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雑草  作者: KiNG
~ 学生編 ~
6/15

シシュンキ

雪国にももちろん夏は来る。

都会に比べたら涼しく感じるのだろうが、この町に10何年も暮らしている僕達には充分過ぎる暑さ。

そんな毎日日照りの続く中、土曜日なのに僕は学校のグラウンドで汗まみれになっていた。


「お願いしゃーす!!」

「バッチこーい!!」

グラウンド中に響く、まだ大人になりきれてない声が響く。


グラウンドの端にある野球場では真っ黒に日焼けして、チョコレート顔の同級生達がボールを追いかけ土まみれになっている。

この中から将来甲子園球児、更にはプロ野球に進める奴がいるのかもしれない。

そんな風に思える程の練習をこなしている。



僕と久実ちゃんは本気のケンカも無かった。

その分お互いの刺激も無かった。

月日が経つにつれ、その感覚は増していく。

僕は部活に専念しているし、久実ちゃんは勉強を怠らずに許す限りの時間を費やしていた。



僕は陸上部の中でも短距離専門だった。

この中学の陸上部は短距離と長距離の選手を分け、練習は別々にやっている。



短距離はメンバー的に尖った人が多くピリピリした空気になりやすい。

逆に長距離は比較的和やかムードの中で練習している。

羨ましいそうに長距離の練習を見ている僕の視線は、同級生の香純に向けられていた。



久実ちゃんは愛嬌のある顔に対して香純は、目が少しキツいせいで性格もキツく思えるくらい。



僕は走っている香純を自然と目で追うよになっていた。


香純とは1年の時に同じクラスだったが、久実ちゃんほど目立った存在では無かった為、僕はさほど気にはしていなかった。

でも今は彼女の存在が気になる。

この時僕の気持ちは久実ちゃんから香純に移り変わり始めていた。



香純には休み時間にしか話せないし、ちょっかいも出せない。

限られた時間でも僕は隙あらば、ちょっかいを出していた。

もちろん香純は怒るし、ツッコんでくる。

こういう所は久実ちゃんと同じだった。



僕は幾度となくそれを繰り返していた。

ちょっかいだしながらも、彼女の好きなアーティストが大物ヴィジュアル系バンドだったり、どんな物が好きなのか情報収集していた。


好きでもないアーティストのCDやオフィシャルブックを買ったり、服装を真似てみたり。僕はいつの間にか香澄に興味を持たれる為の行動を取っていた。久実ちゃんへの気持ちは薄れ香澄の方が好きになっていた。



僕のいた中学校では中2の夏休みに林間学校としてのキャンプが行われる。

同じ町のキャンプ場で1泊2日のキャンプだが、中学生の僕達にとっては同級生と自炊をしてみんなでご飯を食べ、テントで1夜を過ごすという楽しさだけのイベントに心を踊らされる。



僕は僕らしい一見効率の良さそうだが、実際は無駄、リスク、バカバカしいアイデアを出すのがすごく得意で、キャンプに持って行く500円分のおやつをワザワザ隣町の駄菓子屋まで自転車で行こうと友達に提案した。


車でも30分かかる隣町へ自転車で500円分の駄菓子を買いに行く、中学生にしか出来ない若さゆえの行動。

実際に試したが2時間近くペダルを漕ぎ、長い上り坂では自転車を降りて押して進んだ。

炎天下の日差しの下、僕らは家に着く頃には身体中の水分が抜けきった様に感じた。


僕らが汗水流して手に入れたおやつをリュックにしまい、僕はキャンプに備えた。

明日はいよいよキャンプ。

ここでどんな2日になるのか。

香澄と距離を縮める事が出来るのか、僕は楽しみが2倍3倍と膨らむ。

明日は晴れるだろう。 空も僕の心も。



「きゃー! 何か動いてる!」

「虫はムリ!!」

「ねぇ! 早く取って!」


全く女子という存在はどうしてそんなにも虫を毛嫌いするのか。


この虫達だって必死に誰かの為に生きているのに。



女子の嫌いな虫を取ってあげるのは、男子にとっては女子の好印象ポイントが上がる。

無意識にそれが行動に出せる男子は必然的にモテる。

キャンプというのは男子にとっては絶好のポイント稼ぎの場でもある。



僕は久実ちゃんと同じ班で、ワイワイとカレーの材料を切る。

(意外と料理できるんだ)

僕は久実ちゃんの新たな一面を見た。

勉強と料理が出来るが運動オンチな久実ちゃん。久実ちゃんといるといつも気分が明るくなる。



カレーの材料を煮込む間、僕は他の班の元を寄りながらさりげなく香澄のクラスの班の方へ。


香澄は久実ちゃんとは対照的に料理は得意な方では無さそうだ。

でも、時折見せる無邪気な笑顔に僕はとろけてしまう。僕自身がカレーのルゥの様に。


「何見に来てんのよ!」

「うるせぇ! 香澄達のカレーの偵察だっ!」

いつもの会話、一言ずつの会話でさえも嬉しい。



ポケットに忍ばせていたインスタントカメラで怒っている顔を撮ろうと、カメラを香澄の方に向けると香澄はあっという間に表示を変え、お玉を片手、もう一方の手でピースサインを作りニコッと笑う。


僕は香澄の写真を撮る事は狙っていたが、まさか香澄の笑った写真を撮れるなんて。

調子に乗ってもう何枚か撮ろうとしたが、香澄は顔を真っ赤に染めた顔を手で隠した。


(可愛いぃ)

普段は強そうなイメージで見た目も中身もボーイッシュな彼女が一瞬だけ見せる女の子らしい一面のギャップに僕は完全に心を持っていかれる。



久実ちゃんには少し足りないそのギャップ感が尚更香澄に対する気持ちを加速させていく。

久実ちゃんが決して劣っている訳では無い、今の僕には香澄の方が理想に近いと思っているだけ。


でも僕には久実ちゃんという彼女がいる。

久実ちゃんは今でも僕の事を好きでいてくれている。それを知っているにも関わらず、僕は片思い状態の香澄の方に気持ちが向く。


今となっては何て贅沢な悩みなんだろうと思うが、当時の僕にはそんな事までは理解していなかった。



僕のキャンプでの収穫は、香澄の写真と2人の女子に対して揺れる気持ちだった。



キャンプ以降、僕は久実ちゃんを大事にしていなかったのかもしれない。実際はもっと前からだったのかもしれないが…


残りの夏休みも部活でほとんどが潰れ、お盆の間だけが唯一の休みだったが、部活の疲れと友達と遊ぶうちにお盆もあっという間に過ぎ、また部活に明け暮れる日々。

僕の夏休みは部活休みとでも言い換えた方がいいんじゃないかと思えた1ヶ月半だった。



長い部活の日々が終わると、2学期の始まり。この中学校は2学期早々に体育祭がある。

1年の時は先輩達に怯えながらの行進練習、

メガホンを片手に先輩達が日頃のストレスを発散するかのように怒鳴り散らす。


応援練習にしても、声を出してるコから歌うのを止めさせて座らせていく。声の小さいコ達は永遠と応援歌を歌わせられる。

歌わせられる方は恐怖と恥ずかしさで萎縮してしまい泣きそうになるコも何人もいる。


2年生になると、去年の経験を元に要領良くこなせる為、さほどの努力や体力は使わない。僕もあっさりと座る事が出来た。



こんな典型的な体育会系の練習をこなし、いよいよ本番。

先輩達は後輩のお応援の歌に合わせ自慢の踊りを先生、親、後輩達に見せつける。

僕達だって来年になればもっとすごい踊りを見せられると思いながら声を出し続ける。


競技は先輩達に華を持たせ、自分の軍の先輩達に有終の美を飾らせる為に努力はする。

必ずしも期待通りの結果にはならないが。


体育祭だけは3年生になるまではやっつけ仕事のような物。

ただ1つを除いては。


体育祭と何の関係があるのかは分からないが、競技プログラムの最後にフォークダンスが組み込まれている。


基本は同学年の男女で踊り、1つの曲が流れている間は踊る相手が次々に変わる。

男女が楽しむ?唯一の競技?

僕はもちろん久実ちゃんとも香澄とも踊る。


複雑な心境の中でわずか数分だけの久実ちゃんと香澄とのフォークダンスを踊る。


この後、僕の煮えきらない態度が原因で自分で自分の首を絞める事になるとはつゆ知らず。

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