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異脳探偵のメモリー  作者: 戸山 安佐
ブラッディー・マーダー
15/21

ヘッド・マーダー

「これが私達生徒の生徒会よ、二人とも」

万城目凛の声には、本人の意識の外で深みが備わっていた。

先程、遠矢との軽い腹の探り合いで黒星の付いた凛~実は学園のメンタリストの最高成績者なのだが~が、自然と軽視されないようにしたのかは分からないが。

「いやいや、随分と大きい機材ですね。どこから資金を得ているんですか?」

「学校からは勿論だけど、警察からも寄付されているわ。正確に言えば警視庁からね」

遠矢は凛の答えた内容に、やはり新人類が通うこの学校の中でも生徒会はかなり異質なものだと感じた。

「私以外のメンバーも二人に紹介したいのだけれど、今は私一人みたいね」

「そんなことないですよ」

凛は遠矢の言葉に、耳と目の両方を疑った。部屋の中には自分と目の前にいる二人しかいないのは明らかであったから。

「遠矢くん、幽霊でもいるって言うの?」

「いいえ、でもいますよ。この部屋にはもう一人」

凛は冗談めかして、話を切り上げようとしたのだけど遠矢はなにかの確信を得ているようだった。

凛は考えた。

この部屋に立ち入ることが出来るのは、網膜認証システムを通過できる生徒会メンバーのみ。その中で、視覚に干渉できる能力を持つものは?

いや、本当に目には映っていないのか。凛は一人心当りのある人物を思い浮かべた。

「ハルカゼちゃーん、出てこないと後で痛い目に遭わせるわよー」

「しゅ、しゅいません」

凛が脅し文句を言った後、速攻で謝罪の言葉と供に姿が現れた。

首にヘッドフォンを掛けた高校生かと目を疑うほどにロリロリしい少女。身長は135センチメートル程度か。地毛なのか判断しかねるが、長い白髪に目が自然と向く。

制服にだぼだぼのパーカーを羽織って、ニートのような雰囲気も出ている。

「やっぱり、ハルカゼちゃんね。どうして、姿を消したの?」

「いやー、新学年のクラスの雰囲気がどうも合わないんじゃ」

何だ?この爺臭い口調は。これではなんだか、失踪してしまった老人との会話のように聞こえるではないか。そうアリスと遠矢は思った。

「それにしても、良くうちの存在に気付いたのー。そこの少年はともかく、そこの少女も気付いとったようじゃし。二年生の意地として、光波は完全に消した筈じゃが」

ハルカゼという名の少女はポテトチップスを食べながら、目を尖らして尋ねる。

事実としては、二人ともアンタッチャブルの特性として、遠矢はハルカゼの体内を流れる電流を、アリスは光波を消すために利用されたニュートリノを捉えたからなのだが、この事実は秘匿する必要がある。

遠矢は少しも目を動かすことなく、脳内に思考を張り巡らす。

追求の余地のない、別のハルカゼを感知できた理由を逆推理した。一応脳内で検算した後、遠矢はハルカゼに答える。

「ポテトチップス」

「ほう?これがどうかしたかの」

遠矢はハルカゼを試すようにヒントを提示するが、ハルカゼにはピンと来ていなかった。

「問題はポテトチップス自体ではないんです」

「どういうことかしら?」

いよいよ凛も興味を示し始めた。

「ハルカゼさん、自分の手を見てみてください。特に指先を」

遠矢の言葉に促されるようにして、ハルカゼは自分の手を見つめる。

「ほっほっほ、そういうことかの」

ハルカゼには合点がいったようだ。

「そうです。ハルカゼさんの指先はポテトチップスの油分がへばりついています。ゴミ箱に捨てられている空き袋から考えてもあなたは日常的にポテチを食べていますよね?」

「うむ、違いない」

遠矢の質問にハルカゼは同意する。

「この部屋の床上120~140センチメートルの壁や機器にべたりと付いているんですよ、その油が。そして、あなたが現れた付近の場所には、新しく付いたあなたのくっきりとした指紋が見えたんです。ライトに照らされたことでね。凛先輩が付けた可能性は油分が付着していた高さからいって排除しました」

遠矢は自分の推理を披露し終えた。

「あら遠矢くん、私なんかより目が利くじゃない。素直に称賛するわ」

「一年と思って舐めておったわ。相当の切れ者のようじゃな」

凛とハルカゼから感嘆の声が聞こえる。

「いえ、運が良かっただけです」

遠矢はしつこくならない程度の謙遜でその声を受け流した。

「わしの名は、日狩春風ひがりはるかぜ。生徒会所属の二年、Bランクじゃ。おぬしらの名は?」

通常より遅れて春風から自己紹介があった。

「鳴神遠矢、一年、Dランクです」

「雨宮アリス、同じく一年でDランクです」

遠矢、アリスの順に続いて名乗る。

「鳴神遠矢という名は昨日のミーティングで会長が挙げておったの。一年に気になる奴がおるとかなんとか、Dランクとはまた大胆なことをするのじゃな会長さん?」

「ふふっ、彼にはそれだけの実力があるのよ」

二年生でありながら、凛の思惑を謀ろうとしているあたりは流石生徒会メンバーといったことか。

「それに、おなごの方は雨宮家の子息か。なんとこれもまたDランクと来とる。今年の新入生は案外面白そうでワクワクするな」

春風はそう言い残して、ドアーの前まで移動する。三人が帰るのだろうかと思うと、くるりとまた顔を見せて

「わしはランクなんかは気にしないが、生徒会メンバー全員がそうとは限らんぞ。もし入る気があるのなら覚悟が無ければいかんからな」

春風はついにこれを最後にして生徒会室から出ていった。

「ごめんなさいね、マイペースな子なのよ」

「いえ、生徒会にもあんな人がいらっしゃるんですね」

凛は身内の自堕落を恥じて言ったが、アリスは生徒会が自尊心の塊のようなものではないと知って嬉しかった。

「そう言ってくれるとありがたいわ。それよりそろそろ本題に入りたいのだけど、どうぞこちらに掛けてちょうだい」

凛は二人を会議用の長机の木目に合わせてある肘掛けのしっかりした椅子へと二人を誘う。客席ということだろうか。

「遠矢くんはPSASについて知っているようだけれどなぜかしら、出来れば教えてほしいのだけど」

凛はカフェテリアでのやり取りをまだ覚えていた。

「すいませんが教えられません」

「分かりました。下手に詮索はしないから安心してね、野暮ったいのは嫌いなの」

遠矢が断ると、予想はしていたのか凛が落ち着いた受け答えで返す。

「同席するにあたって、雨宮さんもPSASについて知っているのか訊きたいんだけど」

「あっ、はい。昨日遠矢から説明を受けました」

凛は特にプサスについて隠すつもりはないらしく、ただ単に説明の手間を省けるならそうしたかったようだ。

「なら話は早いわね。遠矢くん、もう一校プサスが秘密裏に適用されている高校があることは知っているかしら?」

「ええ、仙台の白峰高校ですよね」

「そう、その通り」

ここからが本題だという雰囲気を醸し出して、凛は話し始める。

「実は、白峰高校とうちは同じ制度が適用されている関係で競争関係にあるの。これは知っていたかしら?」

「いいえ、公的業務に競争性を求めるのは聊か危険に思いますが」

質問をしただけだったのだが、痛いところを突かれたと凛は苦い顔をする。

「それはそうなんだけど、大人の事情でね。スポンサーって奴よ」

「御察しします」

遠矢は自分で相手を困らせ、自分でフォローをしている。アリスは横でなら最初から追求するようなまね止せばいいのにと白い目で見る。

「その競争なんだけど、検挙率で比較しているのよ。勿論、軽犯罪と重大犯罪ではポイントに差はつくけどね」

「警察はそれに応じて寄付金の額を変えてくるというわけですか」

遠矢はなるほどといった表情で頷く。

「そう、だからこちらから競争を放棄するのは不可能なのよ。あちら側は、その方がより良い、有能な人材を手に入れられるとでも考えているのでしょうね」

凛は溜め息混じりに見解を述べる。

「ですが、それが何で俺に生徒会に入るよう要求することに繋がるんですか?通常通り入学時の成績上位者から選出すれば良いじゃないですか」

遠矢は率直に尋ねる。

「そうするのが楽なのだけど、そうもいかないのよ」

凛はもはや溜め息を隠すつもりは無くなったらしい。

「実はここ数年、白峰高校に負け越しているの。それを良く思わない警視庁が一方的に寄付を止めると言ってきたのよ」

「だから、焦っているということですか?しかし、俺に目を付けたのはどうしてですか、まだ触れてないように思いますが」

遠矢と凛が大人の会話を繰り広げるなかで、アリスは既に蚊帳の外であった。

「あなたには、才能があるわ。頭脳と力の両方を持っている。だからね、あなたにこの生徒会において探偵になってほしいの」

「探偵?」

遠矢は訝しげに聞き返す。

「そう、今の生徒会にはブレーンがいないのよ。参謀はいるのだけど、推理力を持った人間がいないの」

凛は遠矢に自分の過去と同じ役回りをしろと言っているのか、遠矢は相手に悪気がないとはいえ苛つかないわけではなかった。無論、顔には出さないが。

「会長がいらっしゃるじゃあありませんか?Aランクだとお聞きしましたが」

「学校のテストごときじゃ人の器なんて量れないわよ。だから私はいかにも指導者らしい口振りで振る舞うのは得意だけれどそちらの方面はてんで駄目なの」

凛は自嘲気味に自虐する。

「だからお願いよ、遠矢くん。私達を救ってほしいの、お願い」

凛は、遠矢の手を握り真摯な目を向ける。メンタリストとして、人を操作する手法は身に付けている。これは、その一つであった。相手に警戒心を抱かせないようにするための。

「むしろ、良いと思いますよ。これ以上学生が危険な目に逢わなくて済みますし」

凛は、遠矢がこの手の操作には揺るがないことを忘れていた。しかし、まだほかの手段も持ち合わせている。

「なら、これならどうかしら。見てみて」

凛は一枚の紙を机上に置いた。

すると、内容が目に入った瞬間遠矢がゲホゲホと噎せた。

「大丈夫?とーや。ちょっと、とーやに何したの!?」

「別になにもしてないわよ」

アリスの非難をするりと凛はかわす。

というか次の瞬間、アリス自身も噎せた。

「凛先輩‥‥俺達を脅す気ですか?」

「いえいえ、そんなことないわよ。校則でも男女の同室が禁止されているわけではないもの。でもね‥‥」

遠矢は凛を少し睨み付けると、凛は意味深な返答をしてきた。

「誤ってこのあなた達が同室だという情報がどこからか漏れてしまった場合、印象は良くないかも知れないわねー」

凛は白々しく言い放つ。やはり、この交渉手腕は生徒会長に相応しい。というか、万城目の人間に相応しい。

遠矢は本当に目の前の人間が高校生なのか疑った。自分が接してきた大人以上にスペックが高い。

「‥‥分かりました、生徒会に入ります。しかし条件がありますよ、凛先輩」

「あら、何かしら?」

遠矢は沈黙の後、凛の脅しに負けて了承する。しかし、負け越しというのは遠矢の性に合わない。

条件を取り付けることにした。

「アリスを捜査時に参加させてください。これが俺のただ一つの願いです」

「へ?聞いてないよとーや」

遠矢の条件は無論、アリスのことも捲き込むもので、アリスにも伝えていないものだった。

「遠矢くん、年度の定員的に見てアリスさんを生徒会に迎えるのは不可能なのだけれど」

凛は難色を示す。

「ええ、ですから捜査時のみの参加を認めてください。非公式で構いません」

「まあ、それならなんとかなるかもだけど。言っておきますが遠矢くんを生徒会室に迎い入れることもイレギュラーなので、生徒会のメンバーの理解に因りますね」

凛は妥協しても良いと言うが、他の生徒会の連中が認めてくれるかどうかは別問題というわけだ。

「ちょっととーや、ねぇ‥‥」

「そうなったら俺が何とかします」

アリスの言葉を遮って、遠矢が凛の抵抗を崩しに掛かる。

「うーん、あなたが責任を持ってくれるというなら私はバックアップをさせてもらうわ。これでいいかしら?」

「はい、英断に感謝します」

アリスがやり取りに入る余地なく勝手に解決してしまった。

「もうっ、とーや!私怒ってるよ、何でさっきから無視するの?!」

流石にアリスにもプライドというものがある。遠矢の態度はそれを傷付けて来るものだった。

「悪かったよ、アリス。後で何でも言うこと聞いてやるから、一つだけだけどな」

「何でもか‥‥へ、へー」

遠矢の出した詫びの品は相当アリスには気に入ったらしく、顔を赤らめてにやついている。

「ふふっ、本当に仲が良いのね。二人は昔からの付き合いなのかしら?」

凛は極々、一般の疑問を投げ掛ける。

「いえ違います。とーやとは一昨日初めて逢いました」

「一昨日?本当なの、遠矢くん?」

「ええ」

凛は思わず耳を疑ってしまう。この二人この短期間で一体いくつの苦難を乗り越えてきたのか。でなければ人はこんなにすぐに打ち解けない。

「へぇー‥‥、二人とも不純異性交遊は駄目だからね」

凛は半分からかって、半分本気で念を押しておく。

「「しませんっ!!」」

二人の声はシンクロ率100%で、凛の鼓膜を揺らした。

その後、互いに要求を相手に認めさせて相互的に利益を得た~遠矢としては全く本意ではないが~ために、三人は日が暮れる位まで談笑に勤しんでいた。

「先輩、もう遅いですから、お開きにしましょうか?」

「そうね、確かに外も暗いわ。あなた達とは気が合いそうで良かったわ。改めてありがとう、二人とも」

遠矢は凛が下校時に不審者などにでも遭遇する危険性を鑑みて、敢えて賑やかな雰囲気に終止符を打つ。遠矢とアリスは寮生だから、その点を気にしないで良いので楽と言えばそうである。

「それじゃあ、戸締まりをしなければいけないから二人は先に帰ってくれるかしら、ごめんね」

「分かりました、それでは‥‥‥‥」

遠矢がそう言って腰を上げたそのとき、超薄型の大画面のデスクトップに突如明かりがつく。

「先輩、これは?」

遠矢は凛の方を見て、尋ねる。

「どうやら事件が発生したようね。画面の色が赤いからそれもかなり重要性の高いものだわ」

凛の顔が歓談をしていたときとうって代わり、鋭い目をしている。

凛はデスクトップに近付いて画面に触れ、指紋認証を通過して送られてきた電子メッセージを検閲していく。

送られてきたのは動画と画像、そして書面だった。

「タイトルは‥‥‥‥ヘッド・マーダー」

「ヘッド・マーダー?」

凛が重々しく呟き、アリスがすぐ反芻して聞き返す。

「知る筈がないわ、私も知らないもの。でもね、赤色になるのは最低でも二人は殺めているの。だから、この新しい犯人は短期間で二人以上の人を殺してることは確かね」

「「‥‥ッ」」

先程の楽しい時間が嘘のようだ。

生徒会とはここまで、事件に接する機会が多いのか。偶然だが生徒会の構成員は全て女性だ。精神的な不安はないのかと遠矢は凛の初見の説明を聞いて心配になる。

遠矢は既に慣れてしまっているが。

「どうしますか、凛先輩。明日の予定は開けておいた方が良いですか?アリスを含めて」

遠矢はまだ詳しい活動内容は把握していないが、緊急を要する事態であることは十二分に理解していた。

「そうしてくれると助かるわ、ついでに顔合わせもしてしまいましょう。あなた以外にも一年のメンバーはいるのよ、女の子だけれど」

凛も遠矢の意見に乗ることにした。今からでは明らかに遅すぎる。

「凛先輩、私も顔合わせに出席した方が良いんですか?ややこしいことになりそうなんですが」

アリスの言い分も尤もだ。生徒会に入るわけでもないのに、捜査には参加するのは筋違いというものだ。

「でも今回の魔件から捜査に加わるとしたら、どのみちいつかは話さなければならないもの」

「そうですよね‥‥」

アリスは分かりきっていた返答に肩を落とす。こうなったのは遠矢のせいじゃないと遠矢を見ると、視線をかわされてしまった。

「そうしたら、明日の登校時間までに教室ではなくここに集合しておいてくれるかしら。公欠扱いにしておくよう校長には頼んでおくから。良い?」

「「はい」」

凛の指示に二人は返事をする。

いよいよ平穏な日常には悉く縁が無いのだなと遠矢は思い始めていた。



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