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第252話 半年後、十一歳

     ◇◆◇◆◇


 北部三か国同盟にある、とある村の世界樹教の教会。

 その地下に数人の男たちが集まっていた。

 まるで人目を忍ぶように、控えめな蝋燭の灯りだけの会合。あからさまに、真っ当ではない連中ばかり。

 そんな薄暗い議場で、男たちはそれぞれの成果を報告し合っていた。


「東部からは三名。うち二名に『素養』が確認されたため、教育に回している。残る一名はしかるべき時に捧げるとしよう」

「確認されたのは二名だけか? それでは物になるかどうか怪しいところだな」

「しかたあるまい。我らは表立って動くわけにはいかない者ばかりなのだから」

「中央からは四名。こちらも二名が『素養』を持っていた。だが『生徒』が二名死亡したので、結果的に総数は変わらん」

「むしろ一から教育せねばならぬ分、後退したと言っていいな」


 それぞれが取り出した資料に目を通し、人員の変遷を報告している。

 その状況は一進一退。新規加入させた分死亡者も多いため、増えもしなければ減りもしていない。


「それと、西部からの人材が途絶えているのだが? あと南部の動きも鈍い」

「あそこは担当者が不慮の事故にあったらしくて、活動が一時中断しておる」

「不慮の事故?」

「隕石が落ちたとか。協力者ごと巻き込まれたため、一から組織しなければならん」

「ふむ? 南部と西部は今後の成果を期待できないか」

「代わりに北部の活動を活発化させるとしよう。今は目を光らせていた六英雄どもも、留守にしていることだしな」

「今では五英雄だがな。忌々しい暗殺者はどうにか消せたが、あと一人くらいは減らしたいものだ」

「ジェンド派が壊滅した以上、下手な手出しはやめておいた方がよかろう」

「他にも暗殺を請け負う組織はある……が、そうだな。ほとぼりを覚ます期間は必要か」

「そうだ。では次の議題に移ろう。『教育』の成果が思うように進展していないことについてだが……」


 男たちは、さらに別の話題へと移る。

 結局、この秘密の会合は、朝方まで続いていたのだった。



     ◇◆◇◆◇



 マリアの爆弾発言から半年の時が過ぎた。


 半年という時間は短く感じるかもしれないが、それでもいろんなことが起きている。

 まず、マクスウェルが首都の酒場から発見したという口実で、徴税証明書をドノバンに返却したこと。

 これによりドノバンの無実は公の物となり、彼は名実ともにストラ領の領主となった。

 マクスウェルから後日聞き出したところによると、クレインの身体の一部が浜辺に漂着していたらしく、奴の死はほぼ確定となっている。

 ドノバンは(いた)く感激し、今では俺を聖女のように敬ってくれている。ありがたいようで、地味に鬱陶しい。


 さらに三か月程度後にはエリオットが学院を去っていった。

 元々半年という期限を切った非常勤講師だったが、襲撃事件で半分まで休暇を削られたようだ。

 俺とは名残惜しそうにしていたが、ラウムにハウメアがいないという情報もあり、祖国にいるのではないかという希望を持って、いそいそと帰国していった。無論、護衛のプリシラも一緒だ。

 あの朴念仁がプリシラの想いに気付くのはいつになるやら。


 俺も学院で着実に成長し、今では中級の干渉系魔法を学ぶ位置まで来ている。

 このペースならば、卒業までに飛翔(フライト)くらいは覚えられそうだ。





 マリアの妊娠の発覚から半年も経つと、さすがにその腹も目立ってきている。

 その膨らみは脂肪によるものと違い、固く詰まった感じに膨らんでいた。それは明らかに内部に存在する生命の力強さを感じさせるものだった。


 そして、それまでの間に俺も十一歳の誕生日を迎えていた。

 半年の間で身長も三センチメートルほど伸び、ミシェルちゃんより一足遅れて成長期がやってきたようだった。

 同時に俺も頭を悩ませる問題が顕在化してきた。

 それは……オッパイの成長である。


 最初は少しばかりふっくらしてきたかと思っていたのだが、ウェスト周りはいつも通り細いままだったので、女性としての成長を把握できた。できてしまった。

 さらに最近は、尻も丸みを帯びだしてきたので、これは本格的に二次性徴が始まったと見るべきだろう。

 もちろん、その間ミシェルちゃんも順調に成長していた。

 夏場は一緒に水浴びするのが楽しみになってきたくらいだ。また正体がバレてはいけない相手が増えた気がする。

 逆にレティーナは全く女性らしさが現れておらず、これは種族差が出ているとみるべきだろうか。エルフは人間と同じように成長するが、やはり華奢なものが多い。


「とは言え、剣を振る上では少し邪魔になってきたかもしれない」


 両手で剣を構えると、腕と腕の間に膨らみ始めた胸がむぎゅっと寄せられることになる。

 腕の内側に覚えのない肉の感触。これは生前を通しても経験のない感触である。

 今までの経験にない感触のため、腕の動きに微妙な違和感を俺に覚えさせる。


「ニコルちゃんはまだマシだよー。わたしなんて最近弓の弦が当たって痛くて痛くて」

(うつぶ)せに伏せた時とか、違和感凄いよね」

「ねー」

「もげればいいと思いますわ。まったく人間はすぐにプクプクふくれるのですから!」

「レティーナちゃんは細くてうらやましいなぁ」

「イヤミですの!? イヤミですわね、確実に!」

「あの……そういうのは男のいない場所で語ってくれませんかねぇ?」


 さらっと俺たちのガールズトークに紛れ込むクラウドに、三人が白い視線を送る。

 現在は恒例の食材稼ぎの最中である。クラウドがいるのは不思議ではない。

 しかしそんな事情は年頃の女性には関係ないのだ。


「な、なんだよ、しかたないだろ。俺だってこれは修行の一環なんだから」

「べぇっつにぃ?」

「クラウドくん、えっち」

「聞こえない振りをするデリカシーは持ち合わせていませんの?」

「無茶言うなよ!」


 クラウドとて、もう十三歳が近い。そろそろ色を知る年頃である。

 俺は元より、ミシェルちゃんやレティーナのような美少女揃いのパーティ内でこういった会話に耳を(そばだ)ててしまうことも無理はない。


「スケベなクラウドは置いとくとして――」

「置いておくなよ!?」

「置いておくとして! ママがそろそろ動けなくなる時期だから、栄養のある食材を持って帰りたいの」

「なら、今日の狩りは頑張らないとね」

「マリア様のためならガンバれますわね」

「俺の時は……?」

「聞きたいですの?」

「いえ、いいです」


 冷たいレティーナの視線にクラウドの反論の勢いがしおしおと萎む。

 クラウド、知っているか? その視線を受けたくて仕方ない連中が、冒険者ギルドには山のようにいるんだぞ。

 他にもミシェルちゃんの膨れっ面を向けてほしがってる連中とか、俺に蔑む視線を送ってほしい連中とかいるらしいので、ラウムの冒険者ギルドはもうダメかもしれない。

 そしてその欲求を一手に引き受けているクラウドへの嫉妬は天井知らずになっていた。

 現に今でも、暇を見ては他の冒険者連中から可愛がられているらしい。


「でも滋養ある食材と言いましても、何がいいんでしょう?」

「そりゃ、お肉だよ、お肉!」


 レティーナの疑問に、ミシェルちゃんは両手を振り上げて強弁する。

 肉食系女子っぷりは相変わらずだ。


「また野牛とかいませんかしら?」

「あんな大物は普通いないよ。この近辺は冒険者にきっちり見張られているんだから」

「蛇とかトカゲじゃ、食い甲斐がないよなぁ」

「滋養がつくと言えばカーバンクルじゃない?」

「キュッ!?」


 ちらりと俺が頭上に視線をやると、びくっとした雰囲気が伝わってくる。

 そこには半年前よりもサイズアップして、そろそろ頭に乗られるのがつらくなってきたカッちゃんの姿があった。

 カッちゃんはカーバンクルの中でも、さらに子供だったらしく、この半年でさらに大きく成長している。

 以前は猫くらいのサイズだったのだが、今は小型犬程度のサイズに育っていた。しかも、その体型は丸々と脂肪を蓄えていて、食生活の充実が見て取れる。


「カッちゃんもそろそろ運動しないと、わたしの頭にのせてあげないからね?」

「キュ、キュ~」


 俺の警告を受けて、慌てたように運動を開始するカッちゃん。だが俺の頭の上で運動するのはやめてもらいたい。

 頭がぐらぐらと揺らされて、非常に気持ち悪い。


「まあカーバンクルは冗談として、本当にママには栄養を取ってもらわないと、わたしみたいな虚弱児になっちゃうから」

「それはそれで可愛らしいとは思いますけど……」

「でも、心配ばっかりさせられるから、よくないよね」

「目を離した瞬間に気絶する技はニコルだけだと思うけど?」

「おまいら、あとでおぼえてろ」


 友達甲斐のない発言の連打に、俺は虚ろな視線を返したのだった。


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