2月14日のドラマ再び
体育祭では僕達の軍は先輩達に優勝をもたらす事は出来ずに先輩達の涙を見る結果になってしまった。
僕達も来年はこんなに熱く体育祭を迎えるのだろうか、クラスの友達にそんな熱いヤツはいない気がするが。
体育祭が終わると次は文化祭&合唱コンクール。
これについては大した思い出はない…。
めんどくさいの1つに尽きる。
芸術思考ではない僕は絵心も無く毎年ボツ画を描く。歌だってカラオケで歌うようなJ-Popではないのでやっつけ仕事。
やる気を見せるのは女子だけだった。
ひとしきりのイベントが終わるとまたいつもの白い金平糖が空から降ってくる。
実際の金平糖のように固く甘くはないが。
冬休みはまた部活の日々。
正月を除いて練習、合宿、練習。
3年生が引退した今、僕は部長に任命された為にサボる訳にはいかない。
部長とは厄介な役職だ。
3学期も中盤の2月。
僕にとって理想の展開と、犯罪者扱いの天国と地獄を見る。自業自得なんだが。
運命の日は14日、またもやバレンタインデーにやって来た。
中学生になると、同級生同士で付き合うカップルが急激に増える。
早いコは1年生のうちから付き合うコ達も少なくない。でもやっぱり中学生らしい一面もある。
恥ずかしさが先行して付き合う事を周りに知られたくなく、コッソリとデートしたりWデートしたりの青春真っ盛りの雰囲気を匂わせる。
バレンタインもしかり。
なるべく人がいないタイミングを見計らって手作りチョコを渡す。
みんな付き合っている事を知っているのに。
僕も人の事は言えない。
久実ちゃんも典型的なそのパターンで渡してきたのだから。
『はい、シックン♪ うまく作れなかったから味は保証出来ないけど…』
久実ちゃんが顔を真っ赤にしながら手作りチョコを渡しにきた。
『ありがとね♪ 大丈夫だよ!久実ちゃんは料理得意でしょ♪』
僕はチョコをカバンの中にしまいながら久実ちゃんにそう答えた。
『不味かったら捨てていいからね!』
『捨てないよ~全部食べるし!』
外野から見れば僕達は立派なバカップル漫才だった。
もちろん久実ちゃん以外からも義理チョコは何個か貰った。
またニキビが増えそうだなと思いながら、嬉しそうにカバンにしまう。
周りの男子は何個貰ったかのネタ以上に誰から貰ったかを話してる。
『マジで!? アイツから貰ったの!?』
『アイツ、お前に気があるな。』
『アイツからのチョコは怖えぇ。』
色んな声が耳に入ってくる。
みんなそれなりに貰ってるんだな。
僕は本命チョコを貰ってるので心に余裕があった。5個の義理チョコより1個の本命チョコなんて変な価値観を作っていた。
『シックン…。』
後ろから呼ばれ振り返るとそこには香澄が。
香澄は振り返った僕に手招きをする。
僕は香澄の元へ歩いて行く。
僕らは教室の隅まで歩き、香澄が立ち止まると恥ずかしそうに手に持っていた小さな箱を僕に渡す。
香澄から貰うなんて思ってもいなかった。
香澄とは2年になってクラスが別になったし、僕にさほど興味がないと思っていたのでまさにサプライズのような出来事だった。
『ありがとう。』
『うん。じゃあね。』
お互い最小限の言葉で会話を終わらせ、香澄はそそくさと教室を出る。
僕は心の中で軽くガッツポーズした。
(やった!香澄からチョコ貰った!)
僕は満足だった。
5個の義理チョコより、1個の本命チョコより、香澄からのチョコ。
僕の価値観はあっという間に塗り替えられた。
サプライズはそれだけではなかった。
僕は次の休憩時間に香澄から貰ったチョコの中身が気になり箱を開けると、小さなトリュフチョコが4つ、そして小さな手紙が一通。
手紙を広げると真っ白な紙にたったひと言。
『いつの間にか好きになってたの。』
僕は思わずニヤケを通り越し、笑顔がこぼれた。
心臓の鼓動はドンドン早くなり、いても立ってもいられなくなった。
ずっと気になっていた香澄からのまさかの告白。モテ期はまだまだ終わってはいなかったのだ。
今すぐに返事をしたかったが、自分に自信のない僕はネガティブに捉え始めた。
(いつから俺の事を…? 僕を意識してる気配は無かったぞ?)
(もしかして、このチョコはホントは僕じゃなく他のヤツに渡すはずだったとか?)
(返事はどうしよう? 何て書けばいいんだ?)
香澄の手紙はとてもシンプルでストレートだったが、僕からしてみれば戸惑う内容だった。
自分へ宛た手紙なのか、他の人と間違えて渡した物なのか判断しきれずにいた僕はその考えをありのままに手紙に書く事にした。
香澄へ。
チョコありがとう! 嬉しかったよ!
手紙見たけど、あれは俺宛てかな?
間違えて他の人に渡すはずだったら読んじゃってゴメンね!
もし俺宛てだったら、俺も香澄の事好きだよ。
謙虚に書いたつもりだが、自分に自信の無さ丸出しの内容。
僕はタイミングを見計らって、その不器用な手紙を香澄に渡した。