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第591話 カッちゃんの奮闘

 カーバンクルは混乱しながらも、走り出していた。

 そのカーバンクルを追うように、三人の男も追走してくる。

 しかしこのままでは、この先に待つのが絶望的展開であることは、カーバンクルも理解していた。

 ニコルの影武者を何度も経験しているカーバンクルは、彼女がレイドの転生であることを理解している。

 かつてレイドを死に追いやった魔神、そしてベリトでライエルと二人で苦戦しながらも倒した相手。

 そんな相手と一対二で戦う羽目になったライエルの勝ち目が薄いことくらい、カーバンクルですら理解できる。


「ま、待ってくれ! ライエルさんを置いていくわけには……」

「俺たちが残って何ができる! 一刻も早く助けを呼んでくるんだよ!」

「し、しかし――!?」


 男たちは口々に意見を述べあいながらも、足をもつれさせながら走っていた。

 カーバンクルも、男たちの言葉は理解している。その言葉は、誰のものも正しい。

 ライエルの勝ち目は薄い、置いて行くわけにはいかない。助けを呼ばないといけない。

 しかし、マリアは開拓村にいて、この場にはついてきていない。どう考えても、間に合わない。


 転移魔法や飛翔魔法があれば、間に合うこともできただろう。

 しかしカーバンクルが使える魔法は、せいぜいが中級。上級に位置するそれらの魔法はカーバンクルでは使えない。

 どうにかしないと、そんな想いが焦燥感を駆り立てる。


「きゅっ!」


 背後を振り返り、もっと急げという思いを込めて一声鳴く。しかしそれすら不可能であることは、一目でわかった。

 彼らも登山のために限界まで体力を削っていた。こうして走っているだけでも奇跡に近い。

 このままではダメだ。そう思ったとき、一つの光景が脳裏によぎる。

 先日、レイドがこの三人を運んだ時の手法。中級の浮遊(レビテート)の魔法を使った方法。


「きゅきゅっ!!」


 カーバンクルは即座に行動に移す。

 三人に浮遊の魔法を掛け、その身体を宙に浮かす。そして念動(テレキネシス)の魔法で彼らに荷物からロープを出して結びつけた。

 最後にロープの一端を自分に繋ぎ、荷役(カーゴ)の魔法で三人を引っ張っていく。

 元々が肉体労働者用に開発された魔法。自分よりも重い男三人を牽引することも、できなくはない。

 しかしそれは子犬サイズのカーバンクルの肉体に大きな負担をかけることになる。


 それでも、カーバンクルは足を止めなかった。

 魔力で肉体を強制的に操作する荷役(カーゴ)の魔法は、いうなればニコルの糸による肉体補助と近い性質を持っている。

 無論そのままではただの欠陥魔法なので、肉体強度を補助する効果も含まれている。

 それでも、男三人と子犬サイズのカーバンクルでは、その補助の限界を超えていた。

 ミシミシと身体の各所から軋みが聞こえ、プチリプチリと何かがちぎれる音が聞こえてくる。

 しかしそれにかまわず、カーバンクルはさらに速度を上げていく。

 一度動き出した荷物は滑らかに動き出し、その軽くなった負担の分、さらに限界を超えた速度で肉体を動かしていった。

 まるで名馬の疾走のごとく加速し、山を駆け下りていく。自分一人なら、これほどの負担はかからなかっただろう。

 それでも彼らを連れて帰ったのは、彼らの口が必要だったからだ。カーバンクルは人の言葉を話せないのだから。

 村に戻った時、状況を説明できる人間が一人は必要だ。故に彼らを置いて行くことはできない。


「カーバンクル、俺たちを置いていけ。連れて行くのはトロイだけでいい」

「きゅ?」


 そんなカーバンクルの窮状を知ったのか、ゼルがカーバンクルに言葉を掛けた。


「状況を説明する口は一つでいいだろう? ここまでくれば、もう安全なはずだ。置いて行っても、襲われることはない」

「きゅ……」


 それは事実であり、願望でもある。

 確かにこれだけ離れていれば、魔神との戦闘に巻き込まれることはないだろう。

 しかしそれは、ライエルが健在であればという前提が付く。

 ライエルが敗北すれば、魔神は即座にその場を移動し、近隣の人里を襲撃するはずだ。

 そしてこの近辺で最も人の多い場所は、開拓村である。そこへ向かう途中がこの場所だ。

 つまりライエルが敗北すれば、彼らの安全は即座に失われる。ここは安全とはいいがたい場所だった。

 それでも、心配を掛けないように、ゼルは笑って見せた。


「安心しろ。あのライエル様が負けるわけないだろう? それに万が一こっちに逃げてきたやつが来ても、足止めくらいはしてやるからさ」


 そういって荷物から小型の盾を持ち出し、腕に装着したのはジョーンズである。

 彼もまた、カーバンクルの無茶を理解していた。


「――きゅきゅ!」


 迷っている時間はない。そして無茶を押し通して、村までたどり着けなければ、元も子もない。

 ここは男たちの提案に乗るべきだ。そう判断したカーバンクルは、念動(テレキネシス)の魔法で二人の男を解放した。


「急げよ。ライエル様も、いつまでもつかわからないぞ」


 男たちは双剣の魔神の脅威を、直接目にしたことはない。

 それでも、只人が相手できるような敵でないことくらいは理解できた。

 むしろ一対一なら勝利できるライエルの方が異常なのだ。


「きゅ! きゅきゅ!」


 必ず助けを連れてくる。そんな意思を込めて、カーバンクルは一声鳴くと、トロイを連れて再び駆け出した。

 そして三十分も経たぬうちに、カーバンクルは開拓村へ舞い戻ったのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] イーグさん!子分の危機ですよ! 出番ですよ!
[一言] ちょおま、それはフラグ!
[一言] ゼル・ジョーンズ「お笑い担当は死なないって、白い女の子が言ってたし」 カッちゃん「キュッ!(納得)」
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