小金持ちと歪んだカンジョウ
暑さも落ち着き丁度いい暖かさが心地よい。
風は少し冷たく感じるが、まだまだ夏の名残りは続いてる。
僕は薄暗いプレハブを繋ぎ合わせて作った様なボロボロのお店にいた。
イカの沖漬け、一夜干し、冷凍の鮭やカニが並んでいる。
地元では有名な車麩、笹団子なんかも置いてある。
地元のスーパーでバイトして3ヶ月。
僕は人事異動により姉妹店でツアー観光バスをターゲットとしたお土産兼鮮魚センターで働く事となった。
観光バスが来なければ一日中暇を持て余すが、時には1度に7~8台のバスが停り、店内は身動きが取れないほどの客で埋まる。
そんなお店の従業員はと言うと、カラスの集団。
店長は社長の息子。イケメンで車好き。ヤンチャ時代の面影を匂わす雰囲気。不良ではなくチャラさが滲み出ている感じ。
そんな店長について行く従業員達はまさにヤンチャな人達。見た目、性格ともにヤンチャそのもの。
僕は萎縮した。歳はそんなに変わらないがみんなにはオーラがあった。近寄り難い怖いオーラが。
僕はレジを任され、一通りの操作を教えてもらう。
バーコードを読み取る方式ではなく、昔ながらの手打ちレジ。
システムもアナログなお店に心配になる。この店は大丈夫か?と。
外では、みんなが世間話をしながらタバコを吸ってる。
まるでヤンキーのたむろの状態。
でも彼等はひとたびバスが来ると、戦闘集団に変わる。
どんなに客が多くても卒無く捌き、あっという間に出発するバスを見送る。
そしてまたタバコを吸う。
そんな毎日を何年もずっと過ごしている。
今まで不良とは縁のない僕は、彼等と出会って少し変わった。
車の話を聞いたり、オンナの話を聞いたり、武勇伝なんかも聞いたり。
僕は彼等に憧れていた。
(あんな風に生きてみたいなぁ~ 自由なんだろうなぁ~。)
思っていても現実は甘くはない。
祖父母への借りと今まで面倒見てくれた分、今度は自分が2人の生活を楽にしなきゃいけない。
これも叔母、従姉妹との約束だった。
残業はする事も無く、僕は土日の休み。
給料は時給なのでスーパーの時より少ない。
それでも僕はここの居心地が悪くない。
ガラの悪い先輩とガヤガヤ楽しく仕事してるのが、僕にとって高校生活の代わりに充分値するものだった。
ただ一つ、この店には女っ気が無い。
女性の従業員はいるが、オバチャン、ヤンキー、人妻。
全く興味が沸かない面子。
それでも楽しかった。そう思ったのも束の間、またもや人事異動。何とも忙しい会社だ。
僕はまたスーパーの青果部に呼び戻され、レタスを巻く事に。
僕がいない頃、スーパーではたくさんのバイトのコ達が入っていた。しかも女子高校生。
僕はいいタイミングで戻って来たのかもしれない。
まだ15の少年にとって同じ職場に異性の同年代がいる事はモチベーションの上がる最大の要素。
しかし、僕がこの店で恋をしたのは同年代の女の子ではなく、年上の女性だった。それもかなりの年上。
きっかけは休憩中に相手が僕に話しかけてきた事だった。
『アナタ、中学校の時陸上部じゃなかった?』
『えっ!? 何でわかるんですか!?』
『ウチのコ、アナタの後輩だから。』
『下の名前は?』
『瞬よ。』
『あ~っ! わかった! 長距離にいる2コ下の!』
『そうそう♪ 小学校も一緒だったよ♪♪』
相手の子供とは2コ下でもそんなに仲良く遊んでたわけではないので、親の事など知らなかった。
世間は狭いなと感じた。
彼女はバツイチ。しかも2人の子供がいて、上の子は僕の2コ下の後輩。歳は確か40くらいだった。
若づくりなのか、若く見えるのか、彼女からは独特の色気が感じられる。少し枯れた様な声から発せられる話し方や素振りも艶っぽい。
最初のイメージはそれだけだった。
まさかこの後に自分が彼女に恋をするなんて思ってもみなかった。
オトナになってから考えてみたが、あの時は母親の様に見えて甘えたかっただけなのかもしれない。
もし本当にそうだとしたら僕は立派なマザコンだ。
僕はマザコンでは無い。だからやっぱりあれは恋愛感情だったんだ。
どちらにせよ、あの時の僕は少し歪んだ心を持っていたのかもしれない。
もしかしたら今でも歪みは治っていないかもしれないが…