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第434話 アフターケア

 悪夢のような寝苦しさから、いつの間にか解放されていた。

 まるで意識を失っていたかのように拡散していた意識が、再び収束していく。

 瞼の裏に透ける光が、覚醒の時が近いことを知らせていた。


「ん、うぅ……」


 ゆっくりと目を開けると、眩しい朝特有の透き通るような光が目に飛び込んでくる。

 ベッドの脇には、隣の椅子に座ったフィニアが前のめりに崩れ落ちるようにして寝入っていた。

 おそらくは朝まで俺の看病をして、疲れ切ってしまったのだろう。

 そこで俺は、ようやく異常に気が付いた。


「目が……見える!?」


 思わず絶叫して驚愕を現した俺の声に、フィニアがビクリと震え、目を覚ました。


「ふぁ、うぁ……おはようございます、ニコル様」

「フィニア、目が! 目が治ってる!?」

「あ、はい。昨日破戒神を名乗る女の子が治してくださいました」

「え、マリアじゃないのか?」


 俺の目を治したのがマリアではないと聞き、即座に背筋に寒気が襲ってきた。

 特にあの白いのがやることだ。どこかでヘマしている可能性も否定できない。

 俺は不安げにフィニアを覗き見ると、その視線が少し潤んでいた。しかもなんだか顔が赤い。


「えと、フィニア……なんだか顔が赤いけど?」

「そうですね、レイド様。私も少し胸がドキドキしてしまって……やっぱりレイド様って知ったからでしょうか?」

「説明しよう――へぶっ!?」


 そこで俺の返事を待たずに部屋の扉が勢いよく開かれた。

 バンと叩き付けるように開けられた扉は壁まで開いて跳ね返り、再び閉じられて入ってきた者の顔面――すなわち破戒神ユーリの顔を(したた)かに強打する。

 しばらくして今度はゆっくりと扉が開かれる。

 その後、ややへっぴり腰で扉を開ける破戒神の姿が、どうにも情けなかった。


「なにしにきたんだ」


 鼻から下が赤く染まっているところをみると、先の一撃で鼻血を出したらしい。

 しかし多彩な魔法を操れる破戒神なら、その程度の傷は一瞬で治せるだろう。

 俺は欠片も心配せず、呆れた声を彼女に飛ばす。


「いや、だから説明です。それとアフターケア」

「アフターケア?」

「まずは説明からしますね」


 白いのはそういうと、部屋に入ってきて予備の椅子を持ち出し、フィニアの隣に陣取った。

 ちょこんと椅子に座ると足が浮いている。


「まず、その目は私が治しました。手順としては崩壊(ディスインテグレイト)の魔法で寄生したスライムを分子レベルで分解。そのあとで眼球の再生ですね」

「待て、眼球内に寄生した微小スライムをピンポイントで攻撃したのか?」

「それくらいはできますとも。ただ、治癒魔法は少し苦手なのでわたしの血液を触媒にして、再生(リジェネーション)の魔法で癒したんです」


 再生(リジェネーション)の魔法は失われた部位すら再生させる、高位の治癒魔法だ。

 確かにそれなら、破壊された目も元通りになるだろう。


「ニコルさんは肉体的にも魂的にも、わたしの子孫にあたりますので、血液も問題なく馴染むことができました。ただ一つ問題が……」

「いやな予感しかしねぇな」

「はい、馴染みすぎたので私の力を一部引き継いじゃいました。てへ」

「は?」


 可愛らしく舌を出して見せる破戒神に、おれは全身が震えた。

 誰だって俺と同じ想いをするだろう。自分の身体が、他者の影響で何かに変わってしまったかもしれないのだ。

 これが怖くないはずがない。


「え、影響は……?」

「えーと、それほど危険はないですよ? わたしの目の能力は相手を魅了する力ですから」

「つまり、目を合わせると、相手が魅了される?」

「そうですね。もちろん、本家であるわたし以上の力はありませんので、そこはご安心を」

「ちなみにお前の力はどれくらい?」


 俺の質問にフイッと視線を逸らせる破戒神。

 その顔をひっつかんで無理やりこっちを向かせる。


「どれくらい、なんだ!」

「いだだだ。言います、言いますから離して!?」



 涙目になって主張するので、俺は顔を解放してやった。

 両頬を押さえながら、破戒神は俺に恨みがましい視線を返す。


「今までは想像でしたが、こうして拝見した結果、感情を好意的な方面に揺らす程度の影響しかありません。ただ好意的な方に関しては暴走する危険があるので、その点はご注意を」

「ひょっとしてフィニアの顔が赤いのは……」

「間違いなく影響がありますね。そこでアフターケアです。この眼帯をどうぞ」


 そういうとローブの袖元から、眼帯を一つ取り出して見せた。

 それは黒をベースにした革製で、まるで海賊が着けている例のアレみたいなデザインになっている。


「なぜ、眼帯……?」

「うちの旦那の趣味らしいです」

「眼鏡でもよくないか? ほら、お前のみたいに」

「ダメです。これは愛しい旦那のプレゼントなので」

「同じのを作ってくれよ!」

「ぜぇったいイヤです!」


 眼鏡を必死に押さえて、俺の要求を拒否する。まあ、旦那のプレゼントなのだから、拒否するのも当たり前か。

 それに他所の女とお揃いというのも、微妙な気分になるだろう。


「まあいい。それで、これは片目しか隠さないんだが、両目とも効果はあるのか?」

「はい。それは問題なく。ついでにあなたの祝福(ギフト)にも、魅了(弱)というのが追加されているはずですので、伝えておきます」

「ああ、わかった」


 神に与えられた能力という点では、これも間違いなくギフトなのだろう。

 それにしても、微弱とはいえ魅了の効果か。これはこれで面倒な能力だと、俺は溜息を吐いたのだった。


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