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雑草  作者: KiNG
~ 学生編 ~
3/15

2月14日のドラマ

おませな小学生にもなると、バレンタインデーなんてものにも自然と興味を持ち、意識してしまう。


僕も典型的なそのうちの1人だ。



寒さが一番ピークを迎える2月。

体育館で遊ぶにしてもすぐにはカラダが温まらない。

むしろたくさん動いてカラダを温めないと、体育館には居れない。


僕は真っ赤になった冷たい手に温かい息を吹きかけながら、同級生とサッカーをする。

今風に言えばフットサルとでも言えばいいのだろうか。



少し疲れて、壁際に移動し休憩タイム。

息を整えながら他のコのプレーを見ていると、突然視界に女の子が入ってきた。


クラスの男子の一番人気の美貴ちゃんだった。


ショートカットで笑うと八重歯がチラッと顔を出し、屈託のない笑顔を見せる。

性格も女の子らしさより、活発で少し男勝りな部分がまた好印象だった。


クラスの席替えのくじ引きは、いつも美貴ちゃんの隣りを引いたヤツが最高の笑顔を見せる。


僕は一回も隣りにはなれなかったが。



そんな憧れの美貴ちゃんが、少し顔を赤らめてニヤケながら僕に質問した。


「緑と白どっちの色が好き??」


僕はすぐには答えられなかった。


なにせ、よくわからない質問内容に加え、目の前にいる好きなコがなんとも可愛い表情で僕を見ているという、2つのスパイスは絶妙なバランスで僕の頭を一瞬麻痺させた。


もう一度同じ質問を美貴ちゃんがしてくれた時、僕の頭に浮かんだのは有名なプロサッカーチームのユニフォームの色が緑だったて事だった。


「緑かな。」


僕は自然に答えたつもりだった。

美貴ちゃんには僕の動揺してる表情が丸わかりだったろう。


美貴ちゃんは顔を赤らめたまま わかった と一言言って体育館を去って行った。




それから数日後 。



クラスの教室では女子達がいつもの井戸端会議ならぬ教室会議。


好きなタレントや好きな曲、可愛いグッズなどの話から次第にガールズトークへ。

来週に迫るバレンタインデーの話をしていたのが聞こえてくる。


「チョコはどこで買う?」


「〇〇ちゃんは作るの~!? 本命いるの??」


そんな話の中に美貴ちゃんの話が混じってくる。


「美貴ちゃんはマフラー編んでるらしいよ!」「えぇっ!? すごくない!?」


僕は聞き逃さなかった。


(ん?美貴ちゃんがマフラーを?

もしかして美貴ちゃんが色を聞いたのは、僕が好きな色のマフラーを編む為だったのか!)


そう推理した途端、僕の顔は真っ赤になって火照っていた。


辺り一面雪景色の2月に僕の頭の中の桜の木は、出芽と蕾の時期を一瞬で通り越し一気に満開へ近づいた。




バレンタインデー当日。



自惚れていた小学生には痛すぎる結末が待っていた。



僕は(なるべくいつも通り)と自分に言い聞かせ、学校へ向かう。


2月のこの町は雪よりも寒さの方がこたえる。

冷たい空気で頬はみるみる真っ赤になり、吐く息はそのまま凍ってしまうんじゃないかと思うくらいの寒さだ。

家にはいくつもの氷柱がぶら下がり、子供達には絶好のオモチャになる。


いつもの苦痛な雪道を歩き続けた日々も今日だけは違った。

雪道の上をスキップしながらでも歩きたいくらい舞い上がっていた。


校舎に入るとあらゆる所でチョコの受け渡しが繰り広げられている。

何でチョコなのかなんて考えもせず、チョコを渡すのが当たり前かのごとく右を見ても左を見てもチョコを手に持つ男女達。


「はい!しっくん! 」

クラスの女子達がカラフルな包みに包んであるチョコを渡してくれる。


「ありがと。」

この日ばかりはおやつに困らない。

それだけでも嬉しいが今年は嬉しさのケタが違う。

美貴ちゃんから緑色のマフラーが貰えるんだから。


僕は貰ったチョコをカバンにしまい淡々と席に着く。

教室に美貴ちゃんの姿はまだ見えない。

いつ、どのタイミングで渡されるかわからないので今日はなるべく教室にいた方がいいんじゃないかと作戦を練る。


休憩時間になる度に美貴ちゃんの方へ視線を向けるが、美貴ちゃんはこっちに来る気配も無ければ僕の方には気にも止めない。



そんなモヤモヤする時間を繰り返すうちにあっという間に放課後に。


不安がよぎる中、僕はこの放課後に最大のサプライズがあるんだと思い体育館で遊ぶ事にした。



体育館でサッカーをする僕を呼ぶ声、美貴ちゃんだっ!!

今日一日待った甲斐があった!!

ついに僕の元へ手縫いのマフラーが……。




美貴ちゃんの持っていたそれは小さな袋だった。

マフラーが入るような大きさには見えない…


混乱した。


僕は美貴ちゃんから受け取った小さな袋を体操着のポケットに入れ、美貴ちゃんに御礼を言った。

「ありがとう」ってちゃんと言えたかは定かではない。


美貴ちゃんの後ろ姿が見えなくなったのを確認した僕は、体育館のステージ裏へ走った。

物陰に隠れた僕はポケットにしまったソレを出して中身を確認。



(チョコ…?)

それ以外はもちろん何も入っていない。

(マフラーは?)

もちろん入ってるわけない。

(どういうこと?)

サッパリ理解できない。

推理小説のトリックのような美貴ちゃんの行動に小学6年生の僕は頭をフル回転してみたが、答えは導けなかった……。



震える寒さから少しずつ解放されはじめる3月。

世の中は桜の蕾も出始めるこの季節に、僕の町も雪解けとはいかないが晴れる日も多くなり、暖かく感じる日もある。



僕だけは氷漬けにされたマンモスのようだったが。



バレンタインデーの数日後、僕は近所の同級生の友達の格好を見て答えを知った。


友達の首には白いマフラー。


遠回しに聞いてみると、やはり想像通りの回答。


「美貴ちゃんから貰った。」


僕の頭の中の桜はあっという間に散り、葉も枯れ落ちた。

景色と同じ、幹と枝だけの樹木。

ただ一つ違うのは、景色の桜の木はこれから芽が息吹く春に向かう楽しみな樹木だが、僕の持っている桜はついこの間まで満開だった花が散り、葉もない冬に向かう寂しげな木だという事。


これで美貴ちゃんの1つ目の謎の答えは解けた。

マフラーは僕ではなく僕の友達にあげたという事。



では残りの3つの謎は??

《何故緑か白なのか??》

《何故僕に聞いたのか??》

そして……


《何故僕じゃないのか??》


大人になった今ならある程度の理解や推理はつく。

だけど小学生の頭では?しか生まれない。



ただわかる事は、美貴ちゃんが好きなのは僕ではなく友達の悠くんだったっていう事実だけ。



これが初めてのシツレン…

失恋までいくレベルなのかはわからないが、この出来事は数十年経った今もハッキリと覚えている。

美貴ちゃんの顔、悠くんの顔も。


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