表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/44

39,場所を決めた日





炎の中、固まる私達の先頭で、エリーが仁王立ちした。

エリーを避けるようにして、炎が回り込んでいく。


背をかがめていたラーウムの突き出た尻が炙られかけたので、1番後ろにいた私は詰めろ詰めろと誘導をかけた。

それを見ていたミコーが、エリーに向かって悲痛に叫ぶ。


「しょ、正気かよ! そ、そりゃあお前を炎は襲わないさ! 

でも、先生はそれ以外の魔法だって使えるんだ!」

「大丈夫。後ろに、みんないるし」


 エリーの自信たっぷりな言葉に、ミコーは涙目で「皆だって!?」と喚く。


「死に掛けの先生と! ズタボロのオッサンと! 役に立つ気の無い吸血鬼に! 頭の悪そうな人喰い鬼!

此奴らが何の役に立つってんだ!」

「超、頼もしいじゃん」

「お前は馬鹿か!」


話しにならねえ! と喚くミコー。

アンタには分からないよ、と言いたげに肩を竦めたエリーに、ミコーは今にも飛び掛かりそうな、物凄い剣幕でくってかかった。


「ッ具体的な方法がねえって言ってんだ! 氷結の上級魔法使いを連れてこないと無理だ!」


呼びに行ける時間は無い、もう終わりだ! 殺される! と絶望を叫ぶミコーに、私は尋ねた。


「なぁミコー。飲みこまれた炎を一気に氷解したらどうだ? 

ヘルペスの奴、ボッと燃えるんじゃないか?」

「ふざけんな! ランタンに閉じ込められてる訳じゃないんだぞ!? 

あんな馬鹿みたいにデカい魔力、一気に氷解したら先生どころか俺達も、この建物も爆発して吹っ飛ぶ!」


ダメなのか。

それは残念だと肩をすくめれば、これだから馬鹿は! とミコーは真っ赤な目で銀髪をかきむしる。

でかすぎる炎が問題なら、としばし考えた私は人差し指をたてた。


「なら、1つ提案がある」


全員でやらねば成功しない策であるし、エリーに無理を頼まないと難しい。

それでも此処にいるメンツなら、と私は案を簡潔に説明した。


しかしそれを聞いたミコーは、真っ青になって唾を飛ばしながら首をブンブン横に振る。


「ッそんな恐ろしいこと、出来るわけがあるか! 俺が1番危ねえし!」

「皆一緒だ。失敗したら皆お陀仏なんだぞ」

「だ、だからって……! いや、無理だ……! 敵う訳がねえ! お前らイカレてんだ! 俺を巻き込むな!」


真っ青な顔で喚き続けるミコー。

しかしエリーは面倒臭そうに顔を歪めた。


「煩いな。もう、弱虫は引っ込んでてよ」

「よ、よわっ……!」


がん、と頭の上に岩が落ちてきたような顔をするミコーに、エリーは追い打ちをかけた。


「アンタはそこでピーピーべそかいてれば? 小さく縮こまるのは、お得意だもんね」


嘲るような口ぶりのエリー。

背丈を馬鹿にされて、かっとしたミコーがいきり立った。


「っうるさい! 黙れ! この……っ悪魔! 人殺しの、化け物が!」


そんな言い方はないだろう、と私が口を挟もうとしたが、その前にエリーは鼻を鳴らした。


「猛烈なチビより、マシ」

「……!」


口をぱくぱくさせ、言葉を詰まらせるミコー。

ふん、と楽しげに口角を挙げたエリー。

なんとも逞しい。


もはや貴様に語る事や無しと、エリーは前をしかと睨む。


とうとう眼中になくなってしまったミコーは、毒づいて炭の混じる地面をつま先で抉ってブツブツ不満を漏らし、怯えた目で左右に視線を泳がせる。

しかしその様子をじっと見ていると、ミコーは凍えたように震えながら俯くと、自分に言い聞かせるように呟いた。


「チビじゃ、ねえ……! チビじゃねえ……! 俺は――ッ」


ぱっと顔を上げて、ミコーはエリーを指さした。


「ッみみみ見とけよこのぐしゃぐしゃ頭!」


鼻水を垂らしながら宣言したミコーは青い唇を引き結び、エリーのように前を見て二本足でしっかりと、踏ん張るように立った。

背中でそれを感じたらしいエリーは息を吸い込んだ。


「アタシは、――帰るもん」


エリーの言葉に、私は目を見開いた。


それは、その思いは、私が心の中で願い続けた事だ。


――私は、帰るんだ。


私は最後尾に立ったまま、そっと名を呼んだ。


「エリー」

「……なに?」


軽く振りむいたエリーの頬は、炎に染まっている。

目を細めた私は、小さく笑みを浮かべた。


「私はな、やはり――お前の父には、なれん」

「…………」


エリー、お前の父親を私は知らない。

顔も、姿も、どんな人なのか、そもそも人なのか、今どこで何をしているのか、生きているのか死んでいるのか、私にはわからない。

それでもお前が居るんだから、きっとお前の父は確かにいるんだろう。


前に向き直ったエリーは無言だった。

何かを堪えるように、小さな肩が揺れただけだ。


私はじっと、赤いクルクル頭と背中を見つめてから、口を開いた。


「だが私は―――――お前の傍に居ることは、出来る」


はっとしたエリーが振り向き、いつの間にか真横に立っていた私に気づいて目線を上げた。


「隣に居よう。――――エリー」


エリーの緑の瞳が私を見て、ゆるんだ。


小さな手が、私の手に重なる。

ミコーには見せなかった、幽かな震えが伝わってきた。


エリーがそっけない風を装って言う。


「いつまで? あと、どれくらい? 夏休みまでは、駄目? 

……アタシ、知ってるし。眠りながら、ヨシコーヨシコー、今帰るぞーって、……言ってたもん」


私はそんな恥ずかしい寝言を言っていたのかと穴に埋まりたくなったが、埋まっている場合では無い。

私は意味ありげにニヤニヤしているルルススに顔面で威嚇してから言った。


「ああ、その、それだ。頼みがあってな?」


不安そうな色が乗った緑の瞳を見返して、私は微笑んだ。


「いつの日か、私が死んだら、元の世界に送り返してくれないか。

出来たら、淑子の眠る墓の中にでも」

「――!」

「許可を貰ったんでな。ゆっくりしていて良いそうだ」


爆発頭の優しい女の子と、体の大きい素直な青年と、太陽を求める吸血鬼に大きな竜、宙を戦える魚。


そんな連中がいる、おっかないが割と好きになりつつあるこの世界で、私はゆっくり生きていて、良いらしい。


「い、いつまで!? オーグラーは、いつまで生きるの!?」


とんでもなくストレートな質問を受けて笑いながら、私は答えた。


「少なくとも、エリーの花嫁姿を鼻水垂らしながら見送るまでは、死ねんな」

「あ、アタシ嫁になんか行かないもん!」

「小さい頃の可愛い娘は皆そう言うらしい。ふん」


後ろでランタンを抱えるラーウムが、私達を見て心底幸せそうに鼻をすすり上げる。

ミコーはげっそりした顔で肩を落とした。

ピラニアはランタンの中でプクプクと水泡をだし、地面にへばりついているフォルミカは面白くなさそうに目を閉じる。

ルルススは霧のように溶けて、姿をくらました。


それを見届けた私はぎゅっと、小さな手を握り返す。


エリー。

お前の背中を見て、重い荷を想像するのは終わりだ。


お前の笑顔を見るために、私は、お前の隣に居よう。


「――――行くぞ」


しっかり頷いたエリーと共に、私は夕焼け色の背広を翻らせて、走り出した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ