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偽天使(ぎてんし)  作者: 真風玉葉
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プロローグ

 夜のとばりが降りる頃、中国上海市の巨大なビル群は、さながら桂林けいりんの奇岩たちと見まがうかのごとく奇妙な姿でそびえ立っていた。化物たちが割拠かっきょしているかのような不気味さが漂っており、まさに魔都だった。

 その上海の中心部に、この度、超巨大なショッピングモールが完成した。

 円形競技場を思わせる城壁に囲まれた施設は、サッカー場がゆうに収まる広大な規模だった。敷地内の広場自体が公園のように整備され植樹されており、憩いの場となっている。広場の中心には噴水もある。

 テナント入りしてる店舗は多種多様で、ファッション店はもちろん、ブランド品を扱う店、宝飾店などの富裕層向けから、家電品店、おもちゃ屋、書店、レコード店などの中流層に向けた店まであり、誰でも楽しめる娯楽施設であった。

 ぜいを尽くして作りこまれたショッピングモールは、うわさでは地元の大富豪の有志たちが私財をなげうって建設されたとされているが定かではない。

 しかし、コンピュータ・ネットワークが全世界を支配し、家にいながら世界中から自分だけが選んだお気に入りの逸品の買い物ができ、即日にも家の専用BOXに配達される今の世の中にあって、なぜわざわざ足を運んでまでショッピングをしなければならないのか?

 工事着手の時には多くの市民は「どうせ長続きしないに決まってる」と鼻で笑っていたものだが、いざオープンしてみると意外にも盛況で大勢の客が押し寄せていた。しかも連日である。

 なぜなのか?

 それは、ショッピングとはただ単に欲しいものが買いたい、という欲求を満たすだけではないことが、理由のひとつとして挙げられると思われる。

 家族や友人、恋人と共に店を回りながら、一緒になってほしいものを探すという人と人とのつながりもまたショッピングの楽しみである、とみんな理解したのだ。

  自分本位の買い物ではなく、他人の意見も取り入れることで、違った角度で見ることができる。すると、ひとりで買い物をしていた時と比べて、世界が広がって見えてくるのだった。これはひとりでネット通販をしてる時では味わえない感覚のはずだ。第三者の目線で実際に商品を手に取って、自分ひとりでは絶対に選ばなかった商品をすすめられることで、目からウロコが落ちる発見があるはずだ。

 さらに言うと何も買わなくてもいいのである。ウインドウ・ショッピングするだけでも十分楽しいのである。あれが欲しい、これが欲しい。と言い合うだけで満腹になれるかもしれない。

 そして、買い物後の外食も格別だ。いい買い物をして、気分良く、気のおけない人との食事。これを幸せと言わずなんと言おう。

 コンピュータ・ネットーワークに支配され、個人と個人が隔絶された世界にあって、ここだけは人と人との直接のつながりあいが保たれているのだ。

 今日もまた、笑顔で買い物を終えた人々が家路に着いていくのだった。

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