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第614話 邪竜対決

 メキメキと身体が膨れ上がる感触がする。

 肉体の質量など知ったことかと言わんばかりに肉が増殖し、骨が伸び、内臓の位置すら変わっていく。

 服や装備がはじけ飛び、俺の肉体は際限なく巨大化していく。

 俺の姿は二メートルを超え、十メートルを超え、やがて目の前の邪竜と同じくらいに膨れ上がっていた。


「グルルルルルルルルルルオオオォォォオオオォォォォォォォォォォォッッッ!!」


 喉から(ほとばし)った咆哮が、我知らず漏れ出し、周囲を威圧する。

 咆哮だけで草原の草がそよぎ、クファルが一歩後退った。

 俺の姿は今、漆黒の鱗を持つ目の前の邪竜と全く同じ姿になっていた。


 そう、破戒神は『この世界で最強になれる』と太鼓判を押していた。

 ならば、『この世界で最強の生物は何か?』と問われれば、俺は間違いなく目の前の邪竜を挙げるだろう。

 だが変化(ポリモルフ)の魔法には、それを制限するかのように『よく知っている生物でないといけない』という制限がついている。

 普通ならば、邪竜のことをよく知っているなど、ありえない話だ。


 だが俺たちに関しては違う。

 俺たちは目の前の邪竜を倒し、その死体を隅々まで解体し、それぞれが持ち帰っていたのだから。

 その時に、邪竜の身体の構造は、隅々まで目にしていた。

 この世界どころか、邪竜の住んでいた世界ですら、俺たちほど邪竜について知悉(ちしつ)している者はいないだろう。

 ならば俺には変身することができるはずだった。


 唯一の心配は、この魔法を今の俺が使えるかどうかだけ。だがそれはどうにか成功したようで、こっそりと鱗に守られた自分の胸を撫で下ろしている。

 本来ならば、巻物の制限時間内で使えないはずだったが、マリアの解呪(ディスペル)の魔法には感謝してもしきれない。


「ば、馬鹿な……コルキス、だと……」


 俺の咆哮と変身した姿に、クファルは驚愕の表情を浮かべている。

 いや、炎の魔神と同化したその表情は読み取りにくいが、その声音から驚きの度合いが判別できた。

 俺は先手を取るべく、邪竜に向けて一歩踏み出そうとした……が、それは叶わなかった。

 立ち上がろうと足に力を入れようとしたが、その足が思うように動かなかった。


『なんだ?』


 声には出さず、疑問に思う。

 身体が思うように動かない。いや、そもそも手足の存在自体が曖昧な感覚というか……まるで赤子にでもなったような気分だった。

 身体の状態は、まず完璧なはず。(みなぎ)る力も確かに感じられる。

 それは身体を支えるのに充分なほどの力だ。なのに力の使い方が理解できない。


「ハ、ハハハ、ハハハハハハハ! 当たり前だ、俺だってこの身体に慣れるまで何日もかかった! 唐突にドラゴンなんてまったく違う生物に変身して、自在に動けるはずがなかろう!」


 明らかに『驚かせやがって』というニュアンスの含まれた罵倒をよこしてくるクファル。

 俺を指差し、嘲り、そして邪竜に向けて命じた。


「コルキス、そこの愚か者の手足をへし折れ。翼をもぎ取れ。身動きできないようにしてから贄に捧げてやる!」

「グルルルァ!」


 邪竜も俺の姿に驚愕していたようだが、俺が動けぬと知り、勢い込んで俺に近づいてくる。

 しかしまだ甘い。俺の力は操糸。糸を操る力だ。

 かつては隠刀流ジェンド派の頭目と戦った時も、俺は自分の腕を操糸の力だけで操っていた。

 ならばこの身体でも、できない道理はない。

 筋肉の使い方がわからないのなら、糸で操ってしまえ。


 俺は体内に操糸の力を走らせると、その手応えに戦慄した。

 凄まじい力の増幅率が返ってきたからだ。これほどの力であれば、どれほどの破壊を撒き散らすかわからない。先にコルティナたちを避難させておいて正解だった。

 力が暴走しないよう、ゆっくりと起き上がり、首を巡らせ近付く邪竜を見据える。

 邪竜の方も、先ほどまで歩くこともできなかった俺が立ち上がったのを見て、警戒の色を(にじ)ませていた。


「グルルルルアアアァァァァァ!」

「ギャルルルルル!」


 俺の威嚇の咆哮に、邪竜も咆哮で応えた。そして双方、どちらからともなく近付いていき、その爪を振り上げる。

 ゴヅンと、足先まで響くような打撃が俺の肩口を襲い……しかし致命傷にはならなかった。

 邪竜の皮膚は己の攻撃すら受け止めるほど、強靭だったからだ。例え聖剣があったとしても、これを貫いたライエルがどれほど非常識かわかるだろう。

 そして俺の方の一撃は、邪竜の皮膚を大きく引き裂いていた。

 この威力の違いは、元々の邪竜の力だけでなく、操糸による筋力強化も加わった影響だ。


「ギャブッ、グギュルルルァ!?」


 邪竜もまさか、自分だけが一方的にダメージを受けるとは思っていなかったのか、驚いて再び距離を取ろうとする。

 しかしそれは、俺にとって広い間合いを与えることに等しい。

 身体を回転させるように(ひるがえ)し、尻尾による強打を邪竜の横っ面に叩き込んだ。

 明らかに自分よりも強い打撃を受け、邪竜はその場で一回転するように吹っ飛び、地面に倒れ伏す。

 だが、それでも邪竜には致命的なダメージにはなっていない。

 この攻防でお互いの力を確認し、さらに化け物同士の攻防は続いていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ポリモルフの魔法で邪龍になった、前提として邪龍に関しての情報を完璧に把握する事。器を変える事が出来ても、それを自分の物にするのは不可能に近い、だからこそ操糸でその新しい器を自由に動かす事は…
[一言] 変身したニコルキスは事が済んだ後で元に戻れるのでしょうか?戻った時に全裸なのは仕方無いとして。
[気になる点] ニコル邪竜は雌なのか気になりますw
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