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雑草  作者: KiNG
~ 学生編 ~
5/15

第一モテ期

僕の中学生活は自分でも思いもしなかったスタートを切った。



世間で俗に言うモテ期がこのタイミングで訪れた。


中学では入学式が終わると、あちこちで部活の勧誘活動が始まる。

僕はJリーグ開幕の影響をモロに受け、サッカー部に入るつもりだった。


が、しかし、この中学校にはサッカー部が存在しない。


まだまだサッカーというスポーツは今ほどメジャーでは無かったし、人気もさほどではなかったのでサッカーはスポーツではなく、この町では単なる遊びの1つでしかなかった。



僕は人より多少足が速かったことと友達の勧めもあって陸上部に入ることを決意する。



その行動もモテ期のキッカケになったのかもしれない。



部活の時間になると、同じ陸上部の3年生の女子達が笑顔で僕に手を振る。

僕は彼女達の事は何も知らない。

中学に入って初めて見た顔ばかりだった。


僕はよく理解出来ないまま、手を振り返す。


先輩達はご機嫌だ。


この奇妙な現象は毎日続いた。

それも部活や学年の枠を越えて。



女子バレー部からも、すれ違う度に声を掛けられ手を振ってくる。

僕は無視は出来ないのでもちろん笑顔で手を振る。

まるで政治家の選挙運動のように。



自慢じゃないが僕は顔が整ってるわけでもないし、人を魅了する性格でもない。

何で僕なのか全然理解出来ない。

もしかしたら、新手のカラカイというかイジリ方なのかと不安にさえなる。



それでも3年生が卒業するまでこの奇妙な現象は続いた。



その中でも特に僕を気に入ってくれた2年生のバレー部麻希さんは、僕と手紙のやり取りをした。


麻希さんは僕の友達の女の子のイトコで、その友達から紹介されて話すようになったのだ。


交換日記のように、相手が書いた手紙をお互いがすれ違う時に渡され、僕が返事を書いた手紙をまたすれ違う時に渡す。

ちょっとドキドキする瞬間でもあり、周りの視線は痛く怖いものはあるものの、この瞬間はすごく嬉しかった。


手紙の内容は?というと、


大した内容ではない。


元気? 部活はどう? 〇〇先生はイヤじゃない?? 休みの日は何をするの?

なんてたわいも無い内容。


それでも僕には手紙を読む瞬間のドキドキと、返事を書くにも綺麗な字を書こうと真剣になり、誤字脱字がないか何度も読み返すマメさ。

手紙の折り方もクラスの女子に教えてもらったりもして。


恋に発展する事は無いとわかっていても、自分を良く見せるために頑張ってみた。



麻希さんには彼氏がいる。

手紙にそう書いてあったので、麻希さんは僕に恋愛感情を抱いているわけではない。

なのに僕と手紙のやり取りをしてる。

僕はいつか麻希さんの彼氏に呼び出されるのか心配になりながらもやり取りを続けた。

万が一、もしかして、1%の可能性としての

【告白】を期待していたし。



期待していた告白は無かった。

彼女が3年に進級した時には手紙のやり取りも無くなった。




学校での僕はバカ丸出しで、授業中もギャグを言ってみたり、訳の分からない擬音を発してクラスの友達の邪魔をしたり。


中学デビューを試みた。

小学生時代のトラウマやおとなしいイメージを払拭する為に。


見事に成功した。


周りの友達は僕をおバカキャラとして認識してくれている。

僕はそれが自信になり人前での発表でも泣く事はなく、むしろ友達は僕が面白い事を言うのを期待していた。


僕は期待に応える為に必死にバカを演じた。

バカを演じる為にロクにテスト勉強せず、テストの結果は散々。

それでも僕はこのままでもいいと思ってた。

みんなが望むバカキャラならこのままでいようと。



勉強とは正反対に部活には真剣に取り組んでいた。

部内では期待のルーキーでもスターでもないから、ひたすらコツコツと練習する。

筋力トレだってムキになってこなす。

そのお陰で筋肉はガッチリ付いたが代わりに身長は止まった。

ドンドン背が伸びる友達が羨ましかった。

背はこの時から今の今までほとんど伸びていない。




モテモテの日々、自分のキャラを作り、部活にはマジになる、そんな毎日で1年はあっという間に過ぎていった。



絶頂のモテ期は、中1の一年だけでは終わらなかった。



13度目の春。

季節はどんなに年が経ってもちゃんと移り変わる。

4月に雪が沢山残る事はあっても、早々桜が散る事はない。

この町ではゴールデンウィークに桜が満開になる年があっても珍しくはない。



中学2年になると僕達は学校生活にも慣れ、先輩達とも距離が近くなり楽しく感じる事も増える。

何と言っても僕等の下に初々しい後輩達が入ってくる喜びが一番大きい。


今までは一番年下で暗黙のルールに従い、常に先輩達に気を配らなければいけなかったが、

これからは先輩風を吹かせて後輩達に自分達が学んだ中1の過ごし方を教える事ができる。

敬語を使われて、逆に僕達がタメ口を聞けるなんて。


そして、中2になると学校のイベントが控えてる。

夏休み中ではあるが林間学校としてキャンプがあり、3年生が卒業した後すぐに修学旅行もある。

中学2年生が3年間の中で1番印象に残る年なのかもしれない。



「シゲくん、こんちわっす!」

「久しぶりっす!」

小学校の時に仲良く遊んでた可愛い後輩達が挨拶してくる。


「久しぶりだね、部活は決めた?」

余裕のある言い回しで僕は後輩達に問いかける。


「俺はバスケ部っすね。」

「俺はテニス部に。」

1年前は僕もこんな風に初々しかったと思うと、何だか年を取ったように感じた。

まだ13歳でしかないのに。


麻希さんとは自然消滅なんてカッコイイ言い方をする関係ではないが、今はお互いすれ違う時に軽く笑う程度だった。



3年生になると受験で必死になるだろうし、部活も集大成になるから、僕を構う時間なんてないのだろう…。

なんていう僕なりの都合のいい解釈。

実際は僕とのやり取りは飽きて、彼氏との仲を深めているんだろう。



僕の華々しい中学デビューは終わったかのように思った。

しかし現実は違った。

まだモテ期は終わらない、むしろ恋の神様は僕に贅沢な悩みまでもたらした。



2年生に進級する時にもう1度クラス替えがある。

ここで決まったクラスは卒業までは変わらない。

2年間同じクラスになるという思春期の僕達にはとても重要なイベントである。


1年の時に同じクラスだったコとまた同じクラスになる可能性は十分高い。

僕と3年間同じクラスで過ごした久実ちゃんもその1人。

この久実ちゃんが僕の贅沢な悩みの原因である1人になる。



明るい性格と姉御肌で男性女子をわけ隔てなく扱うコ。

彼女は勉強もできる優等生でもあった。

1年生の頃はよく彼女に授業中は注意され、ちょっとした夫婦漫才の様だった。


そんな雰囲気が僕には心地よかった。

ボケればツッコんでくれる。

クラスのコ達はそれを見て笑う。

そのみんなの笑った顔を見ると僕は純粋に嬉しかった。


久実ちゃんとの漫才を繰り返すうちに、互いが互いの存在を意識するようになり、2人の距離は縮まる。

僕は元々奥手な性格な為、自分から告白する勇気なんていうツールは持ち合わせてはいなかった。


そんな煮えきらない状態が数ヶ月続いたある日、久実ちゃんから1通の手紙をもらう。

手紙というのは何度もらってもドキドキする。

僕は自分の席で、教科書に手紙を挟み教科書まるで教科書を読んでるようなフリで手紙を読んだ。




『しっくんの事が好きです。』

実際はもっと長い文章だったと思う。

だけど僕にはその一行のインパクトが強すぎて他の文章の事はよく憶えていない。

初めて経験する告白。

しかも自分からではなく相手からの。


単純な僕は舞い上がった。

『好き』の言葉のチカラは人の思考回路をショートさせる。

僕は自分が久実ちゃんとこうなったらいいなって思った事が現実になろうとしてる。


僕の返事次第で遂に『彼女』『付き合う』というステップに足を伸ばす事ができる。

そんな事を考えただけでこれからの自分の1年は素晴らしいものになると大げさに思う程だった。


僕はバインダーからルーズリーフを1枚破き、自分なりのオシャレさを出したつもりであったのだろう。

いつもシャープペンと赤ボールペンしか使わないクセに、この時ばかりは爽やかな水色の色ペンを使って返事を書いた。


『俺も好きだよ!付き合おっか!』

なんてちょっと上から目線で。



返事の手紙を渡してから僕と久実ちゃんはほどなく付き合うことにした。

付き合うとは言っても、お互いが【友達】から【彼氏】【彼女】の関係に変わったくらいで、それ以外は変わった事は特にない。


『おはよう』『バイバイ』の時の言い方がやんわりしたニュアンスにはなったくらい。


部活や勉強で休みの日にデートする事なんかはほぼゼロに等しかった。

学校で会うだけの【彼女】はそれでも満足だったのだろう。

デートの催促も無かったし、文句も言わなかった。



そして数ヶ月後、僕の心にある変化がおきる。

これが新たな事件の始まりであった。


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