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第70話 女の友情?

 英雄たちがファイアジャイアントを難なく蹂躙し終わって、さっさと先を急ごうとする。

 だが腰を抜かしたトリシア女医は、自力で歩く事ができなくなっていた。

 粗相をしなかったところが女性としての意地だろうか。ミシェルちゃんとレティーナは恐怖の対象と理解しても、その脅威がどれほどの物かまでは、正確に把握していなさそうだし。


「ちょ、待って……まだ腰が……」

「もー、仕方ないなぁ」


 俺はまだ自失している一般勢を置いてトリシア女医に肩を貸そうとした。

 この先何が起きるかわからない。ならば、英雄たち五人の手は空けておかねばならない。

 ならばトリシア女医に手を貸せるのは、残る一般人……つまり、俺たち生徒三人だけという事になる。


「あ、ありがとね、ニコルさん……ちゃん?」

「呼びやすい方でいいですよ」


 トリシア女医の腕を肩に回し、立ち上がろうとして――押し潰された。

 やはり俺では、大人の女性を支える事は不可能だったか。


「ぶぎゅ」

「ああ、ニコルちゃんがトリシアに押し倒されてる!」


 押し潰された俺を見て、コルティナが頓珍漢な悲鳴を上げた。

 それに即座に反応したのは、ライエルだ。


「なんだって! うちのニコルに手を出すとはうらやま――いや、けしからん!」

「でもアナタ、女同士だし」

「それならなおさら、最前列で観戦せねば!」

「――アナタ?」


 潰された俺からはその表情はうかがい知れなかったが、拳を握って熱弁するライエルのテンションが、急激に下がったのはわかった。

 しおしおと悄然とした表情で一歩下がるライエル。

 それを確認してから、マリアはコルティナに指示を出した。


「ティナ、あなたがトリシア先生を背負ってあげて。あなたなら彼女を背負っても指示は出せるでしょ」

「もう少し待っても……いえ、何でもないです。背負います」


 ライエル同様、急激に態度を変えてトリシア女医の元へ向かうコルティナ。

 生前の記憶があるから俺もわかるが、マリアのあのプレッシャーはちょっと本気で怖い。

 俺の上からトリシア女医をひょいと持ち上げ、自身の背に背負う。

 だが小柄な彼女では背負いきるまでできず、女医の爪先が地面についていた。



「ああ、なんて嬉しくない背中……どうせならガドルス様が良かったわ」

「え、アンタってガドルス狙い?」

「だって六英雄の中でガドルス様とマクスウェル様だけじゃない……独身男性」

「いくらなんでも無理があるでしょう!?」


 ガドルスはドワーフ族で、マクスウェルはエルフ族の中でも特に老齢だ。

 男を狙うという意味では確かにガドルスくらいしか狙い目はないだろう……例え種族的にアレだとしても。


「ああ、レイド様が生きていれば、私が猛アタックしたのに」

「よし、置いて行こう」

「じょ、冗談よ、冗談!」


 その発言に俺はピクリと反応した。

 当時は職業柄、結構恐れられていた俺だが、今だとモテるのか? 長生きしておくんだった!


「そもそもレイドが死んだ時ってアンタは十歳程度でしょ。年齢的にも釣り合わないわよ」

「ダマレ、年増」

「あんだってぇ?」


 トリシア女医を背負ったまま、器用に頬を引っ張り合う二人。

 人間である女医は確かに寿命的な面で厳しい。ドワーフもエルフも、猫人族も半魔人も桁外れに寿命が長い。

 ドワーフと猫人族で300年、エルフでその倍。半魔人と小人族の寿命に至っては未確認だ。


 頬を引っ張り合いながら、その場を去ろうとする二人を見て、レティーナはようやく再起動した。

 ミシェルちゃんと抱き合ったまま、ようやく正気を取り戻して声を上げる。


「あ、あの……」

「ん、なぁに?」

「ファイアジャイアントは放置するんですか? 確か結構いい素材が取れたと思うのですけど」


 彼女の言う通り、強靭なファイアジャイアントの皮膚は防具として優れている。

 巨大な体躯と破壊力を支える骨も、使い道は広い。

 俺としては、針金のように強靭な髪に興味津々ではあるのだが……


「んー、さすがに子供の前で人型モンスターの皮を剥いで、解体して骨を取り出すって言うのはねぇ……」

「それに今更、ファイアジャイアントの素材なんてねぇ」


 コルティナとマリアが、並んで首を傾げて反論する。

 つまり俺達の情操教育に悪いから、ファイアジャイアントの素材は放置する、という意味だ。

 幸いというか、この森の中はファイアジャイアントの影響で、生物がほとんど避難してしまっている。

 素材を後で取りに来ると言う選択肢もある。


 それに邪竜の素材を分け合っている俺たちは、それまでの活躍もあって結構な資産家だったりする。

 俺も、生前の隠し場所にさえ行けば、それ相応の……というかちょっとした街が買えるくらいの資産は持っている。

 ただしその隠し場所が南部の三大国家の一つ、アレクマール剣王国という国に隠されているのだが、そこまで辿り着く手段が今の俺にはない。


「まぁ、この程度の素材なら、今持ってる装備の方が上等だし、得られるお金もお小遣い程度よ。だから先を急ぎましょ」

「あの……この素材だけで私の年収の数年分は……」


 マリアの発言に、トリシア女医がショックを受けた表情をしている。

 そして彼女はもう一つの真実に辿り着いた。


「という事は、コルティナも結構お金持ち?」

「そうね……ラウムの土地なら半分くらいは買えるかもね」

「ウソッ!? あんな貧相な家に住んでるのに?」

「貧相言うな! なんかこう、贅沢する気分じゃなかっただけよ」

「今度から飲みに行ったらアンタが奢ってね?」

「いきなりタカりだしたし! 女の友情って儚い!?」


 ギャイギャイ騒ぎながら、先を行くコルティナ。俺たち三人は慌ててその後を追ったのである。


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