12,3人仲良しの日
動き回るツタが可愛いものに見える位、根っこを引き抜き足代わりにして歩いているような植物たちと邂逅しつつ、いつも通りのピンクキノコを横目に見ながら、エリーがルルススから教わったと言う口にしても良い植物を集めて回る。
転ばせようという意志をもつかのような低木や張り出した木の根っこ、顔面に張りついてくるシダやクモの巣、気色悪くうごめく芋虫羽虫ナメクジ連中。
エリーは上手に避けて通り、ラーウムは大きな手で軽く払いのけながら進み、私はリアクション芸人も真っ青になるくらい、1つも零さず回収しながらの嵌りっぷりで進んだ。
最終的に、頭髪の乱れすらも直せなくなった私のあまりのズタボロっぷりを哀れに思ってくれたラーウムが、私を肩車して運ぶことを提案してくれた。
乗っている間に《人間の臭いがするぞ?》と足を齧って味見されたらと戦々恐々としたが、ラーウムはきっと尻が裂ける危険の方を重要視するだろうと、唾と一緒に恐怖をごくりと飲みこんでラーウムの肩にまたがる。
ソレを見たエリーがずるい! と大変不機嫌になったので、エリーは私が肩車することにし、森の中でトーテムポールのような異様な歩き方をする事になった。
力持ちのラーウムは、私とエリーを肩に乗せても何の苦も無く歩いていたが、私はラーウムに乗っているだけで歩いてもいないのに、エリーを乗せた肩が15分ほどで悲鳴を上げた。
「……だいじょぶ?」
「後で肩でも揉んでくれ」
首をゴキゴキ言わせる私の提案に、エリーはちょっと目を見開いてから、斜め上の木を見上げて、今度は斜め下の地面を眺めて、最終的に私のネクタイのあたりを注視し、遠慮がちにこくりと頷いた。
何だその間は、嫌なのか、と心の中でぼやく私の隣にエリーは座り込み、野草の仕分けを開始した。
これが酸っぱい、これは甘い、こっちは苦いけど焼けば美味しい、そっちは食べすぎるとお腹が壊れる――。
野草の名詞は一つとして出てこなかったが、エリーの説明をラーウムは真剣な顔で聞いて、頭に叩き込もうとエリーの言葉を1つ1つおうむ返しにして頑張っていた。
小さめの湧水が溢れている、岩とコケの多い場所で一休みしながら――尻が湿ってくるのは諦めた――泥まみれの山菜を洗う。
例によってエリーは水を嫌がったが、流石に喉が渇いたらしく、肩掛け鞄の中から大きなクルミの殻みたいなものを取り出して、それに水をすくって飲んでいた。
それを見て私は思い出した。
「……あぁ、そうだ、風呂を作りたかったんだった」
フロ…ッスか? とラーウムが目をパチパチさせる。
エリーの手作りコップの大きなものを作れたら風呂になるんじゃなかろうか。
洗い終えた野草をぶん回して水気をきりつつ、私は頷いた。
「湯が沢山入るような、樽みたいなものを作れないかと思ってな。足を伸ばして……とまでは言わんが、湯に浸かりたい」
「げ! 何それ、そんなん絶対入りたくない!」
フードのせいで口元しか見えないが、八重歯をむき出して、信じがたい、といった拒否を表現するエリー。
だが、毎日全裸の追いかけっこをする気は私にはないのだ。
風呂は必須である。
風呂の重要性を延々と説く譲らない私にエリーはふくれっ面。
そんな私達を微笑ましげに見ながら、ラーウムが頷いた。
「不格好で良ければ、作れるッス」
「うげぇ」
「本当か!? どうやって作るんだ?」
桶を作れるような器用さがあるのだろうか、湯が漏れるんじゃないだろうか。
若干不安になりながら尋ねると、ラーウムは森の中を指差して答えた。
「この森、太い木はそこらじゅうにあるんで、切り倒して、丸太の中をえぐれば」
「……なるほど、その発想は無かった」
力持ちのラーウムにしか出来ない方法論だったが、任せといてくださいよ! とラーウムは袖をめくり上げて嬉しげに笑った。
段々とホラー顔も見慣れてきたから困ったものだ。
その日の夕ご飯は山菜が沢山並んだ。
葉物は卵とじにしたり、さっと煮ておひたしにしたり、炒った木の実と和えたり。
みずみずしいものはサラダにして、酸っぱい果実を絞ってポン酢代わりに。
ほんのり甘く柔らかな根菜は輪切りにして吸い物にした。
戻ってきた川べりに火を焚いて、月明かりの下で山菜を食べるのは、色がいまいち判別し難かったが、味は確かだった。
「なんスかコレ、めっちゃ美味い!」
「あぁ、何なのかは分からんが美味いな」
「ん!」
それぞれの植物の味をエリーが解説し、ラーウムがそれぞれの食材を生かせるように調理方法を提案し、調理は私とラーウムが行った。
淑子が私の隣からいなくなって以降、ずっと1人暮らしだった私の食事は出来合いのものが多く、作っても男の料理、という、焼く、煮る、チンする、の3択程度。
ラーウムに指示された通りに材料を刻んだり混ぜたりしていく中、料理というのは幅広いものだったのだと驚嘆した。
「ラーウム、これだけのレシピを考えられるとは凄いじゃないか」
即興レシピ、しかも人に指示を出せるラーウムの新能力発見である。
怪力しか能が無いと言ってクビを切ったラーウムの上司め、惜しいものを逃したぞ。
私の言葉にラーウムはえへへと頬を緩め、ざるそば頭を照れくさそうに掻いた。
「1人の時は食えりゃ良かったんですが、今は食ってくれる人がいるんで……。この森に入ってからずっと肉魚料理ばっかりでしたけど、エリーに食える葉っぱを教えて貰えたんで、今後は彩豊かになりそうッス」
「あの酸っぱい実には気を付けなくっちゃ!」
ニヤニヤするエリーの言葉に、ラーウムは大きな背を丸めて恥ずかしそうに頷いた。
怪力で握りつぶした果実の液に眼球を攻撃され、ごろんごろんと悶えていたラーウムの姿を思いだし、私とエリーは肩を揺らして笑った。




