姉、弟
新戸 鳴黒、17歳。高2。
僕のことを語るにしては、もう少し言葉が足りないだろうか。
いや、別にそこまでのことでもないのだが。
足すとしたら、大方同じ言葉が連なるだけであろうことは、確かだ。
“ニート”“二次ヲタ”“コミュ障”“ゲーマー”“シスコン”
最後だけは、別物であることは確かだろうが、まあ見て分かるとおり、新戸 鳴黒はヲタクなのである。
そんなクラスでの影キャラ的な存在だった鳴黒は、当然のことのようにいじめを受けていた。気がつけば、上履きがなくなり、呼び出しを多く受けたり…
その原因は、彼の姉、真白にあった。
彼の姉、新戸 真白は世界的に有名な作家であった。それとともに、彼とひとつしか違わないにしては、酷く美しく、冷静で、冷血だった。
そんな美しい姉がいて、うらまれない男などいないはずがなかった。恨まれ、憎まれ、妬まれ、嫉まれた。普通そんなことがあれば、姉を嫌いになったり、人間不信になったりとすることであろうが、鳴黒はそんなことがなかった。むしろよりいっそう、真白の弟であることを誇りに思った。
それほどまでに、自身の姉のことを好いていたのである。
だがしかしそんな日々にも終わりがやってくるものだ。
「姉さん…僕、少し疲れたみたいなんだ」
「そう」
夜中に帰ってきた姉に、走って抱きついた鳴黒の発した言葉がそれだった。真白の胸に深く顔をうめて。
声は、冷たいもののそっと、鳴黒の背に手を回しやさしく抱きしめるとそっと、頭をなで続けていた。言葉で表現しなかったとしても行動で伝える。
それが、この姉弟のあり方だった。
「姉さん…すっごい好き。大好き」
「うん。私も」
二人の親はすでに他界していた。もういなかった。
彼らが中学生のときだった。自立していけるように、姉は作家になった。弟は、裏で何か仕事をしているらしい。そんな噂も立った。
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