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第124話 報告会

 コルティナの鬱状態は無事に脱することができたと思う。

 俺たちは翌朝にエルフの町を出発し、首都へと戻ることになった。

 帰り際にフィニアとビルさんに挨拶しに行ったのだが、彼はすでに商売のために宿を出た後だったため、その願いは叶わなかった。

 まあ、彼もこの町と首都を往復する商人である。そのうちまた顔を合わすこともあるだろう。

 一応宿の人に言伝を頼んでおき、お土産代わりに白い果実の果汁を水筒一杯に詰めてもらって、出発した。


 途中で二度ほど休息をとり、今回は問題なく三時間ほどで町まで辿り着く事ができた。

 これはやはり甘い果実水の効果も大きいだろう。甘い飲み物は体力を回復してくれる。


 お昼過ぎには町に着き、コルティナの家の前で解散となる。

 だが、隣に住むミシェルちゃんはともかく、レティーナは侯爵令嬢である。さすがにその場で解散とはいかない。

 すでに一度拉致された経験もあるため、俺とコルティナで彼女を屋敷の前まで送っておく。

 家族の前でお土産を渡しながら、ピョンピョン跳ねてスゴイを連発する彼女を見て、母親のエリザさんが我が事のように喜びながらこちらに一礼してくれた。

 喜んでもらえたなら、こちらとしても嬉しい限りだ。


 そしてそのまま少し寄り道をして、マクスウェルの屋敷へやってきた。

 今日の目的は、どちらかと言うとここだった。


「おう、珍しい。コルティナの方から顔を出すとはな」

「うるさいわよ。ほらこれ、お土産」

「エルフの町の焼き菓子じゃな? 子供連れで慰安か、すっかり母親じゃの」

「話があるんだから、さっさとそれでお茶を出しなさい!」

「自分で食うのか……?」


 呆れたように肩を竦めたマクスウェルだが、その顔は喜んでいた。

 いそいそと俺たちをリビングに案内し、言われたようにお茶を淹れに席を外す。

 小柄な者の多いエルフ族の中で、マクスウェルは頭抜けて背が高かった。

 年老いて長身という体格にもかかわらず、その動きは歳を感じさせず、実に滑らかだ。こいつに老衰って言葉はないんじゃないか?


「ほれ、南のコルヌスから取り寄せた茶葉じゃ。ありがたく味わえ」

「あんたが本当に持て成してくれるなんて……」

「今回はニコルがおるからの」

「あっそ」


 コルヌスというのは南方にある都市国家群だ。俺の故郷であるアレクマール剣王国の西側に位置し、海洋交易を主にして栄えている国でもある。

 貿易が主だけあって珍しい品も多く、この茶葉もそういった一品なのだろう。確かにふわりと潮の香りが混じっている気がする。


「それで、今日は何用じゃな?」


 俺達の対面に腰を下ろしながら、ゆっくりと茶を味わうマクスウェル。

 ゆったりとソファに腰掛け、カップを片手に寛ぐ姿は、この国の王族にふさわしい威厳を感じさせる。

 背後のゴチャゴチャと散らかった部屋の有様を気にしなければ、だが。


「そうね、単刀直入に言うわ。エルフの町でレイドを見たわ」

「ぶほっ、なんじゃと!?」


 口に含んだ茶を吹き出し、ローブを茶で汚しながら、マクスウェルはいきり立つ。

 そのまま声を荒げて、コルティナに詰め寄った。彼女もその反応は予想済みだったのか、落ち着いたものだった。


「町の近くの洞窟の中。あの温泉が最初に湧き出したところよ」

「あんな場所で……」

「ただ、生前の姿のままだったし、多分幻覚を使ってたわね。でも鋼糸術と言い、隠密能力と言い、まず間違いなく本人よ」

「お主がそういうなら、間違いはないんじゃろうな。ましてや、あいつを見間違えるとは思えん」

「まぁね」


 落ち着きを取り戻した後は淡々と情報を交換する二人。正直言って、横で聞いている俺にとって、非常に心臓に悪い。

 コルティナは言うまでもなく、マクスウェルも頭は切れる方だ。コルティナがいなければ、この爺さんがパーティの司令塔になっていただろう。

 魔法という物は、覚えねばならない事象が非常に多い。すべての系統を使いこなすという事は、それだけの知識を持っているという事であり、高い頭脳を持ち合わせている証明でもある。

 いつもは飄々とした爺さんだが、鈍い訳ではない。


「ということは、レイドの奴はエルフの町に転生したということじゃろうか。まさかこんなお膝元に居ったとはな」

「理由があって姿は現せないと言っていたわ。あの口調だと、エルフに生まれ変わったというわけじゃなさそうかも?」

「エルフ以外の何かに生まれ変わったと? ひょっとしてお主が見かけたカーバンクルに生まれ変わったのかもな」

「あー、そういう発想は無かったわ。モンスターに生まれ変わる可能性もあるのね」

「転生先が特定できんとは、転生リーインカーネーションも厄介な魔法じゃのう」

「あんたは使えないの? 全属性適性持ちでしょ?」

「使えることは使えるぞぃ。ただし、マリアほどの確実性は保証できん。やはり申し子という奴じゃな。治癒系術式では到底かなわんわい」


 彼等の矛先がカーバンクルに向いた事で、俺はホッと一息ついた。

 白い神が連れ去ったのだから、あれを俺と思っている限りは、俺の正体には辿り着けまい。

 俺がこっそりガッツポーズを決めたところで、その日の会合はお開きとなったのだった。


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