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第151話 災害の到来

 まるで慌てるような息使い、もつれるような足音。どう見ても正気とは思えない気配。

 それが裏から玄関に向かって移動していく。


「誰か来た。足音が荒い」


 俺の声に奥に移動し、警戒体制を取るミシェルちゃん。俺も短剣を抜いて警戒する。

 彼女達が奥に移動したのは、俺が足音が荒いと警告したからだ。そして小屋の奥には窓がある。いざという時はそこから外に逃げる事ができる。

 今は前衛をこなせるのが俺しかいないので、こういうフォーメーションを組んでいる。

 俺も、室内ではカタナを振り回すのには狭いので、短剣を選択していた。


 そこへ息せき切って男が一人飛び込んできた。

 小太りで健康そうな中年。コルティナから聞いていた通りの外見。

 おそらく彼が、この小屋の主人なのだろう。


「だ、誰だ!?」

「あなたが小屋の主人ですか?」


 武装した俺たちの姿を確認し、狼狽した声を上げた主人だったが、その姿が子供とあって、次第に落ち着きを取り戻していった。

 そもそも服装からして学院指定の体操服なので、落ち着けば強盗じゃないことくらいは一目でわかる。


「その服装、魔術学院の生徒さんかい?」

「はい。案内の人が来ないので、わたしたちが捜しに来ました」

「そいつは申し訳ない。だが今はそれどころじゃないんだ。早く避難しないと!」

「避難?」


 男の口から不穏な単語が飛び出してきた。これは俺も想定していない。


「ああ、さっき隣のフィリップから知らせがあったのだが、山蛇がこちらに向かってきているらしいんだ!」

「山蛇!?」


 男の報告に、俺達は驚愕の声を上げた。

 彼が口にした山蛇とは、その名の通り、山のように巨大な蛇だ。まあ、実際は山ほどの大きさはない。

 デカいだけならどうとでも対処できるように思えるかもしれないが、その大きさが半端ない。

 太さにして軽く五メートル以上。長さは百メートルを超える個体すらいるバケモノである。

 蛇の本質からして、自分よりも太いモノも飲み込める。つまりこの蛇の場合、ちょっとした巨大生物なら問題なく一呑みしてしまえるのだ。

 しかも百メートルを超える体長で障害物を薙ぎ倒し、敵を締め上げるため、下手をすれば下位のドラゴン種ですら獲物にされてしまう。

 もちろんその体重という質量ですら、充分な武器になる。砦の城壁が尻尾の一振りで叩き潰されたという逸話すら残されていた。


 そこらを這い回るだけで、木々をなぎ倒し、建物を破砕し、騎馬ですらオヤツ感覚で丸呑みしてしまう。

 そのあまりの被害の大きさから、災害級魔獣――すなわち災獣とまで呼ばれている大物。


「ちょっと、いくらなんでもそんな……確かですの!?」


 レティーナは悲鳴のような声を上げて、確認を取る。

 それに小屋の主人は慌てたように返す。


「ああ、こんな大事、未確認で広められねぇよ。フィリップがその姿を確認したってさ」

「そのフィリップさん、よくそこまで近付けましたねぇ」

「相手が相手だ、図体がデカいから遠くからでもよく見えたってよ。俺も急いで領主様に報告しようと思って戻ってきたところなんだ」


 確かに山蛇ならば、ちょっと鎌首をもたげるだけでも遠くから見える。

 そんな存在が人里に近付いたのなら、領主にも報告せねばならないだろう。


「そうだ、コルティナ様! 生徒の引率にコルティナ様が来ているんだろう? 彼女なら何とか――」

「コルティナは戦力的には一冒険者程度に過ぎない。いくらなんでも山蛇相手に一人でなんて無理」

「そ、そんな……」


 コルティナの存在に光明を見出した男が、見る見る萎れていく。

 だが俺としてもコルティナを危険な目に遭わせる訳にはいかない。いくらなんでも山蛇討伐は、俺たちが全員揃っていないと対処不可能な相手だ。


「でも、マクスウェルなら何とかできるかも?」

「だったら――」

「でも今は首都にいるから、一回戻らないと」

「それじゃ間に合わん。もうすぐそこまで来ているんだ!」

「どうしてそばに来るまで気づかなかったの?」

「この辺りは開拓した半面、森の部分が深いんだ。木々は他より高く成長していて視界を遮る。しかも近くには切り立った渓谷があるから姿を隠す場所には不自由しない。おそらくそこを通って近づいてきたんだろう」


 泣き声混じりで説明してくれる男だが、気持ちはわかってもどうすることもできない。

 今の俺が本気を出したとしても、どうしようもない相手だ。

 マクスウェルの火力があれば、どうにかなるかもしれないが、その本人は首都で留守番をしている。


「とにかく今は、早く戻って生徒たちを避難させないと……」

「そ、そうだ。俺はそれも知らせるために――」

「それはわたしたちがやっておく。あなたは領主様に報告して、避難誘導する部隊を出させて」

「あ、ああ、わかった!」


 男は返事をすると小屋を飛び出し、馬小屋から農耕馬を一頭引っ張り出していた。

 これで領主の館まで走るつもりなのだろう。

 俺達も男の小屋から飛び出し、生徒たちの元へ駆け戻っていた。


 相手は百メートルを超える大蛇。軍隊を出したとしても対処できるかわかったモノではない。

 山蛇の皮は柔軟で強靭。持ち運びできる小さな弓や弩程度では傷一つつかない。

 槍や剣を持って接近戦を挑めば、パクリと一口で平らげられる。

 そもそも騎馬隊を編成しても、尻尾の一振りで薙ぎ払われてしまう。

 軍隊で相手にするには、難しいだろう。


「あの、本当にコルティナ様でも無理なの?」

「倒せるとしたら、マクスウェルまではいかないけど、広範囲の魔法が必要になる。パパやガドルスでも、足止めにもならない」


 駆け戻りながら、レティーナが俺に質問を飛ばす。

 六英雄をそれこそ神とでも思っている彼女にとって、手に負えない相手がいるという事が信じられなかったのだ。


 だが俺はその幻想を否定する。勝てないものは勝てない。

 コルティナならば有利な状況に持ち込むことは可能かもしれないが、それでもトドメを刺すには圧倒的に攻撃力が足りない。

 それほどの脅威的な生命力を、山蛇は持っている。


「あの……ひょっとしたら、わたし倒せるかも?」

「はあぁぁぁ!?」


 唐突に割り込んできた、ミシェルちゃんの一言に、俺は奇声を上げてすっ転びかけた。

 コルティナでも無理な事を、彼女ができるはずがないと思ったからだ。

 だが、それも彼女が差し出した武器を見て、考えを変える。


「この弓……白銀の大弓(サードアイ)なら、山蛇を仕留められるかもしれない」

「それは……」


 彼女の主張に、俺は即座に計算を巡らせる。

 確かにこの弓ならば、当たり所がよければ一撃で仕留める事が可能だろう。

 図書館で調べたところ、破戒神はかつて、弓の一撃でドラゴンを落としたという逸話を持っていた。その時に使ったのがこの弓ならば、山蛇程度なら楽勝のはず。

 だがその確証はない。今は確認のしようもない。


 しかし、サードアイの攻撃力が桁外れなのは、俺も身をもって知っている。

 矢に当たらなくても、その衝撃波だけで周辺を吹き飛ばすほどなのだ。

 しかも今は俺の支援魔法で、半分程度ならミシェルちゃんも引くことが可能。


「だけど、山蛇は意外と素早いよ。頭を狙って当たるかどうかわからないし、できるなら目に当てて、脳まで破壊しないと死なないかもしれない」

「うん、でも……」


 言い淀むミシェルちゃんの視線は、周囲の花畑に向けられていた。

 彼女の思いはわかる。この光景が、山蛇に蹂躙されるのは、俺も遠慮したい。

 それにこの近辺に住む人々も、壊滅的なダメージを受けるだろう。まさに命があるだけ儲けモノ的なレベルで。


「……わかった。コルティナに相談してみる。ダメって言われたら、避難しよ?」

「うん!」


 ミシェルちゃんは元気に返事をしてくれた。放置すると、彼女一人で討伐に向かいかねないとも思ったからだ。


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