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異脳探偵のメモリー  作者: 戸山 安佐
第一章~アンタッチャブルズ~
13/21

吐露

火田との青傑戦を終えた、遠矢はいつもの四人で教室の隅に固まって雑談をしていた。

既に林檎先生が解散を告げていたので、このクラスには遠矢達しかいない。大人数で共有しているスペースを四人で使っていると、少し、領地を占領している王のような感覚だ。

「ありがとうございました、遠矢さん。このご恩は一生忘れませんから」

「いや、いいから。鈴にはお世話になってるんだし」

闘技場で落ち合って、教室に戻ってくるまで鈴はずっとこの調子だった。その度に遠矢は少し言葉を弄くって、同じ意味の言葉を返している。

いつ遠矢のボキャブラリーが尽きてしまうか心配なので、話題をそろそろ変えようと遠矢は意を決する。

「それより鈴は、クラス委員の仕事がどんなものなのか知ってるのか?最初はクラス委員なんてなるつもりも無かったから俺は把握してないんだ」

「そうですねぇ‥‥」

そうだ俺はクラス委員になるんだったと思い出して遠矢は、鈴に確認してみると簡潔に答えてくれた。

どうやらこの学校でクラス委員とは、生徒会との仲介役を担っているようで、業務のほとんどは生徒会の方針に従って、クラスを纏め上げること。他の仕事は、尋常高校のそれと変わらない。

「あ、アリスさん?どうやら元気が無いように見受けられますが大丈夫ですか?」

クラス委員の説明を一通り終えてから、鈴はアリスのテンションが著しく下がっていることに気付き、言葉を掛ける。

「う、うん!大丈夫だよ」

アリスが無理して笑っていることは、どんなに鈍感な人物でも分かるだろう程だ。

アリスが元気を失っている理由を遠矢は知っている。アリスは笑顔が一番に似合う女性だ。

出来ることなら再び笑顔を見せてほしいし、笑顔にしてあげたい。

そう思った遠矢は

「アリス、話があるんだ一緒についてきてくれないか。申し訳ないけれど鈴と茜はここにいてほしい。大事な用件なんだ」

「分かったよ、とーや」

アリスは空元気な声を出した。他の二人は不満そうな顔をしているけれど、何も言わない。

それくらいのマナーはしっかりと弁えているのだ。

アリスはガタッと音を立てて、固定されたタイプの座席から立ち上がる。

そして二人は外履きを持って、人気の少ない校舎裏まで移動する。


「すまなかったな。黙っていたことは本当に申し訳なく思ってる。本当にごめん、アリス」

遠矢は頭を垂れる。

「私‥‥やっぱり許せない」

アリスは不機嫌そうな顔だ。

「とーや、私が隠していたこと話したときは怒ったよね?それなのに私には隠し事をしていたなんて、私許せない」

「うん」

「でもやっぱり、私が怒ってることはもっと別のこと。何でとーやは自分の危険を省みずに、青傑戦に参加したの?私も鈴も茜も本当に心配してたんだよ。とーやが傷付いたら嫌だってみんな思ってたの」

「ごめん」

アリスは、優しさ故に遠矢を許せない。遠矢は愛情に満ちたアリスの言葉の一つ一つに胸を打たれる。

「ううん、きっととーやは何も分かってないよ。私達はね、とーやが傷付くくらいなら自分が傷ついた方が良いって思ってる。だからね、約束してとーや。もう無駄に危険なことに首は突っ込まないって」

アリスは自分の護衛として遠矢を選んだ訳だけれど、基本的に人が苦しんだりするのは見ていられない質だった。

だから、学校にいる間は少しでも遠矢には安全に過ごして欲しかったのだ。

「分かったよアリス。約束する。もう危険なことはしないから」

遠矢もアリスの優しさに応える。心の中では、きっと平穏な日常は送れないことを何となく察していたけれど。

「なら、いいや。ちょっとは安心できた」

心なしかアリスにも笑顔が戻る。遠矢はアリスとまだ何の関係も持ってはいないし、交際している訳では無いのに《大切な人》としてやはり、アリスを意識していた。

遠矢はアリスの笑顔を見れて、全身に幸福感が駆け巡ったのだから。

「ところでアリス。お前にだけ言っておきたい、極秘案件があるんだけどいいか?」

アリスは二人だけの秘密という響きに満足してニヤついてしまっている。

「雨宮アリス、雨宮家の後継者候補に対して一家後継者候補として重大案件を申し上げる」

「うん!」

まだアリスは気付いていない。遠矢の既に投下してある爆弾に。

二秒ほどたって

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

アリスは遠矢が同室を告げられた時と同じくらいの声を上げる。

「声が大きい」

「あっ、ごめん」

遠回しに覚悟を求めたというのにリアクションの大きいアリスを遠矢は非難する。

アリスも自分が思ったよりも声が大きいことにハッとして、口を一旦つぐんだ。

「えっ、とーやって鳴神じゃなかったっけ?」

今度は恐ろしいほど小声でアリスが耳元で尋ねる。

「父親の旧姓だ。アリスとほぼ同じ理由でこう名乗っている」

遠矢は偽名のカモフラージュはさも当然であるかのように言い放つ。

「はぁーー‥‥、まさか名前まで変えていたなんて。まさかとーやも偽者の名前なの?」

アリスは遠矢がここまでの秘密を抱えていたとは思いもよらなかった。さっきは、遠矢の隠匿を許したけれどキャンセルは出来ないのかとアリスは本気で思った。

「いや遠矢は実名だ」

「ふぅー、良かったよ。これから違う名前で呼ぶの違和感が大きすぎるもん」

アリスは慣れたとーやの呼び名は嘘じゃないと知って少し驚きがやっと弱くなった。

「とーやは、何で一の苗字を名乗れないの?雨宮は私がそうな名乗るのを許可してくれたけど」

アリスは単純に同じ第二forthに名を連ねる名家で、対処が異なるのはおかしいと思ったのだ。

「一家は身内の汚点は徹底的に晒さないんだ。警察組織に身を置いている以上、弱味を握られてしまうことは許されないからな。名家からランクDが産まれたなんて汚点に他ならない」

遠矢は自嘲気味に話す。

「とーや‥‥」

アリスは肩を落として遠矢と息が当たるまで近付く。

次の瞬間、アリスは腕を遠矢の背中まで回す。遠矢は反射的にいつもなら腕を締めて捕縛するところだが、アリスには微塵もそんな行為を起こす気は起こらない。

アリスの体が遠矢に密着する。遠矢にとって、姉以外にされた初めてのハグだった。

心臓の鼓動が伝わり合う。まるでシンクロしているように二人は解け合っているかのような錯覚まで抱いた。

アリスの慈愛が遠矢の血液まで浸透している気もした。

ずっとこのままでいたい。

遠矢は本当にそう思った。

「とーやは汚点なんかじゃない、誰かに必要とされたいなら、私がその空白を埋めてあげる。ううん、そばにいて、私のそばにいてとーや」

必要とされる、確かに遠矢は警察組織に今まで必要とされてきた。しかし、その必要は利用価値があるというだけで遠矢自身を見てくれていることは無かった。

アリスの囁いた言葉は真っ直ぐに遠矢を見つめて貫いている。

「ああ」

遠矢は承諾の意を示す。まだ、一家の一員として承諾は出来ないが、一人の友人以上の女性に対して遠矢自身を懸けて誓った。

アリスは、じわじわと顔の温度を上げた後、遠矢の背中まで回した手を熱いものに触れたような速さで体の後ろへ戻す。

「ハグしちゃった‥‥男の人に初めて。でもっとーやならいいよね。とーやなら」

アリスの声はか細く遠矢の耳には振動が伝わることはなかったが、しゃがんだ状態で遠矢に背中を向けたアリスをどうしたことかと怪訝そうな目で見つめる。

「アリス、愚問になるかもしれないが青傑戦の最中お前は見えていたのだろう?」

「うん、全部」

明朗に答えるアリス。

しかし、彼女の能力はやはり恐ろしくもある。アリスの意思とは関係なく、雨宮家の方針として他の名家の独自性のある技を見抜き雨宮家に情報を流出でもさせてみろ、それこそ証拠の残らない完全犯罪ではないか。

アリスの能力の一部情報が漏出した今、各名家が傭兵を使わして不能にしようというのは摂理だ。

遠矢は重ねて肝に銘じた。

「アリス、身辺の件も不可触アンタッチャブルの件もオフレコで頼む」

「分かってるよ。だけれどとーや、雨宮家に一家の後継者候補が干渉することは許されているの?」

遠矢はそろそろ教室で待たせている二人と合流するために話の纏めに入ろうとしたが、アリスは広がりを作ってしまった。

ただ、アリスの懸念は尤もなことであるから遠矢は念を押しておく。

「いいや、俺の家系は単独行動を基本的に嫌う。だから最初に言ったろう、後継者候補と何度も。つまりは個人間の問題だ。家柄を鑑みてのことではない。勿論、この干渉が当主に勘づかれたら終わりだがな」

遠矢はあくまでも個人的に話している案件であることを強調する。

大抵の権力者はこの手の裏の意味を嗅ぎ付けるスキルに優れているから解釈をたれる必要はそもそもない。

アリスは重要人物に出会ったことがほぼ無いのだろう。だから、読みを培われなかったのだ。

「今度こそ了解よ。しっかりと理解もしたわ」

アリスに疑問が払拭されたタイミングで、遠矢は教室に戻ろうとアリスを促して歩いていく。

歩幅の差を補うように、アリスは大股で進み遠矢はゆっくりと足を差し出す。

アリスと遠矢は抱擁によって同じリズムで心臓を刻むような心地になっていた。


遠矢は教室で二人にお辞儀をして、言う通りに待っていてくれたことに謝辞を言った。配慮のない浅はかな人間や好奇心の方に心を喰われた人間であれば遠矢とアリスを尾行して来たかもしれない。

そうとなれば、直ぐに察知してから正すか、思い知らせるかは別として何らかの対策に時間を取られていたことだろう。二人へ頭を下げるのは妥当だった。

鈴などは『アリスさんの顔色がよくなって良かったです』と和かな眼差しを向けてくれたが

「お腹が減っちゃったんだけど、とーやん」

茜は待たされたことに怒ってはいないが、それを利用して遠矢に何か奢らせようとしている。

「分かったよ。カフェテリアにこれから行こう、現金は俺が持つから何でも好きなものを頼むと良い。鈴とアリスも良いぞ」

「やったー!」

茜は用意しておいた歓声を発する、鈴はというと申し訳無さげに腕を横で伸ばしていた。


遠矢達は生徒手帳でカフェテリアの位置を検索して、教室棟の最上階である五階にオープンしているそうなので、階段は苦だろうとエレベーターで五階まで上がった。メーカーの技術努力で、慣性の法則による重力感は削減されたので注意していないと動いたことに気付かないこともあるから。

五階に着き、エレベーターの扉が開くとどうやら五階全体がカフェテリアらしかった。

洋風のこ洒落た椅子や円形のテーブル、床やステンドグラスまで細部に気を配っており、ロンドンの街並みをそのまま切り取ったかのような装飾が施されていた。

既に四限目が終わり、昼休憩が始まっているために、昼食をとろうとする生徒達で賑わっていた。

もう既に満席かと思われたが、遠矢一行の入店したタイミングで四人分のテーブルが空いたのでそれに従うような形で窓際の席へ流れていく。

テーブルに座席予約をするために生徒手帳を椅子の背中部分にタッチしてから食事を注文しに、受付へ。

受付でメニューがプロジェクションマッピングで映し出された台をタッチしてから、生徒手帳をタッチ、それから受け取り口に移動して自分の好みの料理が運ばれ、それを受けとれば作業は完了する。

各々、見よう見まねで自分のオリジナルの組み合わせを選択して、再び席に腰を下ろす。

ここまでは何も起こることはなかった。

しかし、学年を問わず多数の生徒が談笑しているこの空間には、同じ数だけ好奇な目を向けてくる輩もいるということである。

青傑戦は校内の公式戦であり、生徒の実力を測る物差しであるから要項に則ってインターネット上の学内掲示板に結果が公開される。

ということは、対戦中の試合映像は公開されないにしてもランクDがランクBに勝利したという誤載かと思われるような、極論、天と地が逆転するような結果はそれとして存在しているのだ。

噂話という一つの宣伝媒体によって拡散するのは余りにも一瞬だ。

鳴神遠矢という個人を知らない人間は実はこの時点で既にほぼいなかった。しかし、遠矢はそれを自覚してはいない。

カフェテリアに来たのだから雑談を始めるのは自然な流れであり、アリスが遠矢に話しかけることに無配慮だとか非難するのは意味が不明なので、当然遠矢は素直にアリスを受け入れた。

「ねえ、とーや‥‥」

しかし、悪意のないこの一言が生徒の視線を一挙に集める。口火を切ったアリス張本人ですら驚いた顔をしているのだから、鈴と茜の二人は目が点といった感じだ。

遠矢は変わらずポーカーフェイスを貫徹しているが。

「ちょっとなにをしたんですか?!アリスさん」

鈴が小声でアリスを問い詰める。アリスの方は何をしたのかという詰問すら意図が掴めていない様子で首を必死に横に振っている。

助け船を早く出せとアリスは遠矢を凝視してくる。

遠矢にも彼らが何を注目しているのか分かりかねたので感覚を最大限に鋭敏にして、空間に漂う手掛かりを求める。

『あれが鳴神遠矢か?』『そんなに凄そうな奴には見えないが』と話す男子生徒の声を捉えた。勿論、直視したわけではなく、訓練によって習得した聴力で二メーターほど離れた相手の会話を盗み聞きした。

何となく自覚はしていたけれど、遠矢はやはり俺のことだったのかと確信することになった。

「すまない、どうやら俺のことを気にしているようだ」

遠矢は相手を明確にはしなかったが、アリスと鈴に謝罪をした。

「えっ、何で遠矢さんを?‥‥ああっ」

鈴は腑に落ちない様を呈したが、時を移さずにまさかといった顔で声を洩らした。

それから、数分後。騒ぎ立てるような反応はもう絶えたけれど

「とーやん、席を外さない?これじゃあゆっくり食べられないし」

茜が先に我慢の限界を迎える。一番耐性がない点では子供かもしれないが、気持ちを汲み取って席を立とうと発言したならばむしろ大人かもしれない。

「そうするか」

遠矢が賛同して腰をあげたタイミングで、カフェテリアの緩やかな喧騒の中から、テーブルの間を通り抜けてやって来る一人の女生徒がいた。


「鳴神遠矢君よね?私は万丈目凛です、初めまして」

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