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銀河鉄道の眠り姫  作者: のら
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あんたがシロを殺したんだ

人の波をかきわけて、冬夜は川へと進む。

川ではもうランタンを流し始めているだろう。友人とくだらないことを喋っていたらあっという間の時間だった。シロはとうの昔に待ち合わせの場所にいるに違いない。待たせたからといって遅いと怒って帰ることはしないだろう。しないだろうから、早く、急がねばいけない。

それにしてもやけに喧騒が耳につく。何故だろう。急いでいるからだろうか。人ごみも邪魔くさく感じる。これも急いでいるからだろうか。

いや、違う。

この喧騒は、この人ごみは、何かが違う。妙な違和感に肌がひりついた。

楽しげなざわめきではない。人々の足取りも屋台を冷やかすようなそれではない。目に入る表情からは困惑が読み取れる。

「女の子が川に落ちたらしい」

知らない誰かのセリフが、冬夜の鼓膜に叩きつけられた。

急いでいた冬夜の足が重くなる。知らない声を聞き取ろうとあたりを見回すが、どきどきと早まる自分の鼓動が邪魔をする。早まった鼓動に急かされ、冬夜は聞き取れない声を諦め走り出した。

誰かの肩が、荷物が、足がぶつかる。

まさか、そんなはずはと思いながらも止まれない。早く、一刻も早くシロの姿をこの目で見たかった。冬夜くん遅いよ、と微笑むシロを、この目で。

ざわめきが一層増した。お祭りとは思えない怒声が聞こえる。ランタンを流して明るいはずの川にランタンは数えるほどしか流れておらず、夜闇に染められていた。そんな異様な雰囲気の中でシロの姿を探す。いるはずだ。シロが待ち合わせに遅れるなんてわけがない。必ず、どこかに、

「冬夜!?」

自身を呼ぶ声に振り向いた。けれどそこにいたのはシロではなかった。青い髪をなびかせて、赤縁眼鏡の奥から冬夜を睨みつけているクラスメイト。

クラスメイトの少女は掴みかからんばかりの勢いで冬夜に詰め寄る。

「あんた、こんなとこで何してんの!!?」

シロの友人で、何かと冬夜に突っかかってくる気に食わないクラスメイト。そんな相手に出会い頭に怒鳴られ、面白いわけがない。眉根を寄せながら、けれど視線ではシロを探しながら少女の相手をする。

「……なんだよいきなり」

「なんだよじゃないわよ!シロとの約束はどうしたのよ!!」

それは今シロを探していて、そう告げようとし、少女のただならぬ雰囲気に言葉を詰まらせた。シロを探していた視線を少女に向ける。冬夜を睨みつける青緑の目は、今まで見たことがないくらいに泣きそうに歪んでいた。

「…………まさか」

思わず声が漏れた。考えたくなかったまさか。そんなわけがない、そんなわけがあってほしくない、そう目を背けていた。冬夜は顔を上げてあたりを見回す。やはりシロはどこにもいない。

「……あんたのせいだ」

ぽつりと少女が零す。その言葉とともに堪えきれなかったものが少女の目からあふれていた。

「あんたのせいで、シロが」

「……うそだろ」

少女の言葉を疑いたかった。少女の間違いであってほしかった。けれど少女はかぶりを振る。

「……あの子、あんたと一緒にお祭りに行けるって、楽しみにしてたのに」

冬夜と一緒にランタンを流したいと笑ったシロが脳裏を過る。夕日に照らされて赤らんだ頬を緩める、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうにはにかむシロの顔。

「なのに、なのに……!」

あのはにかんだ笑顔を探す。シロは見えない。どこにもいない。

人ごみの向こうに真っ黒い川が流れている。ひとつだけ遠くに流されていたランタンが風に吹かれたのか流れに乗ることが出来なかったのか、バランスを崩し倒れ、水に飲まれた。灯っていた火は一瞬のうちに消えてしまった。

冬夜の体を何かが押した。

対して強い力でもなかったが呆然と川を眺めていた冬夜は力に押され後ろに倒れ込む。尻餅をついて見上げると眼鏡越しの少女の瞳と視線が合った。

「何でもっと早くシロのところに行ってやらなかったのよ!?あんたが遅れてさえ来なければ……シロは……!」

少女の言葉が嗚咽で途切れる。はくりと音を紡げなかった口が無意味に動く。もしかすると冬夜が聞き取れなかっただけかもしれない。少女の言葉も、周りの喧騒も、なにも、冬夜の鼓膜を震わせてくれなかった。

「あんたがシロを殺したんだ!」

けれどその言葉だけは、しっかりと冬夜の鼓膜を震わせ、冬夜の心臓を押しつぶすようにのしかかってきた。

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