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銀河鉄道の眠り姫  作者: のら
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あんたに必要だと思ったからよ

ぎしりと木の床を軋ます足取りは、さっきより軽かった。一人でいるシロのことが心配、というのもあるが、どちらかというとあの少女と顔を合わさずに済む、というのが大きい。少女は後ろからはついて来ていない。ということはそのままあのイバラの扉がある車両に残っているのだろう。そのままそこに残ってくれればいいのに。

そう願いながら冬夜はもといた車両のドアを開けた。

「あ、冬夜くん!」

扉の音で気が付いたのだろうか、青い座席の間からシロがぴょこりと顔を出してきた。

あんな風に出ていったあとだから、心配そうにしているかはたまた拗ねているかと思っていたが、何事もなかったかのような笑顔を見せてくれた。もしかしたら気を使ってくれているのかもしれない。シロらしい笑顔を久々に見たような気がして、冬夜はどこかほっとした。

「おかえり。どうだった?他の車両は」

「うん……まあ」

どうだったと言われても、隣の車両もここと同じだったとしか言いようがない。話題になることと言えばあのイバラで覆われたドアくらいだろうか。けれどもしそのことをシロに話して、見に行きたいと言われたらどうしたものか。せっかくあの少女と顔を合わせずにすむはずだったのにまた嫌みを言われてしまうだろう。

どうしたものかと言葉を濁しながら、冬夜は席に戻ろうとした。が、目の端に見覚えのある人影。思わず足が止まった。

隣の座席にいたのは、そこにいるはずもない、あの少女だった。

「お前、なんでそこにいるんだよ……!?」

一体いつ追い抜かれたのか。もちろん追いつかれてなどいないし、そもそもここに来るまで誰とも会ってすらいない。追い抜かれりしたら冬夜は絶対に気付く。なのにこの少女は先回りしたかのように、今冬夜の目の前にいる。どうやって。

「何。あたし乗客なんだけど。いちゃ悪いわけ?」

少女は身に覚えのない因縁でもつけられたかのように眉をひそめた。その白々しさに、一度は冷めた冬夜の頭がまたぐらりと沸く。

「さっき向こうにいただろ、俺のが先にこっちに帰ってきたのに、なんで」

「はあ?あんた、何言ってるの」

「とぼけるなよ!」

思わず声を荒げた。突然のことでも少女は驚かず、冷ややかな視線を冬夜に注ぐだけだった。

ぐらぐら、頭の中身が揺れる。息が詰まりそうだった。喉までこみ上げてきた空気の塊を飲み込み、冬夜はもう一度少女を問い詰めるための言葉を探す。

「冬夜くん」

柔らかい声がしたかと思えば、後ろに体ごと引っ張られた。

シロが冬夜の腕を抱きしめるようにして引きとめていた。不安げに見上げる眼差しに熱が奪われる。

「冬夜くん、落ち着いて?この人、ずっとここにいたよ?」

シロが何を言っているのか、冬夜には理解できなかった。

「冬夜くんがいなくなってからも、ずっとここに座ってた。ほんとだよ?」

「……じゃあ、さっきのは」

少女がここを動いていないとしたら、先程冬夜が会ったあの少女は、一体何者なのか。イバラの扉の前で、冬夜は確かに少女と話をした。間違えるわけもない。見た目も話し方も何一つ同じなのだ。

しかしシロが嘘を吐くとは思えない。例え嘘だとしても、冬夜に気付かれず先に戻ってはこれない。ならばあの少女はなんなんだ。他人の空似か、双子か、それとも冬夜の妄想か。

「白昼夢でも見てたんじゃないの?」

ため息をつくようにこぼした少女の声は呆れていた。妄言に興味など無いと言わんばかりに、さらりと青い髪を揺らし立ち上がる。

「あたしはここで失礼させてもらうわ。まだやることがあるもの」

ごとり、車輪が重い音を立てて止まる。列車はいつのまにか駅についていた。窓の外、遠い向こう側で白鷺が群れを成して飛んでいるのが見えた。

「そっか……また、会えると良いね」

あんなに毒を吐かれたにも関わらず、シロはそう微笑んだ。少女もまさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。レンズの奥で赤い目を少しだけ見開いて、そっけなくそうねとだけ返していた。そっぽを向いたが、解せないと言いたげな表情だったのが冬夜にもわかった。

「……ああ、そうだ。これあげる」

不可解な表情は即座に捨て去って、思い出したように少女は冬夜へつかつかと近寄り、強引に何かを押し付けた。手のひらでころりと転がるそれは、ビニールに包まれたチョコだった。

「は……何これ、何のつもり」

「あんたに必要だと思ったからよ」

「いらない。必要ない」

こんなものを貰う道理など、一切無い。少女に返そうとチョコを持った手を突き出す。しかし少女は受け取ろうとはしない。傲慢な態度に冬夜は舌打ちを堪えた。何度目かわからない、ぴりりとした空気が車内に訪れる。しかしそれは冬夜の手の中を覗き込んだシロにやんわり取り除かれた。

「あ、チョコだ。さっき私も貰ったんだ」

美味しかったよありがとう、ふわりと微笑むシロに、毒気を抜かれる。いっそチョコを投げつけてやろうかとも思った手は無意識のうちに下ろされた。毒気を抜かれたのは少女も同じだったらしい。眉をひそめながらため息をついていた。

計算なのか天然なのか、シロはにこにこしているだけだ。どちらにせよ恐ろしい。

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