻撃の対象となっていた。
その対応策として攻撃アークエンジェルズに対し、防衛アークエンジェルズを雇い常駐させているが、やはり人間であるため完全ではなかった。
プリンシパリティーズはこのサイバー攻撃に対する迎撃パペットも開発していた。ダーク・イエロー・スライムと呼ばれる不特定の形をしたこのパペットは、サイバー攻撃を鏡で反射するかのように、攻撃者に対し同じ攻撃をはね返すのが特長だ。まずなんといっても人間と違い、二十四時間常に監視し続けられるという点が大きい。
さて、プリンシパリティーズ上海支部は、ほかの都市の支部とは少し様相が違っていた。
メタトロンと名乗る指導者が部隊のトップに立ち、世界中の富裕層から、カリスマ的に支持を集めていたのだ。それはさながら宗教指導者であった。
メタトロンはアークエンジェルズやパワーズに憎しみにも近い感情を抱いていた。
彼の経歴や人物像には不明な点が多く憶測でしかないが、実は彼にはアークエンジェルズの智力が発現していないため、智力を有するものを逆恨みしているというのがもっぱらの噂である。
その根拠として、世界中の富裕層からメタトロンのもとに献金が集まるのだが、その富裕層たちはノックヘッドを装着してるにも関わらず、アークエンジェルズの智力が発現していない。そのためアークエンジェルズやパワーズに対して反感を持っており、フォーリンエンジェルズやグリゴリを始末してくれるプリンシパリティーズ、さらに言えばその指導者であるメタトロンに対して支持が厚いのである。
いくらプリンシパリティーズが独立部隊とは言え、ARK社と関係が切れているわけではない。世界中からメタトロンに集まる、常軌を逸した額の献金はARK社内でも問題視されている。
上海市の郊外にパペット生産工場があり、その敷地内にメタトロンの私邸が建っているが、広大な敷地に贅の限りを尽くした大豪邸がある。
私腹を肥やしてると見られるメタトロンと、ARK社上海支部とは確執があるとのもっぱらの噂なのだ。
更にはこのメタトロンがパペット部隊を率いて世界を平和へと導き、救世主となるつもりであるとの噂もあった。
いずれにしても憶測の域を出ない、謎の多い人物なのである。