壊れたココロ
あの日以来、彼女の様子は少しづつ変わっていった。
僕を傷つけないように平気なフリをしているけど僕にはわかった。
電話の感じはあきらかに違う。
いつもより明るい態度で話してくるし、優しい口調がかえって僕を不安にさせる。
そんな態度をとられても僕は本心を聞けなかった。
純粋にこの関係が終わるのが怖くて、まだ軌道修正できると思い込んでいた。
その年のクリスマスも一緒に過ごした。
年末年始も1日だけは一緒に居た。
だけど・・・
一度離れた心はくっつく事はないというのを思い知らされた。
僕の誕生日は彼女と2人で過ごす約束をしていた。
彼女とご飯を一緒に食べ、近くのモーテルに入り部屋のソファに座った時、彼女はバッグから小さな包み袋を取り出し僕に手渡した。
「はい!誕生日おめでとう。」
彼女は照れくさそうに言いながらこっちのリアクションを確かめようとしている。
僕はこういうシュチュエーションは苦手だ。
恥ずかしくて素直に言葉にできない性格で、いつもかわいくない態度をとってしまう。
「ありがと。」
僕は普通に返した。
「可愛くないのぉ~ ほっんと素直じゃないね!」
彼女は少しむくれた。
僕はそんな彼女の姿を見て愛おしくなってキスをした。
これが彼女との最後のキス。
僕らはお互いの体を重ね合わせ一つになった。
ソファでタバコを吸う彼女を見ながら僕は心も体も満たされ最高の誕生日を送れたと思っていた。
でも現実は突然目の前に現れた。
彼女はすぅっと息を吸い、僕の近くに座り話し始めた。
「あのね、こういうことはもうこれで最後にしよう。やっぱりお前には普通の女の子と付き合ってほしい。」
僕は黙って聞き続けた。
「アタシも正直罪悪感いっぱいだし、お前が息子の先輩だとか、周りにこの関係がバレないかとか、不安や心配の方が多いのよ。」
僕は泣かずにはいられなかった。
言われた言葉はもちろん刺さった、それ以上に何故このタイミングなのか。
一生に一度しか訪れない誕生日の最後にこんな結末があるなんてある意味ドラマの様だった。
「ごめんね。」
彼女のその一言が尚更心に刺さる。
僕は涙を必死にこらえた。でも考えれば考える程涙は流れ出てくる。
悔しさと悲しさと一番見たくなかった現実を目の当りにした僕は泣くだけだった。
「あと10年お前が早く生まれてたら・・・」
それをいわれたのは一番痛かった。
どうやっても修正出来ない10年早く生まれる事、僕は悔しかった。
悔しくて痛くてもがきたかった。
彼女もこうなることはわかっていただろうし、彼女は彼女なりに僕と自分自身の事を考えた上で覚悟を決めて話してくれたのも理解はできる。でも、あのころの僕には「今」しか見えてなかった。
彼女は僕が泣き止むまで黙って待ってくれた。
僕は泣きながら必死に抵抗し理由を問いただしたが、彼女の答えは変わらない。
「簡潔に言えば価値観の違いかな。」
この言葉はそれからの僕の心の中からは消える事はなかった。
「価値観」
価値観って何? どうやったら元の戻れるの? 違うといけないの?
初めて聞くその言葉に僕の頭の中は「価値観」で埋まった。
10代の僕には理解できない言葉で意味をちゃんと理解するのには何年もかかった。
今思えば彼女は、僕をぬかるみだらけの泥道からアスファルトの道へ誘導してくれたんだ。
この言葉は僕を1つ大人にしてくれた。
何もかも失った様な姿の僕を彼女はこれ以上傷つけないように慰めてくれる。
僕にとっては傷口に塩を塗られてる気分にしかならない。
彼女は僕の家まで送ってくれた。
彼女の車に乗るのもこれが最後・・・
なんて細かい事を考えるとまた涙がこぼれる。
僕は部屋に篭りずっと考え続けた。 「価値観」の意味を。
どれだけ考えてもわからない。 でも考えないと自分の何が悪いのか、どこを直せば元に戻れるかの方法に辿り着けない。
カバンから携帯を取り出そうとした時、彼女から貰った誕生日プレゼントが目に留まり僕はカバンから小さな包み袋を取り出した。
包み開けると中には有名なファッションブランドの財布とメッセージカードが入っていた。
「お誕生日おめでとう!! 今日という日は一度しかないんだから一日一日を大切に。 輝ける17歳でありますように!」
響いた。
彼女の僕への気持ちがその言葉に詰まっているって感じた。
彼女はきっと沢山考えただろうし、沢山悩んでどのタイミングで僕に終わりを伝えようか、どういう風に話せば理解してくれるか、全てを合わせた答えが誕生日でありあの言葉だったのだろう。
正解なんてものは無い。間違いなんてものも無い。
お互いの立場やこれから先の事を考えた上の結論がそれだっただけ。
この言葉は後の僕にとって重要なキーワードになる事になる。
僕の17歳は苦すぎるスタートを切った。
それから先の僕の誕生日はいい思い出が無い。