12-60 むいむいたんという物語。
―1―
俺は周囲を見回す。
皆の戦いも終わりを迎えたようだ。
「ラン、終わったのじゃな!」
嬉しそうな顔のセシリーが俺の元へと駆けてくる。終わったのじゃよ。
「マスター」
そして、そのセシリーを追い越そうとしているのか、無表情のまま、恐ろしい勢いで14型が駆けてくる。はいはい、俺は逃げないからね。
「虫、座る場所」
何やら紫炎の魔女さんが偉そうに俺へと命令をしている。俺は、先ほど投げつけられた銀貨を投げ返す。それを慌てて受け取る紫炎の魔女。
「し、師匠……」
それを見たステラが大きくため息を吐いている。そして、そのステラの反応を見たソフィアは慌てたように銀貨を後ろに隠していた。
俺は紫炎の魔女のためにふんわりとした白いソファを一つ作り出す。それを見た紫炎の魔女ソフィアが嬉しそうに腰を埋めていた。どうだ、ふかふかだろう?
「むふー。ランちゃんさん!」
シロネもこちらへと駆けてくる。
そして、その途中で姿が消えた。
シロネは、とりあえず、俺が! この空間に作った落とし穴に落ちていた!
「酷い!」
余り深くない落とし穴だったからか、シロネは、すぐに上半身を覗かせ、ぷりぷりと怒っていた。誰だ、シロネ先生にこんな酷いことをするのは! 全く信じられないな!
「主殿!」
ミカンもこちらへと駆けてくる。
「主殿、すみません。ちょっと……」
そして、すぐに座り込み、小さくお腹を鳴らしていた。ミカンは恥ずかしそうにキョロキョロと周りを見ている。うむ、しっかりと聞こえたぞ。
俺は戦いが終わってお腹を空かしたミカンのために蜜柑を作り出す。あの偽りの中で美味しそうにパクパクと食べていたもんな。好きなだけ食べるといいぞ。
「ランちゃん、その子」
『もしかして』
小さな羽猫と九尾狐姿に戻った二夜子とユエインのコンビがやってくる。
ああ、そうだな。
『この赤子が女神セラだ』
俺の言葉に皆が驚き、そして、何かを納得したように頷いていた。
『14型』
俺は14型を呼ぶ。
「はい、マスター」
『お前にこの子を託す。名前はハヅキだ』
そう、女神セラではなく、葉月だ。
今の14型なら、葉月をしっかりと育ててくれるはずだ。それに、この場には、葉月、お前を支えてくれる人たちがいる。だから、大丈夫だ。
お前は、本当に、ただの、そこらに居る普通の、そう何処にでも居る普通の小市民だったのにさ、こんな訳の分からない力を手に入れて――お前も苦労しただろう。俺はお前がしたことを許せないけどさ、今のお前は、違うもんな。
だから、やり直せ。
「ランちゃん、これで全て終わったんやね」
羽猫姿の二夜子が、肉球のついた手で器用にサムズアップをする。極上の笑顔だ。こいつは、本当になぁ。
しかし、だ。
俺は首を横に振る――って、首が無いから振れないじゃん。
「にゃにょほほ、ランちゃんが、面白いダンスをしている。勝利の踊り?」
こ、こいつは……。
「小さなものがマスターを馬鹿にするとは立場が分かっていないようですね」
14型が世界の壁槍を構える。二夜子は受けてたつとばかりにパタパタと飛び上がり、しゅっしゅっとシャドーボクシングをしていた。ホント、お前ら、仲が悪いなぁ。
で、だ。
『まだ、終わりじゃない』
俺の言葉に皆が驚く。
そう、まだ終わりじゃない。
「ランちゃん、どういうこと?」
拳を止め、二夜子が俺を見る。
俺は、最初に――そう、最初に、こう考えていた。
――最初は、ここから終わらせよう、と。
『この世界は葉月の――女神セラの脅威が消え、人の世界へと変わった。でも、まずは、ここだけ、なんだよ』
俺の言葉に皆が首を傾げる。
『だから、俺は他の世界も救ってくる。また戻ってくるから、待っててくれ』
二夜子以外の皆が首を傾げたままだ。俺の言葉を理解したのは二夜子だけだったようだ。
『二夜子、俺が戻ってくるまで任せた』
「あいさー」
二夜子はにししと笑っている。
さて、と行ってくるか。
次へ向かうために、全てを重ねるために。
俺は真紅妃と黄金妃の力を使い、次元に穴を開ける。
重なった数々の世界に借りがあるからな。俺は返さなければいけない。
あー、昔の漫画であったな、未来の自分に助けを求めて力を借りるような大長編が。それと同じような気分だな。
さ、行ってくるか。
俺は重なった世界を乗り越える。
いくつもの重なった自分が切り裂かれるような、引き裂かれるような、分裂するかのような感覚とともに世界を乗り越える。
そこは葉月が作った少女と同じ姿をした俺が葉月と戦っている世界だった。ややこしいな!
「な!? 空間を乗り越えて新しい魔獣が? しかもジャイアントクロウラー?」
『俺だよ、俺。助けに来たぜ』
俺は、俺に真紅妃を見せる。
そこは蝶の姿をした俺がすでに息絶え、葉月によって世界が終焉を迎えようとしている世界だった。
「な、何? なんなんだよ、お前は!」
『葉月、俺だ』
そこでも葉月は一人で居た。後は俺に任せろ。
そこは何故か葉月と俺が共闘している世界だった。
「あー、もう、なんなの! 邪神が手駒でも召喚したの!」
『いや、俺だ。助けに来た』
共闘も共通の敵が居れば、可能か。まぁ、その後、裏切ってくれるんだろうけどさ。
そこは――、
俺は数々の世界を乗り越え、借りていたものを返していく。
皆が、俺の、俺自身たちの積み重ねがあったから、ここまで来られたんだからな。
さあ、頑張るかッ!
次回のほんへん更新は2015年1月21日を予定しています。