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異脳探偵のメモリー  作者: 戸山 安佐
第一章~アンタッチャブルズ~
10/21

衝突

一人の少女が講堂のステージに登場する。オーラを纏う小柄な少女。

人を圧倒する帝王のオーラ。

彼女こそが学内カーストの頂点の生徒会長。学内の新人類の中で一番の実力を持つもの。

彼女は一礼して、開口。

「新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。生徒会長の万城目凛まきめりんです」

何気無い音の一つ一つが琴線に触れる。

「これであなた方も青傑高校の一員です。あなた方はこのモラトリアムに相当する期間において権利を持ちました。しかし、大切なのは権利を振りかざすことは、何の役にも立たず、義務すら達成できない者には権利を行使することは許されません。人格的に問題がある人もそうです。私達は人間でありながらある意味武器としての価値があります。しかし、私達は人間です。紛れもなく人間です。そうであるには私達は責任を持つ必要があるのです。そして私にはみなさんをがより良い利益を被るように導いていかなければなりません。ここにみなさんが安心して生活できる学校を作っていくことを誓いましょう!ですから新入生のみなさん私に付いてきてください。それでは改めてご入学おめでとうございます」

プライドと覚悟を感じるスピーチだった。誰が始めるでもなくスタンディングオーベーションが巻き起こる。

遠矢はこのような人格者がこの学校に存在していることを嬉しく思った。


入学式の進行は終わりに近付き、新入生は一礼の後、退出する運びとなった。

「かっこよかったねー、生徒会長さん」

「そうですね。あの方はAランクらしいですよ」

アリスに応えた鈴の情報は、初耳の情報ではあったが遠矢は驚かない。やはり、万城目のところはリーダーとしての器のある後継者を鍛えている。

「彼女に影響されて、火田の痛い熱も冷めるといいんだがな」

遠矢はニヒルな口調で言う。

「ははは、確かにそうだな私もそう思う」

茜がそれに賛同。

行きと同じ道順で教室へと戻る。講堂に比べると教室は尋常高校に比べて大きいというのに小さく感じられた。


先生に促されて生徒は再び席へ。アニメ声優のような声だ。自分達よりも年上の筈だがロリ属性しか見つけられない。

「改めてご入学おめでとうございます!まずは私の自己紹介ですねー」

先生はタッチパネルボードに文字を書き始める。恐らく先生の姓名なまえだろう。

「先生の名前は大山林檎おおやまりんごです。もちろん先生も新人類ですよー。こう見えても結構強いんですからー」

大山って、小山の間違いじゃないのかと誰かがひそひそと喋っている。

「えー、今私のことをチビッ子だのと言った人は今後私の担当教科においては減点対象となりますので以後気を付けてください」

顔を真っ赤にして、精一杯大人っぽくみせたのであろう黒髪ロングを震わせて怒っている林檎先生。

一同に暗黙の了解が生じる。こんな子を泣かせてはいけないと。


「はい、続いてみなさんお待ちかねの自己紹介の時間ですよー。出席番号一番の赤司あかし君から順にどうぞ!」

そう言って先生は一旦パネルの横の椅子に腰を下ろす。

自己紹介はあまり代わり映えしないものばかりで、ほぼ全員が出身校とランク、後は趣味等を話して完結させた。

鈴の自己紹介のとき、遠矢には少し気掛かりな点があった。鳴神遠矢で、な行だから真ん中の列の一番後ろの席だったので、遠矢は全体を見渡せる状態にあった。

まず、鈴が出てきたとき、クラスメイトの大半は綺麗だなあとか感嘆する声が教室をつつんだ。言わずもがなアリスもその例にあたる。

問題は鈴がランクを述べた時である。火田の口角が上がり、下卑た笑みを浮かべたのだ。ゲスな火田が何を考えているのかは遠矢には見当がついていた。

恐らくだが、自己紹介によると火田も鈴と同じランクBだから鈴こそが自分の交際相手だとかパートナーにふさわしいとでも思ったのだろう。何て愚かな男なのか、自分なら俗にいうおとせるとでも思ったのか。

すでにお前の心証は鈴にとってかなり悪いものだというのに。

気掛かりだったのは、火田が何らかの強行手段に出るのではないかということだった。

あり得ないことも火田ならと思えてしまう。


事態が動いたのは小休憩のタイミングだった。

「はいみなさん、ここで10分間の休憩をとります。この時間でみんなでコミュニケーションをとってみるといいんじゃないですか」

林檎先生は笑顔で言っているが、まだ気付いていない。このクラスが今、決裂していることに。

遠矢四人は、アリスの席の近くで話すことにした。

「どうなると思う?とーや。このクラスこのままじゃバラバラのままだよ」

「そうだな。誰かがカンフル打たないと居心地が悪いままだ」

アリスもこの重い雰囲気を変えたいのだろう。遠矢も同意する。

「休憩が終わったら、学級委員決めだろ?とりあえずは鈴が女子の方で決定でしょ」

「そんなことないですよ。それにもしも火田さんが相手だとかになってしまったら私、卒倒しますよ」

茜の冗談にならないからかいに鈴はオーバーにも思える表現を採用する。冗談にならないというのも、学級委員決めは立候補制ではなく推薦し多数決によって行われるからだ。

中立的なポストの鈴は選出される可能性が高いのだ。第一印象はきっと悪くない。


遠矢は火田がこちらに寄ってくるのを察知する。

「鳴宮さん、そんな人達と話していないで僕達と話さないかい?君の価値まで下がってしまうよ」

「随分な物言いですね。結構です、私の価値はあなたの基準で決まるものではありませんし、私のお友達に失礼なことを仰るのは非常に不快です」

やはり、火田のお目当ては鈴だった。そんな人達とは、蔑視していることを隠しもしない。仁志沢が話していたのは火田のこういうところなのかと遠矢が呆れていると、今にも飛びかかりそうなアリスの憤怒した顔面が目に入る。鈴の男にも物怖じせずに言い返すあたりは、容姿に似合わず肝がすわっている。

「僕は君のためを思っているんだ。早く目を覚ました方がいい。さあ、鳴宮さん」

「本当に、いい加減にしてください」

まだ食い下がる火田に、そろそろ鈴の堪忍袋も切れそうだった。

不味いと感じた遠矢は瞬時に対処方を思案する。脳内で火田家の名前を検索すると、最近の面白い情報が手に入った。

この手でいこう、遠矢が決意を固めると鈴が火田の頬を叩きそうなところだった。その場には先生もいるわけで入学初日で暴行は洒落にならない。

遠矢は鈴の手を掴んで止め、生徒手帳をポケットの中でブラインドで操作する。

「ごめんな鈴、痛かったか。悪いけど鈴にはもう付きまとわないでくれないか、火田君」

「これは俺と鳴宮さんとの問題なんだ。部外者は黙っていてくれ」

いつから鈴と何らかの関係を築いたのだと訊いてみたくなるほど、支離滅裂だった。

「部外者ではないさ。むしろ俺は君より鈴と親しいのだから、君の方が部外者かもしれないよ」

「黙れと言ってるだろうが、シュードラごときの分際で!!」

言い返してくる遠矢に火田は激昂する。反論できずキレることしかできなかったのだろう。ナルシストだろうに頭は良くないのか。

「ありがとう、火田君」

遠矢の予期しない反応に顔の赤みは引かないまま、火田はキョトンしている。火田の怒声でこの揉め事に気付いた連中も不意を突かれた顔をしているから、今回は火田が阿呆な訳ではない。

「これ、聴いてみてくれ」

生徒手帳を取り出した遠矢は、さっきの音声を録音アプリから再生する。

シュードラごときの分際で!!

余りに悪役なセリフがリピートされる。

「これが何だっていうんだ」

火田はまだ気が付いていない。自分の家の事情が絡んでいるというのに気楽なものだ。

「君の家は、確か今当主つまりは君のお父さんが青血協会の議員として立候補しているよね。マニフェストは確か、新人類間での差別の廃絶」

ようやく気付いたのか、火田の顔は青ざめていく。

「クソッ、後で覚えていろよ」

火田はザ・負け犬のような決まりきった遠吠えをして、自分のグループへ踵を返す。

我がクラスの担任、林檎先生はあたふたしていただけであった。


「ねえ、とーや。何で火田はあんなに動揺してたの?」

アリスがさっきの一悶着について興味を示す。

「もしかしてアリスのまだ気づいてなかったのー」

「何よ!悪い?」

茜がアリスを煽って楽しんでいる。上手く弄ばれているアリスも可哀想だったから、遠矢は種明かしをすることにした。

「さっき火田の父親の話をしたろう?火田の父親は差別撤廃を訴えて議員に当選しようとしている。しかし、そんな人の息子がシュードラという差別用語を大声で捲し上げたんだ。もしこの音声が流出したら都合が悪いってもんじゃない。まあ、火田を怒らせてわざとその発言を引き出したのは良心が痛むけどな」

鈴と茜の二人はうんうんと頷いて聴いていたが、アリスはハッとした顔だ。アハ体験でもしたのだろうか。

「とーや、そんなことまであの短い間に。頭良すぎるよー」

「そうですね。遠矢さん、また助けられてしまいました。ありがとうございます」

鈴はアリスに相槌をうって、遠矢に頭を下げる。

「止めてくれよ。こんな解決法じゃあ亀裂は解消していない。意味がないんだよ」

遠矢は自分のやり方が気に入らなかった。常に最良の案を推敲するのは遠矢の良くも悪くもある癖でもあった。

それに火田はこれで懲りるような男ではないから、ほぼ間違いなく次の手段へと出る筈だ。

恐らく、学級委員決めで何か仕掛けてくる。遠矢は改めて気を引き締めた。

「まあ、安心してくれ。俺のやり方のせいで鈴に危害が及ぶなら俺は全力でそれを阻止してやるから」

不安げになっていた鈴を遠矢は励ます。

「はい‥‥」

鈴は夢心地だった。何しろ好きな男が本気で心配し、守ってくれるとまで言ってくれたのだから。

火田に靡くわけがないと鈴は改めて思う。鈴は遠矢に命を助けられて抱き抱えられたあの瞬間から恋に落ちていた。

「とーや、私も守ってくれるよね。約束したもんね」

「当たり前だろ」

アリスが嫉妬に駆られたのか、契約やくそくの再確認をしてきて、遠矢もそうだという。

鈴はアリスは友人でありライバルでもあるとアリスを警戒し、茜は三人を苦笑いしながら心にあるモヤモヤの正体を探していた。


「はーい、休憩終わりです。これからクラス委員決めなのでまた席についてくださーい」

火田のせいで、休みが短くなってしまったと遠矢は心でぼやいて自分の席につく。

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