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第326話 五年振りの再会

 冒険者ギルドでは、それはもう耳を塞がざるを得ないほどのないほどの喝采に包まれていた。

 城壁を利用しての防衛戦。市街に侵入された際の誘導殲滅。エルフの村への援軍要請。そしてゴブリンロードへの奇襲。

 今回コルティナは、限られた時間と戦力の中で、いくつもの手を打っていた。

 それを冒険者の目の前で披露したのだから、その興奮も無理はあるまい。


 援軍に駆け付けてきた、エルフの集落――つまり、温泉町の冒険者も押しかけ、互いに手を叩いて健闘を称え合っていた。

 俺とミシェルちゃんも、そんなギルドに戻ってきて、その騒動を目にする。


「うわー、すっごいね」

「そりゃ、九倍の敵を撃退したどころか、ほぼ壊滅までもっていったからね。相変わらずえげつない」


 かつて彼女は戦場において、倍以上の敵を同じような状況に持ち込んだこともある。その実績を何度か目にした経験がある俺としては、まあ、それほど驚きはしない。

 だがここにいる冒険者はそれを初めて目にしたわけだ。


「相変わらずって……ニコルちゃんは前に見たことあるの?」

「えっ!? いや、ほら。授業とかで?」

「そう言えば戦術とか教えているんだっけ。すごいね!」

「それはむしろキミだよ……」

「ん、なにかいった?」

「いや、なんでも」


 今回、彼女は全力で敵を殲滅した。

 市街に侵入したゴブリンを根こそぎ狙撃し、ゴブリンロードも彼女が討ち取っている。

 更に群れを率いる小隊長クラスのゴブリンたちも彼女の手によって射殺されていたらしい。

 いくら白いのの助力があったとは言え、大暴れにもほどがある。


「それよりほら! クラウドくんもいたよ」


 ミシェルちゃんが指さす先には、クラウドと……睨み合っているマイキーの姿もあった。

 そしてそれをニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて眺めるマテウスの姿も。


「あれ? あそこにいるのって……」

「マイキー君だね。ミシェルちゃんは久しぶりになるかな?」


 温泉町にいた少年、マイキーはその後冒険者になっていた。

 俺は白いのの約束で年に一回、彼とカッちゃんを会わせに向かっているので、それほど久しぶりでもない。

 だがミシェルちゃんにとっては数年ぶりの再会になるだろう。


「そうだね、もう五年くらい? 大きくなったなぁ」

「それは向こうも同じ感想を抱くと思うんだけど?」


 ミシェルちゃんも、五年前に比べてすごく大きくなっている。主に体の一部が。

 しかし、それはそれとして、なぜクラウドとマイキーが睨みあっているのか?


「クラウド、お疲れ様。マイキーくんも」

「あ、ししょ――ニコル。帰ってきてたのか」

「うん、途中でちょっと川に落ちちゃってね。遅くなった」

「川を見ると落ちる癖でもあるのか……?」

「なんだってぇ?」


 余計なことを言うクラウドの脇腹に一発入れておき、マイキーにも俺は一礼する。


「マイキーくんも、今回はありがとね」

「いや、それほどでも……ほら、ラウムが襲われたら次は俺たちの町だし」

「あ、その可能性は高いね。でもよく間に合ってくれたよ。しかもこれだけの人数連れて」


 温泉町は人の出入りが多いため、冒険者も多い。

 だがラウム救済という危険をあえて冒そうという冒険者は、そんなにいなかったはずだ。

 根無し草の彼らにとって、今回の騒動は儲けが少なく、逃げてしまえば被害も受けない戦いだったのだから。


「うん、ハウメアさんとコールさんがエルフの人を引き連れて出てったからな。俺たちも、ついていかないわけにはいかないさ」


 鼻の頭を掻き、視線を逸らすマイキー。

 ここ最近、俺の前ではこういう態度を取ることが増えている。

 まあ俺も木石の類ではない。最近は彼女もできたし? 彼が俺にどういう感情を持ちつつあるのかくらいは察している。

 だがそれに応えてやることはできないし、何より面倒だ。

 どうしたものかと思案していると、クラウドが珍しく好戦的な言葉をかけてきた。


「なんだよ、はっきりしてねぇな。田舎の冒険者は優柔不断なのか」

「あん? 立場がわかってねぇ馬鹿がいるな。助けてもらったのはどっちだよ?」

「俺たちだけでも倒して見せたさ。こっちにはコルティナ様もいるからな」

「んだとぉ」


 そこまで聞いて、この二人の相性が悪いことに、初めて気が付いた。

 考えてみればクラウドは俺より二つ年上の十四歳。そしてマイキーも同じくらいの年のはずだ。

 双方ともに成人間近の冒険者で、いわば新人(ルーキー)。似た立場故にライバル心を持ってもおかしくはない。


 それに防御型のクラウドと、攻撃型っぽいマイキーでは、ことさらライバル心も煽られようというものだ。

 その上、睨みあう二人にさらに火種をぶち込もうとする不心得者が、ここにはいた。


「そんなにお互いが気になるんならよぉ。地下で白黒つけたらどうだい?」


 訓練場に行って試合でもしろと、マテウスが言い出したのだ。


「そんな暇無いでしょ。それより冒険者でもないのに、何でここにいるの」


 マテウスは引退した身の上だ。一応街の出入りに便利だから、冒険者の資格は持っていたらしいが、それも今は有名無実化している。

 ここに顔を出す必要はないはずだ。


「ちょっと報告があったんだよ。それよりお前ら、やんのか、やらないのかはっきりしろ?」


 そして間の悪いことに、マテウスの煽りを聞きつけた者がいた。

 見知らぬ冒険者だったので、おそらく集落の冒険者だろうが、そいつはマテウスよりもさらに大きな声で囃し立てた。


「おお、マイキー、お前首都の冒険者と試合すんのか? 負けるんじゃねぇぞ!」

「なんだって?」

「あの少年が……クラウドと?」

「そりゃ面白い、ぜひやってくれ!」


 次々と連鎖していく騒動。さらに最後のセリフ、お前仕事はどうしたギルド長。

 そんなわけで、クラウド対マイキーと言う、なんだか意味がよくわからない試合が行われることになったのだ。


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