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第409話 魔神の襲撃

 ライエルはマクスウェルの飛翔(フライト)の魔法で最寄りのタウの村までやってきた。

 しかしすでに村は戦渦に巻き込まれ、一部の建物が焼き払われている状況だった。

 村の惨状を知り、歯噛みして激情を押し潰すライエル。その感情そのままに押し殺した声で周囲の者に指示を飛ばす。


「誰か、無事な者はいるか?」

「これは……ライエル様!?」

「この村の衛士か? 状況はどうなっている?」

「はい、朝方に少数の魔神と半魔人族による襲撃を受けました。村の建造物が数棟焼かれ、現在は西側で破壊活動を行っております」

「避難状況は?」

「一般市民はすでに避難済みです。ですが安否の確認がとれぬものも数名。特に娘が多く、ひょっとしたら身柄を拉致された可能性も――」

「わかった。西側にいるんだな? そっちは俺とマクスウェルで片をつける。お前たちは行方不明者の捜索と確認に全力を尽くしてくれ」

「ハ、了解しました!」


 ライエルほどの実力者はこの近隣に存在しない。治安維持のために力を貸しているため、この村にも頻繁に顔を出していた。

 その知名度もあって、すんなりと彼の指示を受け入れる衛士。

 そしてマクスウェルを(ともな)い、西側の戦闘区域に足を運んだ。

 そこでは衛士と身長五メートル近い魔神が戦闘行為を行っており、ときおり放たれる炎のブレスで、今なお火事が増え続けていた。


「そこまでだ、この放火魔どもめ!」

「フン、またぞろ雑魚が……なに、ライエルだと!」

「何やら小細工を仕掛けてくれたらしいが、その暗躍もここまでだ。大人しく縛につくなら、命までは取らんぞ」

「まさか調査を放り出して、この奇襲に備えていたというのか……おのれ、だがただでは死なんぞ。ソクラム、奴を足止めしろ!」


 実際はニコルの調査が済んでいたため待機していたに過ぎないのだが、その事情は半魔人の男には知るべくもない。

 ともかく、ここで彼がライエルを足止めしておけば、確保した生贄を連れ去る時間を作ることができる。この場にライエルが現れたのは計算外だが、それならそれで最大限の戦果を挙げる必要があった。


 ソクラムと呼ばれた魔神は、その手を振りかざしライエルへと迫る。

 五メートルを超える巨体から振り下ろされる拳は、見る者を竦ませるほどの圧力を持っていた。

 しかしそれは一般人ならの話である。歴戦の猛者であるライエルには通用しない。


「往生際の悪い――」


 呆れた声と共に羽虫を払うように、聖剣を引き抜きざまに横薙ぎに振るう。それだけでソクラムの右腕は宙を舞った。


「グギャアアアアアアアアアアァァァァァァァ!」


 怒りの声とも、苦痛の声ともわからぬ絶叫を上げる魔神ソクラム。

 その声すら耳に入らぬと言わんばかりに、ライエルは無造作に剣を振りかぶり、その足元に斬り込んでいく。

 胴体を狙わないのは、あまりにも身長差がありすぎるせいだ。

 これはとっさに避けた魔神だが、その体勢は大きく崩れ、後方へと退くことになった。


「ばかな、ソクラムの皮膚は鋼並みの強度があるというのに……」

「その程度なら邪竜の方が固かったな」

「くっ、腐っても六英雄の一人ということか!」

「誰が腐ってるんだ、まだまだ現役だよ、俺は!」


 反射的にそう言い返している隙に、今度はマクスウェルが魔法を放つ。

 使った魔法は爆炎槍(ファイアジャベリン)。小声で、だが素早く詠唱されたそれは、それこそ鉄すらも焼き溶かす火力を持ってソクラムを撃ち抜いた。

 胸に大穴をあけて崩れ落ちるソクラムを見て、半魔人の男は絶望的な声を漏らす。


「バカな、炎の属性を持つソクラムが炎の魔法で……ファイアジャイアントにすら匹敵するというのに……」

「なんだ、その程度なら楽勝だな」

「この化け物どもめ!」

「で、どうする? 大人しく捕まるなら、命までは取らずにおいてやる。無論、賠償金は支払ってもらうがな」

「知ったことか!」


 男は一声叫ぶと、短剣を抜き出しライエルへと飛び掛かっていた。

 もちろん男がライエルにかなうはずもないことは、この場にいる誰もがよく理解している。

 それでも襲い掛かったのは、自身の口封じの意味も兼ねてだ。


 すでに生贄になりそうな数名は拉致している。本当ならばもっと確保しておきたいところだったが、ぎりぎり赤字ではないと思いたい。

 後は逃げ延びるだけなのだが、ライエル以外にもマクスウェルが控えている現状、それは不可能に近い。

 ならば拉致を行った者たちが逃げ延びる時間を、ここで少しでも稼いでおかねばならない。

 そして捕まれば、マクスウェルの多彩な魔法で否応なく自白させられる可能性もあった。確実に自分の口を塞ぐ必要がある。

 そう判断し、覚悟しての行動だった。


「無駄なあがきを――」


 だが、その考えをライエルが知る由もない。

 魔神を召喚し、従える男を野放しにしては、どんな反撃が待っているかわからない。

 腕を斬り落とそうが、喉を潰そうが、どんな手段で魔神とコミュニケーションを取って命令を下すのか、彼にはその知識が無かった。

 だから確実を期すために、反撃してきた男を問答無用で袈裟懸けに斬り伏せた。


「ぐはっ!」

「悪いが、魔神使いはどんな奥の手を持っているかわからんからな。とどめを刺させてもらう」

「し、しったことか……のろわれろ、ろく、えい……ゆう、め……」


 口元から真っ赤な泡を吹きながら、怨嗟の声を上げる男。

 その血の色から、肺を傷付けたことが見て取れる。治癒しなければまず助からない傷だ。

 そしてマクスウェルの技術でも、それは間に合わないほど深い傷だった。

 やがてこと切れる男を見て、マクスウェルは深い溜息を吐いた。


「手加減なしか。情報源に生かしておいてもよかったじゃろうに」

「生き延びる気が無い奴を生かして捕らえるのは手間がかかる。残念だが今はその時間はない」


 村の中はまだ炎に包まれている。

 戦闘の中心でもあるこの場所では、避難が完了しているとは思えなかった。今も助けを求めている村人がいるかもしれない。


「マクスウェル、生存者を探してくれ。それと逃げた犯人も見つけてくれると助かる」

「魔法と言えど万能じゃないんじゃぞ。そうあれこれとできるモノではないわ」


 肩を竦めながらも生命探知(ライフサーチ)を使って、生存者を探し出そうとするマクスウェル。

 それを見てライエルも無言で瓦礫の除去に励んだのだった。


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