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第403話 村への帰省

 ストラールの街に来て以降、月に一度はラウムに戻り、週に一度は北部の自宅に戻っている。

 もちろん今までは自力での移動ができなかったので、マクスウェルに送迎してもらう手はずになっていた。

 だが俺は転移(テレポート)を覚えたため、その気になれば毎日でも北部に戻れるようになった。

 これを活用しない手はないだろう。


「ということで、今日も会いに来たよ、フィーナ!」

「にこねーたん、らしゃー」


 夕方、街中の雑務依頼を済まし、汗を流してすぐに俺は北部の自宅へと向かった。

 さすがに俺以外を転移させるのは魔力的に厳しいため、俺一人での移動だ。


 そんな俺を歓迎するためか、フィーナは両手を上げて万歳のポーズで俺を出迎えてくれる。

 三歳になり、それなりに活発に動けるようになったフィーナは、太陽のようにまぶしい笑顔で俺に駆け寄ってきた。

 やはり前世の記憶を持つ俺に比べて、言葉使いや言動が歳相応というべきか。

 俺がいかに異質な存在だったかを思い知らされる。


 フィーナはライエル似の金髪を持ち、マリアに似た赤い瞳と顔立ちをしている。

 その容姿はまさに太陽の化身といっても、過言ではない。


「いらっしゃい、ニコル。最近よく来てくれるからママも嬉しいわ」

「うん、母さんも元気そうね」


 さすがに十五歳になってママはないかと思い、最近は母さんと呼んでいる。

 前世でそんな存在を持たなかったので、呼ぶたびに背中がむず痒くなる思いがするが、不快なものでは無い。

 フィーナを抱き上げると、彼女は俺の胸に力いっぱいしがみついてくる。

 どうやら彼女はフカフカした感触が好みらしい。


「今夜も食事くらいは食べて行ってくれるのでしょ?」

「うん。ガドルスの料理もおいしいんだけど、油断すると余計なお肉が付いちゃいそうで」

「ふふ、ドワーフの料理だから冒険者受けはいいのだけどね」


 ガドルスが供する料理は、典型的なドワーフ料理というべき物が多い。

 食材を丁寧に下処理し、それを炎と油で一気に仕上げるのが特徴だ。

 味が濃く、ボリュームもあり、運動量の多い冒険者には非常にありがたい料理ではあるが、年頃の女の身体としては、やはり腰回りに来そうな脂っこさが気にかかる。

 その点マリアの料理はフィニアに似てバランスというモノがよく考えられている。


「父さんは?」

「今日は北の森に狩りに出てるわ。最近梟熊(オウルベア)が住み着いたらしいんですって」

「オウルベアかぁ。お肉が独特の風味で美味しいんだよね」

「普通の女の子は怖がるところじゃないかしら……すっかりワイルドになってしまったわね」

「冒険者ですから」


 梟熊(オウルベア)はその名の通り、梟のような翼を持つ巨大な熊だ。

 空を飛べるため、脅威度は非常に高いが、ライエルならば単独でも余裕で倒せるだろう。

 その獣とも鶏とも言えぬ独特の味を持つ肉は、牛や豚よりも好みだという人間も多い。


「お土産、あるかな?」

「討伐に成功したら、持って帰ってくると思うわよ」

「おみやげー」

「うんうん、フィーナも楽しみだよね」


 食事の支度をしていたらしいマリアの後ろについていく。

 厨房に入ったところで俺は頭上から襲撃を受けた。


「きゅー!」

「ふぐぇ」


 食器棚の上から俺に襲撃をかけてきたのは、カーバンクルのカッちゃんである。

 以前は子犬サイズだったカッちゃんは、ちょっとした中型犬くらいの大きさにまで育っていた。

 そんな質量が俺の頭に向けて飛び降りてきたら、耐えられるはずもない。

 俺はフィーナを抱いたまま床に押し倒されることになった。


「もぅ、カッちゃん、危ないでしょ!」

「きゅう……」

「かったん、めっ」


 俺とフィーナに揃って叱られたことで、カッちゃんは珍しく悄然と頭を垂れた。

 フィーナは『めっ』と叱っておきながら、全身で抱き着いている。

 中型犬サイズで肉付きもいいカッちゃんは、彼女のお気に入りの抱き枕になっているようだ。


 俺は厨房に置いてあった椅子に腰かけ、膝の上にフィーナを乗せる。

 そのフィーナの上にカッちゃんが抱かれているのだから、もう何が何だかわからない状態だ。

 マリアはそんな俺たちを見てクスリと微笑んだ後、料理の続きを始めた。

 手を洗い、野菜をリズムよく刻んでいく。

 その後ろ姿はまさに母を象徴するかのような立ち姿で、思わず見惚れてしまうほど心が落ち着くのを感じる。


「にこねーたん、きょーはおふろもいっしょにはいる?」

「ん? ああ、お風呂かぁ……どうしよ、入ってきたんだけどな」

「フィーナを入れてくれるなら助かるわね」

「そう? じゃあ一緒に入ろっか?」

「やたー!」

「お湯ならもう沸かしてあるから、先に入ってらっしゃいな」

「用意がいいね」

「ライエルが帰ってきたら入る必要があるでしょう? だから用意してたのよ」

「じゃあ、そうさせてもらう。ついでにカッちゃんもいらっしゃい。洗ってあげる」

「うきゅ!」


 フィーナとカッちゃんを連れて、俺は浴室に向かった。

 この屋敷の浴場は結構広い。さらにマッサージなどをする寝台まで用意されているので、けっこうくつろげる。

 興奮して大暴れするフィーナをなだめすかしつつ、カッちゃんを洗い上げ、俺は湯船の中で身体を伸ばす。

 フィーナも風呂の中に置いた小さな椅子に腰かけて、肩まで湯に浸かっていた。

 子供の彼女ではこうしないと溺れてしまうからだ。


「フィーナ、お風呂の中くらいカッちゃんは放してあげたら?」

「やー」

「ま、いいけどねー」

「ねー」


 もはやすっかりフィーナのおもちゃと化しているカッちゃんである。

 しかしその体型は以前にも増してふっくらしているので、ストレスを感じているわけではなさそうだ。

 充分に温まったところで風呂から上がると、屋敷がどうにも騒々しい雰囲気になっていた。

 どうやらライエルが狩りから戻ってきたらしい。


 それも、血まみれの姿で――


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