ちょっと手伝ってもらえないかな……?
少しだけ日が傾き、青空が西の方から少しずつ赤くなっていた。焼けはじめた空には入道雲と鱗雲が一緒に浮かんでいる。秋の始まりとはいえまだまだ暑さが残っている。鱗雲を押し退け青空を占拠する入道雲はしつこく夏を主張していた。
「冬夜くん」
柔らかな声が自分を呼ぶ。
教室の入り口に立っていたのはシロだった。長めの黒髪を耳にかけながら、冬夜に微笑む。
「まだ教室にいたんだね」
「あー、うん。なんとなく」
急いで帰ってすることも無く、普段一緒に帰る面子は教師からの頼まれ事でおらず、なんとなく誰もいない教室で無駄な時間を過ごしていた。
「そっちは?忘れ物?」
「ううん、わたしは先生に頼まれてた倉庫整理」
「……そういやHRのときに頼まれてたっけ」
教師に倉庫整理を頼まれ今いない友人たちを思い出す。出席番号と日付の組み合わせで雑に選ばれていた。シロも友人たちと同じように頼まれていたらしい。しかしこうして教室に戻ってきたということは整理はもう終わったのだろうか。ならば友人たちも来るだろうか。
しかしシロはどこかばつの悪そうな顔で微笑んだ。
「……それでね、冬夜くん。ちょっと手伝ってもらえないかな……?高いところ、わたしじゃ届かなくて」
「まあ、別にいいけど……」
自分よりも小さいシロを一瞥し、冬夜は立ちあがる。しかしふと疑問が浮かんできて首を傾げた。
「俺じゃなくて他のやつは?他にも頼まれてたやついたよな。手が届かないとこはそいつらに頼めばいいじゃん」
冬夜は特別背が高いわけではない。冬夜が届く範囲なら、他の男子も手は届くだろう。もし届かなくとも踏み台なり活用すればいい話だ。それを指摘するとシロは困ったように眉を下げた。視線を冬夜からそらし、言い淀む。もじりと胸の前で組んだ手をすり合わせながら小さく告げた。
「……みんな、帰っちゃった」
「はあ!?」
シロの言葉に、思わず声をあげてしまう。びくりとシロの肩が揺れた。
「帰ったって、全員?え、じゃあ……」
「わたしだけ……ってことになるかな」
教師がわざわざ複数人に頼んだ倉庫の整理だ。一人で片付くはずもない混雑具合なのは想像に容易い。それなのに、こんな力も無さそうな女子一人だけ残して先に帰ったという事実に、冬夜は頭が痛くなる。帰った連中には自分がよく接する友人もいるのだ。あまりの無責任さに溜息すら出てこない。
「……サボるとかふざけんなあいつら」
「えと、ごめん」
「何で謝るの。悪いのあいつらじゃん?」
冬夜から漏れた低い声にもう一度シロの肩が揺れる。今度は謝罪もついてきた。しかしシロに謝られる理由など冬夜には無い。シロはそうは思わなかったみたいで、いまだにばつの悪そうな顔をしている。教師から頼まれたわけでもない冬夜に手伝わせることが後ろめたいのかもしれない。
しかしそうも言っていられないだろう。もうすでに日は傾いていて、シロだけにやらせたらどんな時間に終わるかわかったものではない。そこまでわかっているのに、何も知らない顔をして帰れるほど、冬夜の神経は図太くはなかった。
二人でやって、どのくらいの時間に終わるのだろうか。途方も無さそうな作業を想像する。
溜息はシロのために飲みこんでおいた。




