表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異脳探偵のメモリー  作者: 戸山 安佐
序章
2/21

プロローグ②

西暦2122年。パラダイム転換が生じて、高圧的平和主義を提唱する羽目になった日本。

かつて下町という表現で括られた東京の一つの地域。

時代が流れて、隣に隣接する千葉の北西部を呑み込んだだけでなく、住宅地においても充分または過剰なほどにインフレ整備が進んでいた。

東京だからというある種、国の面子を守るということではなく、都市と制定された地域は低コスト化が進んだ副産物として一般に整備は隈無く行われている。

この大きな変化に応じて監視カメラなるものが設置されるようになったのだが、その理由についてはまだ述べないことにする。

この国の通常犯罪もこの監視体制下では著しく減少の一途を辿る。とはいえ、電脳犯罪を省いてだが、犯罪者の中には自らの犯罪的欲求を消化する為だけに罪を犯し、刑に科されることなどは微塵も気にしない者、もしくは余りに計画が杜撰な者やその逆で発覚しない自信を持って罪を犯すものもいる。

犯罪者がゼロにならないのはその為だ。


上に簡易高速道路(構造が簡易という訳ではない)が通る赤茶のレンガが敷き詰められた道を歩く黒髪の少年がいる。


少年は鳴神遠矢~なるかみとおや~。二つの彼の性質を無視するならば、顔立ちはまあまあ整っていて美男子と言われるほどではないけれど悪いわけでもない。とりわけ比喩するところも存在しない、掴み所のないと言ってもいいか。

あと追記するなら黒髪の前髪が少し眉まで掛かっている。


突然だがそんな彼も見掛けによらない能力を持つ。良く見かけより大食いだとか、動きが俊敏だとか世の中に満ち溢れた意外性に近いものかもしれないが、あまりに異質である。

一つ目の彼の特異性は新人類ブルー・ブラッズであること。


新人類は2032年の夏にある出来事をきっかけに―神託と呼ばれる―発見されることとなる。

何を以て定義するのか。分かりやすいものは、脳の造り。構造だ。

前頭葉の更に前部分にNRニュートン・リージョンという新しい器官を保有していることだ。

そしてNRをもつ者に共通してみられる能力がある。

ユニーク・タレント。すなわち異能だ。


神託以来、先天性や後天性はあれど能力を発揮する者は少なくはなく、全人口の0.001%に達した。問題は、能力の詳細であろう。

このユニーク・タレントには原則が存在しているから記述しておく。


1.無から有は生じないが、有から無、倍増の変化をもたらす。例外が存在する。

2.基本的に物理科学の概念に則る。仮想実験とされたものは、能力の使用で現実になるものも多い。

3.新人類は能力発動の対象を五感のいずれかで把握する必要がある。

4.新人類は基本的な能力の他に個人独自の能力を持つ。

5.第二ニュートリノと呼ばれる新粒子が干渉して起こる能力である。

6.第二ニュートリノは発動者の干渉が終わるとそれとしての性質は消え、元の第二ニュートリノに戻る。


上記の通りだが、聊か具体性に欠けて想像しがたいものになっている。未知のものに法則を与えようとすると当たり障り無く済ませようとしてしまうのが世の常である。


彼も紛れもなくその一人であるのだが、一つの欠陥を持つ。周りは蔑み嘲笑うことも多いが、最後、彼を笑う者は居なくなる。

いずれ触れることになるだろうから伏せておく。


二つ目の特異性は‥‥‥‥


ふいに遠矢が声を出す。

「おっと、またか」

手元には電源の点かない小型端末。目で分かるように焦げてなどはいないが壊れているということだろう。

「気は進まないが、後で家に連絡しとくか」

遠矢は後悔しても仕方がないと言わんばかりに次の判断を下す。しかし、一瞬でも家のことが頭を過ったせいで遠矢に不快感が募る。


あの、外道どもが


外道。遠矢を利用した理不尽な大人全てだ。二月前の事件以来ある人物を除いて、遠矢は血の繋がり以上の嫌悪を家の人間に抱いている。鍋の中でグツグツと煮立てられたような憎悪を遠矢は家の人間に抱いているのだ。15、6の少年が持つ感情ではない。しかし、彼にとっては慣れ親しんだ感情だ。喜びや哀しみと共に体の中で飼ってきた。


しかし、その憎しみや怒りに耐え切れず遠矢はここにいる。

今まで自分を束縛してきた足枷を直ぐにでも外したかったから。

自分の価値を自分の中で見出だしたかったから。

理由は幾らでも付けられる。しかし、今後の自分の展望こそ見当たらなかった。

ただ逃げるにしても理由が必要だ。未成年の彼には決定権は少なくとも自分自身に関しては無い。

今着ている制服がその理由として採用したものだ。

学生である証。

つまり遠矢は学校に通うことにした。

現在、遠矢は初登校兼初入寮への手続きに向かっている道中だ。

入寮の手続きを済ませておくためなので始業式は今日ではない。


日本に8つある特異者教育施設の一つ。東京地区「青山傑英高等学校」。

国立のこの学校は、国が数十年前に能力者の育成を最重要課題と定めてから流される有り余る資金を元に最先端の科学技術が犇めく。その学校生徒にも勿論ユニーク・タレントはある。


荷物は送りつけてあるから、遠矢は今かなり軽装だ。

タキシードのようなデザインで青いラインが入った制服。伸縮性に優れたもので、最新のスプリング107という合成繊維が使われている。

遠矢は後、肩に掛けるタイプのポシェットを利用しているだけだ。

中には、先程壊れてしまった小型端末や万能デバイスである生徒手帳が収納されている。代用はこれで済まされよう。


家のことを思い出しストレスが急にかかった遠矢は、空を仰ぐ。怒りが治まり、意識は寝起きの良い朝ぐらいに明瞭になっていく。マイナスイオンの効果だろうかと遠矢は下らないことを思う。

「どう見ても、脳だよな。あれ」

空中に浮かぶシンボル。

新人類にのみ視認できる巨大な物体。

ランダムに諸外国の上空に現れた謎の物体。諸外国の中に日本も含まれている。

新人類に関連する凡ての元凶。

遠矢はシンボルの形状が脳であることをはっきりと視認できる。しかし、一般の―あくまで新人類一般のであるが―者には、ノイズが入ったようにボンヤリとしか見えない。

そう呟いてからは、独り言の多い奴だと思われるだけ仕方がないので、遠矢は黙って歩を進める。

人より少し足が早い遠矢は、前方に少し離れて新しい人影を見つける。


うちの生徒か?


まだ入学もしていないのに、うちという表現を使うのは可笑しいかと、自分で自分を軽く笑った後、暇なので前を歩く生徒について少し頭を働かせることにした。


後ろ姿は清楚な女性のイメージだなと、和柄のリボンで結ばれた長髪の黒髪を見て世間並の印象を持った後、遠矢は思考活動を始めた。

青傑高校の制服。自分同様の軽装。この時間にここにいるそれ自体。


俺と同じ青傑の生徒で、寮徒になる予定の女子。


遠矢は水を飲み込むように早く、彼女という多面体の一面を除き見た。

二人の距離が詰まっていく。

残り3、4メーターの距離をとるかどうかの時。

その瞬間。


キィィィィィーー。ガッシャーーン。


表現し難い轟音が上の簡易高速道路で鳴った。

衝撃によって破壊されたコンクリート壁の一片が落ちてきた。


前の少女にこのままだとぶつかる。


遠矢の身体の筋肉が危機を示した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ