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異脳探偵のメモリー  作者: 戸山 安佐
ブラッディー・マーダー
16/21

なんでもの約束

「って、何で遠矢さんが生徒会に入ることになってるんですかぁぁぁぁ!?」

遠矢は寮に戻って、科目の見学から帰ってきていた鈴と茜に明日は公欠することを話した。当然どうしてなんだと問われる訳で、生徒会に入った事実を話さないわけにもいかなかった。

「それにっ!何でアリスさんまで一緒に公欠する必要があるんですか?!」

「いや、それはアリスも捜査に加わることになったからでですね」

鈴は般若のような面相で、遠矢に詰め寄る。それから、急にハッとしたかと思えばアリスに方向転換した。

「アリスさんも、あなた昨日まで会長さんのことを悪くいっていたじゃあないですか?何故また捜査に参加するんですか、遠矢さんの言い方では生徒会には入らないんでしょう?」

鈴は遠矢の言葉の意味を汲み取って、アリスとの距離を縮める。

「だって、遠矢が傍にいてくれって言うから。私が我慢して捜査に加わるなら何でもしてくれるっていう約束までしてくれて‥‥」

アリスは蝋燭に火が灯ったように耳まで赤くしてそう言う。

「本当なんですかっ!遠矢さん」

鈴はとてつもない形相で遠矢に貫通するような鋭い視線を向ける。

「う‥‥うん」

遠矢がアリスを肯定したことで鈴はあんぐりと口を開けたままフリーズしてしまう。普段の洗練されたお嬢様の所作からは考えられないほどなので、余程ショックだったのだろう。

「もうっ、それくらいにしてくれる?見てるこっちがハラハラするからさあ」

茜は口を尖らして他に文句をつける。茜は修羅場を見せ付けられて困るから喧嘩を止めてと言ったのだろう。しかし、彼女のなかには確かに苛つきが存在していた。

原因は歴然としているようにも思えるが、彼女はその正体を認めるわけにはいかなかった。

遠矢はすまないと茜に一言詫びて、必死に二人を宥めるのだった。


「とーや、忘れてないよね」

「ああ」

既に二人ともお風呂に入り終わり、自然と体が火照る。だけれど遠矢の目の前にいるアリスの熟れた果実のような頭は違う理由で赤いのだろう。

心なしか瞳も潤んでいる。

「何でもしてくれるんだよね、頼んだことなら」

「俺が出来ることなら」

潤んだ瞳は揺れ始めて、アリスの気持ちの高揚を表現する。遠矢は人の緊張は移るものなのだとアリスと対峙して思った。

真面目に応えてやらなければとも。

「じゃあ、とーや‥‥」

「何だ?」

アリスは長い沈黙を置く。

「私を抱いて、頭を撫でて‥‥」

アリスは燃えている炎のようだった。

「抱くってのは、そのままの意味で良いんだよな?」

「へ?‥‥‥‥‥当たり前でしょっ!とーやの馬鹿っ、エッチ!!せっかくロマンチックに決めようと思ったのにな」

遠矢の無粋とも言える問い掛けにアリスは機嫌を悪くする。

遠矢は謝罪しながら、今日は謝ってばかりいるなと思わずにはいられなかった。

「‥‥なんか青傑戦辺りから鈴以外にもライバルは増えるし、本当に意味わかんないっ」

アリスは小声で遠矢や後から割り込んできた連中へのムカつきを呟く。

それに対して遠矢が何か言ったかと尋ねると、アリスは更に機嫌を悪くした。

「もういいっ、でもちゃんと約束は果たしてもらうからね。じゃあ私がここで立ってるから遠矢はさっき言った通りに実行してね」

アリスは部屋の中央で吹っ切れたようにねだる。

「わ、分かった」

一歩ずつゆっくりと歩を進める。体感時間が実際の10倍には膨れ上がるほどに精神的にもゆっくりと。

「んっ‥‥んん」

遠矢がアリスの細い体躯を抱き寄せると、アリスから甘い吐息が漏れた。

アリスから進んで遠矢を抱き締めたことはあっても遠矢から能動的に恋愛的な行動を起こしたことはない。どちらかが交際を申し込んだ訳ではないから、関係性が曖昧であるために遠矢はアプローチしにくいのだ。ある意味、護衛として役割は決定しているのだが。

男から女を抱くことは特別な意味を持つ。

特別な意味が何かを二人は掴みかねているが、特別というだけで体が紅葉してしまう年頃なのだ。

遠矢はもう少しだけ強くアリスを包む。

味わったことのない安心感が押し寄せる。

そして思うのだ。この子を守るためには、やはり交際することは出来ないと。事件に巻き込まれて人質にされることも考えられる。

アリスに危害が加えられたら、きっと遠矢は正気ではいられなくなる。確実に相手を殺すだろう。

曖昧な関係が続けば良いのにと、遠矢はひたすらに願った。それがアリスに対して不誠実であることは分かっていたが。

抱き締められたアリスの方は、実を言うと何も考えられていなかった。以前自分から遠矢を抱き締めたときは、とにかく遠矢を励ましてあげれればとそれだけを考えていたから、ある程度冷静だった。

今のアリスは特別の意味にあてられているのだ。そしてオーバーヒートを起こしている。

「‥‥へへへ‥‥‥‥へへ」

頭を撫でるとアリスは間抜けのような声を出した。思わず遠矢はクスリと笑ってしまったが、アリスは全く気に求めなかった。

撫でられる幸福感や癒しを貪ることだけに専念していた。

あまりにも嬉しそうなものだから、遠矢は数分間、手に疲れが出てくるまで、アリスが満足するまで続ける。

「よし、もう良いだろう。もう遅いし寝ようか?」

遠矢が撫でるのを止めると、意地悪とアリスが目で訴えてきた。

「仕方ないだろう?明日は捜査に加わる予定なんだぞ」

「うん、分かった。我慢する」

明らかにアリスは理解しても納得はしていない様子だった。

「偉いなアリス、このまま良い子にしていたらこれくらいのことならいつでもしてやるぞ」

「本当にっ!嘘じゃない?!」

食い付くようにアリスは確認する。

遠矢は嘘じゃないとまた、新たな約束をしてアリスを落ち着かせて一緒にベッドに入った。

火照って寝つけないかと思ったが、二人とも眠りに落ちるのは割と早いものだった。

ただただ隣にいるパートナーが良い夢を見られるように願いながら。



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