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異脳探偵のメモリー  作者: 戸山 安佐
第一章~アンタッチャブルズ~
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衝撃的邂逅

コンクリート壁が彼女にぶつかりそうになるのを見るなり、遠矢の身体は硬直などはしなかった。

考えるより先に身体が動いた。それにしても、この距離は簡単には詰まらない。

グワンと遠矢の身体は常人のそれとは比べ物にならない速度で動いた。

そして、あわや彼女の頭部へ当たり砕ける寸前、彼女を抱き抱えて救うことが出来た。

触れると、女の子らしい柔らかい感触が遠矢の手に伝わる。

黒く艶やかな長髪から、彼女の顔立ちが見え、後ろ姿のイメージ通りの清楚な雰囲気の美少女であることをうかがえる。


「大丈夫か」

遠矢は、少女にケガが無いか確認する。

「はっ、はい」

動揺は見受けられるが、正常な判断は出来るようだと、少女の声で遠矢は安堵する。

黒髪の美少女に遠矢は指示を出す。

「早く学校に行った方が良い。そして出来れば俺のことは話さないで、事件が発生したと伝えてくれ」

「事件ですか?」

少女は意外そうな顔で遠矢に尋ねてくる。

「事件だ。これは事故じゃない。詳しいことは今度会った時にでも。よろしく頼むよ」

遠矢は「事件」という表現は訂正しないまま、重ねて要求する。

「分かりました」

今度会った時にでも、の意味することが分からなかったのだろうか、少し間をもってハッとした顔で返答する。

高校の制服を見れば一目瞭然である。

「今度お礼に伺いますーー」

彼女はそう言って立ち去った。

この間1分、事態によっては人の命に関わる長さだ。なぜならば‥‥


事件であるから。


事故でなく事件だ。遠矢は自分に言い聞かせて気を引き締める。そして思考の奥深くに意識を刹那の間沈める。


遠矢は、事態解決への線を結んだ。

「まずは‥‥」

遠矢は監視カメラに手を翳す。すると、カメラは動作を完全に停止し、機能を完全に失った。

その後、遠矢は電信柱を蹴って簡易高速道路へと乗り移る。簡易高速道路まで地上から5メーター近くあるのだが、彼は微塵も気にせず、それを当たり前のことであるように成し遂げる。


黒の高級車が、白のワゴン車に追突しているのが遠矢の視界に入ったとき。遠矢は道路上に降り立った。

つかの間、武装した逞しい身体の男3人が白いワゴンから降りてくる。対して、高級車からは人が出てくる気配は感じられない。

男の一人が遠矢に感づき何か声をあげる。それに反応した二人が顔をこちらへ向けて、同じく叫び出した。

北京語だろうか。やはり、この事故は仕組まれたものだったのか。遠矢は敵としてこの男達を選別した。


男3人の武装は、小型拳銃にサイレンサーが装着されたもの。サイレンサーを使用している点からも、この住宅が無いわけではない地域で反抗を行う計画は立っていたと考えるべきだろう。この高級車に何の目的が有るのかは知り得ないが。


恐らく中国国籍の男達は目出し帽を被っているから、顔面全てを確認出来ない。しかし、目の他に見ることが出来た口元は笑っていた。

勝ち誇っているのだろう。常人は勿論、新人類も拳銃の前では、無力だろうと。誰だかは知らないが、ここで死んでもらうぞだろうか。


確かに、新人類は一般に力を発揮する際には[アイデント]と呼ばれる、能力に見合ったデバイスを形成してからでないと、ユニーク・タレントは発動できない。


しかし、遠矢はいたって落ち着いている。

「俺だって、そんなことは理解している。なら、なぜ俺はここまで上がってきた?逃げる方が安全なのに。何でだと思う?」

遠矢はそのまま微笑みを返した。独り言でしかないが。


遠矢は中国人から余裕の影が消えたのを見ると、先刻動揺手を翳す。そして、答えてやることにした。

「確実に勝てるからだ。傷一つ付けずに」


男達は、相手の正体不明の圧力に焦り銃口を向けてきた。


シュンッッ、サイレンサー特有の音がした後、弾丸は遠矢の頭を貫通し、大量の血液が飛び散った。確実に遠矢の命は無い。即死だろう。

なんだ、はったりだったのか。男達は胸を撫で下ろして、本来の任務に移ることにした。怖がらせやがって、結果はこのザマかよ。


男はそう、ありもしない夢をみている。自分の身に起こった現象に整理をつけられずみている妄想に近い物。

目の前の遠矢は生きている。死んでなどいない。

何しろ弾丸自体が一発も発射されていないから。

分かっている。この引き金を引けば、前の少年は死ぬ。

それだけのことなのに。

撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。撃てない。

指先が動く気配はない。少し前にいる仲間の二人も同じ状況のようだ。

やっと、少年の微笑み返しの意味を悟った。


遠矢は、想像通りの反応をする男達に、好都合だと心で軽く会釈してから、近づいていく。

今まで、遠矢は問答無用でこのような相手には死を与えることも辞さなかった。しかし、今は学生なのだ。殺傷する権利は、再び与えられない限り復活することはない。だから、遠矢は気絶させるに留めておくことにした。


遠矢は今日まで、プロと言われる者達を相手してきた。それに比べれば、動かないターゲットなどは幼い子供が人形を壊すほどに容易いものだった。

鳩尾に一発喰らわしても良かったのだが、今日はこれからも予定があるので出来るだけ疲れない方法に遠矢はすることにした。

両の人差し指を相手の頭部を挟む形で近付ける。それを三回、三人分。

屈強な男達は、完全に意識を絶え、実はこの方法で記憶さえも消されていた。一人の少年に、妨害されたという記憶を。


遠矢の算段は未だ完遂していない。問題は高級車側はどんな人種なのかということであった。

しかし、車の後付けのシンボルマークを見て遠矢は全てを悟った。

「これは、思ったより面倒なことになったな」

「何で、こんな所を走っていた?」


新たに浮かぶ一つの疑問。それは、これから遠矢が車のドアーを開けることで瞬時に結び付く。


遠矢がドアのぶを手に掛けて、カチッと音を鳴らせてドアーを開けると、その時。


うずくまって、泣きべそをかいている金髪の少女を目にした。




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