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第58話 新クラスでの準備

 その後、入学式は滞りなく終了した。

 無駄に注目を浴びてしまった俺は、できるならその場から逃げ出したい気分だったが、この後は教室に行って教材の受け取りなどをせねばならない。

 両親のライエルとマリアも、列席していた貴族たちに囲まれていた。

 あれだけ派手な登場をしたのだから当然である。それに関してはざまぁ見ろという気分だ。


 幸い同じクラスにレティーナがいてくれたので、彼女が近付く生徒達を牽制してくれた。

 それでもやはり、視線は遮れない。

 針の(むしろ)の様な視線の中、所属するクラスの教室へ向かう。

 近付こうとする貴族の子弟もいないでもなかったが、そういう生徒は侯爵令嬢たるレティーナがことごとく撃退してくれた。

 こういう時、彼女の家格の高さが、実にありがたい。


 教室に入ると、教卓の上に一枚の紙が置かれており、黒板には席に対応した番号が書かれた絵が描かれている。

 つまり自分の番号に適応した席に着くように指示しているのだろう。


「ほら、ニコルさん。この番号に掛かれてる席があなたの席ですわ」

「あ、ありがとう」


 元々半魔族で、しかも暗殺者という生活を送ってきた俺は、こういった真っ当な学園生活は送った事が無い。

 基本的な教育は教会などの私塾で受け、あとは自身の経験と仲間からの聞き齧りである。

 そんな訳で、今回の式も戸惑う事が非常に多い。その様子がどうも小動物染みていて、庇護欲を刺激しているらしい。


「そんなつもりはないのだけどな――」


 どうもマリア譲りの美貌が、なにをやっても媚びるような雰囲気を醸し出しているらしい。

 椅子に座りながら、溜息を吐いて下を向く。頬に青銀の髪がはらりと落ちて、少し鬱陶しい。


「元気有りませんわね?」

「そりゃ、あんなに目立っちゃったら……」

「今更だと思いますわよ? あの二人の娘なんですもの」

「そりゃそうだけど」


 まぁ、起こってしまった事は仕方ない。それに俺の魔術の腕は最低レベルだ。とてもギフト持ちとは思えないほどに。事実、このクラスでもかなり底辺だろう。

 その実態が知られたら、今の注目もいずれは消えるはず。

 それまでこの視線を我慢すれば、いずれは空気のように扱われる……と思う。


 微妙な緊張感に包まれた時間は、唐突に終わった。

 教室の扉を叩き開ける様にして、コルティナが乱入してきたのだ。


「おっはよー諸君。ほらほら、席についてー」

「え? えっ!?」


 この学院にコルティナが教員として勤めているのは、周知の事実だ。

 しかしそれが、自分たちの目の前に来ると、やはり驚愕するらしい。俺も驚いた。


「全員座ったかな? はい、では自己紹介しまーす。私がこのクラスの担任のコルティナでっす!」

「ぶふっ!?」


 寄りにもよって担任宣言を受けて、俺は盛大に噴き出した。

 ちなみにレティーナの奴は目をキラキラさせてやがる。胸の前に手を組んで、感激のポーズのオマケ付きだ。


「な、ななな……」

「ちなみに知り合いだからって特別扱いしないからね、ニコルちゃん」

「あ、あう……」


 してやったりという表情で教卓でにんまりと笑うコルティナ。

 マリアやライエルを連れてきたり、担任に収まったりと、実に気持ちよさそうに暗躍してやがる。


「それじゃ、本題に入るわよ。まず机の引き出しを見て。中に教科書が入ってるでしょ?」


 俺は言われた通り、引き出しを探ってみた。引き出しと言っても、箪笥のような引き棚がある物ではなく、天板の下に棚を取り付けた程度の物だ。

 そこに数冊の本と、木材を削って作った駒やプレートが入っていた。


「本の方が文法の本と魔法基礎理論。基本的に大陸共用文字と古代魔法文字を覚えてもらいつつ、自分の魔力を感知する訓練を積んでもらうから」


 その訓練はすでに終えているので、俺は余裕の表情をしている。

 ついでに文字も完璧に習得しているので、この段階では俺が学ぶ事は何もない。


「あれ、俺学院にくる必要なかったんじゃ……?」


 考えてみれば、マクスウェルにでも内弟子として師事した方が、効率が良かったかもしれない。


「それから、勉強だけじゃ成長によくないからね。基本的な運動もしてもらうよ」

「えー!」


 コルティナの説明を受け、不平の声を漏らす生徒達。

 そもそもコルティナと言えば戦術の長である。実戦の場に出た事は一度や二度ではない。下手をしたら俺より多いかもしれない程だ。

 対して、このクラスにいるのは幼い頃から魔術の修行に励んできた、真正のもやしっ子。身体を動かすのが得意な者はあまりいないだろう。


「我がまま言わないの。研究派の魔術師ならともかく、冒険なり戦場なりに出るなら、体力も必要になるわよ!」


 実戦を潜り抜けてきたコルティナの一喝に、生徒達の反論が止まる。

 英雄である彼女の言葉は重く、そしてそれ以上に不興を買う事を畏れたのだろう。


「今日はこの後解散だけど、明日からは本格的に授業があるからね。今後は、身体を動かす覚悟もしておく事」

「はぁい」


 それでも基本的に幼い子供ばかりだ。しっかりと(さと)されれば言う事を聞く、素直な生徒ばかりである。

 この間のドノバンという奴が例外としか、言いようがない。


 俺達はそれからこまごまとした諸注意をコルティナから受け、ようやく解放されたのだった。


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