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第125話 新しい家族

 それから時は過ぎて数週間。特に何事もなく日々は過ぎて、平穏な暮らしに戻っていた。

 月が変わって七月に入り、暑さも本格化してきている。

 俺はその日、非常に憂鬱な気分で扉を開けた。いつもならば、ここにミシェルちゃんとレティーナが待ち構えているのだが……


「キュ?」


 そこには全く別の毛玉が存在していた。

 いや、見覚えはある。だが、なぜいるのかが理解できない。そこには数週間前に別れたばかりのカーバンクルが、風呂敷包みを担いで立っていたのだ。


「なぜ、いる?」

「キュキュ!」


 カーバンクルは器用に風呂敷包みをおろし、その中から一通の手紙を取り出した。

 俺がいつまで経っても登校しないことに訝しんだのか、コルティナも家の奥から顔を出してくる。


「どうかしたの、ニコルちゃん――って、カーバンクル!?」

「うん、なぜかいる」


 どう答えていいのかわからず、俺は端的に事実を述べた。

 カーバンクルの差し出した手紙を受け取り、その中身を改める。

 そこには丁寧な文字で、白い神からの伝言が記されていた。


『どうも、ニコルちゃんの事が気に入ったようなので、そちらに預ける事にします。マイキー君とやらにも未練があるそうなので、ときおり連れて行ってあげてください』


 図々しくも、そんな事が書いてあった。こんな街中でカーバンクルを預かれと? 精神的苦痛がとんでもない事になりそうなんだが!


「……あの白い子よね? 確かニコルちゃんの話ではファーブニルが連れて行ったんじゃ?」

「あの白いのとファーブニルは、顔見知りみたいだったし」

「それにしても預けるって……保護指定幻獣よ? 簡単に預かるわけにはいかないわ」

「飼っていい?」


 俺は首をカクンと傾げ、コルティナに許可を求めた。

 この家の家主はあくまで彼女だ。彼女の許可なしに、勝手にペットは飼えない。

 なのでできるだけあざとく、媚びを売ってみることにする。考えてみれば子供によくある、『ママ、ペット飼って?』という会話のような気がしないでもない。


「いつもなら『ダメ、元いた場所に戻してらっしゃい』って答えるところなんでしょうけど……」


 相手は保護指定幻獣である。無責任に放り出すわけにもいかない。

 もし放り出して、その先で密猟に遭ったりすれば、逆にコルティナの責任問題にされかねない。

 幸いというか、コルティナはこの国の名士でもあり、多少の融通は利く。マクスウェルに協力を求めれば、飼育の許可は簡単に降りるだろう。

 だが、呼び込むであろう厄介事もまた多いと推測できる。


 それ故に即答を避けていたのだが……そこへカーバンクルは新たな手紙とアイテムを取り出した。

 俺はそれを受け取り、中を確認する。


『無論、タダとは申しません。お礼にこちらのアイテムを保護者の方に進呈しましょう。竜の血を薄めて成分を調整したポーションです。効果は寿命の増加。一瓶で三人分』


 カーバンクルが取り出したのは、うっすらと赤い色のついた液体の入った小瓶。

 効果が手紙の通りだとすれば、それはまさに神話級の逸品である。こんな物が世に知られれば、これをめぐって戦争が起きかねないほどの品だ。


「なんて物を寄こしやがる……」


 俺は思わず呻いた。ミシェルちゃんの大弓だけならまだしも、これは本当に厄介な品だ。

 だがコルティナはこの説明を読み、即断した。


「よし、あんたは今日からウチの家族よ!」

「ちょ、いいの!?」

「いいの、いいの。ここは家長の器の大きさを示さないとね!」


 と言いつつ小瓶を確保するコルティナ。下心が見え見えである。


「本当はそれが欲しいだけじゃないの?」

「うっ!?」


 しかしそれもおかしな話だ。コルティナは猫人族にしてはまだ若い方である。

 寿命を気にするほど、歳を取っているわけではない。マクスウェルにしてもエルフにしてはかなりの老齢だが、それでもまだ人間の寿命ほどの余生は残っているはず。


「コルティナ、まだ若いのに」

「いや、私が使う訳じゃないのよ……」


 そこまで言われて俺はようやく気付いた。コルティナがこのアイテムを欲しがっているのは、自分の為じゃない。

 おそらくは俺の両親――ライエルとマリアの為だ。

 あの二人は常命の人間種。あまり老いを感じさせないマリアはともかく、ライエルはその衰えが目に見えている。

 それを長命種のコルティナが気付かないはずがない。


 マクスウェルなどはそういう寿命による別れは何度も経験しているので割り切っているのだろうが、まだ若手であるコルティナはその境地に至っていない。

 そこで目の前にぶら下がった餌に食いついたと言うわけだ。

 むろん、このポーションが本当に寿命を延ばす効果があるかどうかはわからないが、何もしないよりはましだと判断したのだろう。

 それにマクスウェルがいれば、このアイテムを鑑定する事もできる。毒だとしてもマリアが【浄化】するので問題は発生すまい。


「そか、パパとママに――」

「もう、ニコルちゃんは察しが良すぎるわよ。それより一つだけ確認しないと」

「確認……?」


 そこでコルティナはカーバンクルに向き直る。神妙な顔をして、とんでもないことをぶっ放した。


「あなた、レイドじゃないでしょうね?」

「キュ?」


 無論、カーバンクルにその話が理解できるはずもない。

 言葉は理解できるが、話す内容が理解できないのだ。


「そんなはずないでしょうに……」

「うっ、も、もちろんわかってたわよ! ほら、遅刻するわよ? この子はわたしに任せて、早く学院に行きなさい」

「はぁい」


 俺がそう返事をした時、通りの向こうからレティーナが姿を現した。ほぼ同時に隣のミシェルちゃんの玄関が開き、大弓を抱えた彼女が姿を現す。

 こちらを見てカーバンクルを発見し、彼女たちのテンションは一気に跳ね上がる。


「わぁ、何その子! あ、おはよう、ニコルちゃん、今日は早いんだね!」

「おはよう、ミシェルちゃん。この子はカーバンクルだよ。ほら、エルフの町の」

「洞窟で会ったって子だよね? ここまで着いて来ちゃったの?」

「いや、どうも厄介払い?」


 あの神様に押し付けられたのだから、厄介払いでも間違いじゃないはず……いや、微妙に違うか?


「へぇ、ひょっとしてコルティナ様の家で飼うのかしら? わたしも欲しい」

「おはよう、レティーナ。レディなら最初は挨拶だよ」

「おはようございますわ、ニコルさん。まさかあなたにレディの嗜みを教えられるなんて」

「ぐぬぬ」


 レティーナに言われ、最近の俺の言動を思い返す。

 風呂場でいちゃつき、フィニアとプレゼント交換とかやらかし、甘い果汁水に相好を崩す。

 どうも前世の威厳というか、ストイックさがすでに跡形もなくなっている気がする。

 この調子では行きつく先は『無双の英雄』ではなく、『お嫁さん』になってしまうのではなかろうか?

 その未来に思い到り、俺はあまりのおぞましさに背筋を震わせたのだった。


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