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銀河鉄道の眠り姫  作者: のら
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海、見たかったんだけどな

たん、たん、と列車の階段を降りるシロはどこか危なっかしい。ふらふら歩いているわけでもないのだが何故か見ていて不安になる。うっかり手を繋いだままでいるが、この手を離すとシロがホームから線路に落ちるのではないのかという考えが過り、離すに離せない。自分よりも小さく白い手は思ったより冷たかった。

ホームに堂々と立つ大きな時計は、ちょうど一時を指していた。青い二本の針はどうやらきっちり仕事をしているようで、冬夜が見上げるとかちりと一分を刻んだ。時計の下には二十分停車と看板が下げてある。今このホームに停まっているのは冬夜たちが乗ってきた列車しかない。シロが言っていた停車時間は本当だった。疑うわけではないのだが、全てを信じるととんでもない目に遭う気がした。この少女のことはほとんどわからないが、だいぶ抜けているということだけはわかりつつある。少しだけほっとした気分になりながら、シロに引かれて改札を通った。

駅舎の中は明るい紫がかった電灯がひとつ。駅員も、客も、誰もいない。静かで狭い駅舎は白い壁で出来ていた。さわるとひんやりとしていてどこか軟らかそうな素材だ。硬いもので叩くと割れてしまいそうな白い壁は、まるで貝殻で出来ているようだと思った。

「誰もいないね」

「駅員くらいいてもいいようなもんだけどな」

シロと冬夜の声が柔らかく反響した。きょろりと駅舎内を見渡すが、やっぱり人は増えない。この狭い駅舎の中には隠れるスペースもない。もっとも二人から隠れていても何の意味ないだろうが。

と、こちらだと言わんばかりに、駅舎の入り口が風の抜ける音を立てた。

「外、行ってみよ」

風に誘われるままシロはこつんと地面を蹴る。床も壁と同じ、白くて軟らかそうな、貝のような素材だった。

駅舎を出るとそこは広場だった。あたりを銀杏の木に囲まれた小さな広場。風に揺れる銀杏は葉の一枚一枚、木の幹すら透き通っており、まるで水晶をそのまま銀杏の木に細工したかのような見た目だった。それなのに緑がかった透明な葉は水晶と違いしなやかで、風に身を任せさわさわと揺れていた。

広場に通じている道は一本だけだった。幅の広い道がずうっと真っすぐ、青く光る銀河まで続いていた。

「冬夜くん、あっち行ってみよう?」

「いいけど……迷わない?」

「い、一本道だもん迷わないよ!」

冬夜の言葉にシロは少しだけ頬を膨らまして拗ねたようにそっぽを向いた。同じくらいの年にしてはからかいやすく、危なっかしい。子供っぽいというほど幼稚ではないのだが、子供を相手にしているかのように目を離すのが不安になるのだ。

そんなシロに手を引かれて銀河に続く道を歩く。二人の影が駅舎と同じような真っ白い建物の間をゆらゆら出てきては消え、増え、また消える。空を見上げると白い建物に映えるように青い空が広がっていた。雲ひとつない青空には列車から見た星空と同じくらいに、幾つも橙色や紫色の星が光っていた。

こつり、こつり。軟らかい地面を蹴りながら先に進む。やがて辿り着いたのは先程車窓から見た銀河の川原だった。

まるで水が流れているかのようにきらきら輝く星の川。川辺の砂すら星のように煌めいて見えた。

するり、冬夜の手からシロの手が逃げる。シロはちょこんと屈み、その煌めく砂に触れていた。

「すごい、まるで宝石みたいだね」

「うん……」

シロが触れた砂はもちろん、小石までも透き通っていた。水晶にも見える不思議な光を帯びていて、中からちらちら照らしているようにも見えた。

シロはひととおり砂に触れると、今度は川原に近寄った。白い手が水に触れる。川は遠くから見ると星の集まりのように見えたのに、手が触れるほど近くなるとそれはちゃんと液体であることがわかった。さらさら流れる水にシロが手を浸す。水も砂や石のようにどこまでも透き通っている。

「わ、冷たい」

水は思っていたよりも冷えていたようだ。びっくりしたシロの手がぱしゃりと波紋を作った。波紋はゆっくり向こう岸にも広がり、跳ね返った波の輪はいくつもいくつも重なっていった。波紋に揺らされ川はさらに煌めく。ゆらゆらきらきら、輝く川を、二人はしばらくの間見つめていた。

やがてシロが川下を指差す。

「ね、あっち。海のそば行ってみない?」

琥珀色のすすきが揺れる川原を真っ直ぐ下った先には白い岩が連なっていた。チョークのような白はここから見ても川の輝きで眩しく見える。冬夜は目を細めながら白い岩の先を見た。ここからでは見にくいが、どうやらその先に海があるようだ。

しかし、海までどのくらいの距離があるのだろうか。二十分で列車まで帰れる距離なのか。

「あんまり列車から離れると置いてかれるんじゃないの」

「うーん、確かに。さすがにそれは困っちゃうね」

シロもその心配はしていたのか、冬夜の言葉に頷く。しかしどうにも諦めがたいのか、視線は川下を見つめたままだ。

「……海、見たかったんだけどな」

ぽつり、シロが呟いた。

海がある方をぼんやりと見つめる横顔は、どこか寂しげで。

「……海、そんなに見たいの」

「だって見たこと無いんだもん、海」

拗ねたような口調だが、表情はやはりどこか寂しげだ。まるで海を見る機会はもうこれっきりだと言われてるような気がした。また今度見れば良い、とはどうにも言い難くなる。

「……遠くに行き過ぎたりしないなら、いいと思うけど」

「……ほんと?」

要は列車に置いて行かれない時間までに戻ればいいのだ。きっと少し歩けば海だって見えるに違いない。そのくらいの時間なら列車に間に合うだろう。

冬夜の提案に、シロの表情が明るくなった。心底海が見たかったのだろう。シロは川下と冬夜を数回見比べ、それから嬉しそうに微笑んだ。

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