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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
996/999

12-59 ここが、この物語の終焉だ

―1―


「消えろ!」

 葉月が叫ぶ。


 しかし、何も起こらない。


 否、俺が何も起こらせない。

「な、何で……」

『無駄だ。俺の想いは消えない』

 願えば叶う、想いが強い者が勝つ世界だから、だから俺は負けない。俺の思い込みは世界一、いや、宇宙一なんだよッ!


「なら、これでっ!」

 俺の足元に、俺を中心とした爆発が起きる。しかし、その爆発はすぐに小さくなり、消える。爆発なんて起きなかった。


「くそがっ! なら、物理的に殺してやる!」

 俺の頭上に巨大な岩が生まれる。そして、それが落下してきた。しかし、その巨大な岩は俺にぶつかる前に、何かに弾かれて砕け散った。


「は、はーん。その力、何かのスキルを使っているのかな? それならお前のスキルや魔法を全て奪うのみだよ」

 俺の中から、葉月が生み出していたスキルや魔法の力が消える。俺の動きを補助していたものが全て消える。


「これで防ぐものは何も無くなったよ」

 葉月が得意気に笑う。


 俺はため息を吐く。


『何を勘違いしている。()は元から何も使っていないぞ』

「な、な、何故、念話が? スキルは消えたはずなのに」

 葉月はわなわなと震えている。


『俺の意思が、お前に語りかけているだけだ』

 ただ、それだけだ。

「何故、何故、何故! この世界は私の、私の為だけの世界のはず。私は、この世界を創造した女神、全て私の思い通りになるはずなのに、何故、何故!」

『お前の思い通りにならないものがあったようだな』

 この世界が葉月の見ている夢だとしたら、思い通りに出来ない俺の存在は、こいつにとって悪夢そのものだろう。


「あー、あー、あー、あー、あああぁぁぁぁーっ!!」

 葉月の叫びによって世界が変わる。


 黒い物質で作られた壁が消え、果てが見えない空間が広がる。


「ちょっと前までは何も出来なかった癖に! 何も抵抗できなかった癖に!」

 そうだな。その通りだ。俺はお前の力の前に何も出来なかった。


「お前が! お前が、そのつもりなら! こちらは物量でお前を押しつぶしてやる!」

 葉月の言葉にあわせ、空間に魔獣が、化け物が、たくさんの異質な異形の存在が生まれる。

「私の破壊の意思に飲み込まれて消えろっ!」

 最後は力押しか、いいぜ、分かりやすい。


『皆の力を貸してくれ』

 俺は、みんなに語りかける。この場にいた皆に、居るはずの皆に語りかける。


「ランちゃん、任せときー」

 二夜子が、

『及ばずながら力になります』

 ユエインが、

「この力、マスターの為に」

 14型が、


 そして、


「はへ? むふー、ランちゃんさんが……ここは?」

 統治の弓を持ったシロネが、

「主殿、私の力が必要なのですね」

 九つの魂が封じられた長巻を持ったミカンが、

「わらわの出番なのじゃな!」

 星くずの力を持った可変式の槍を持ったセシリーが、

「任せる」

 銀貨を一枚だけ俺の方へと投げ放ち、全ての属性を持った腕輪を煌めかせている紫炎の魔女ソフィアが、

「全て防ぎます……」

 青い希望の星が輝く盾を持ったステラが、


 皆が並ぶ。


 俺の声に、俺の想いに答えてくれた皆が、その姿を現す。


『これが皆の最後の戦いだ』

 俺は真紅妃を構える。


 俺は、俺たちは折れない。葉月、お前がどれだけの力を持っていようと、お前がどれだけの力を振るおうと、俺たちは折れない。


「消えろ、消えろ、消えろーーーっ!」

 そして、その葉月の叫び声とともに、こいつが呼び出した存在たちとの戦いが始まった。




―2―


 セシリーが飛び、槍で道を切り開く。ステラが盾で防ぎ、ミカンが切り結ぶ。シロネが矢を放ち敵を牽制し、ソフィアが炎で敵を焼き払う。大きくなった二夜子がブレスを吐き、同じく大きくなったユエインが、その尻尾で敵をなぎ払う。14型が槍と拳で異形を打ち砕く。


 そして、俺は葉月の元へと駆ける。


「お前は、なんなんだよっ!」

 葉月は叫ぶ。叫び続ける。


『俺は俺だ』

 そして、俺は弓を構える。


 弓に矢をつがえる。


 この世界に生きた魔族の、この世界に閉じ込められた人の想いがこもった矢をつがえる。

「私は神だぞ! 女神セラだ! 全て、全てが思い通りになるはずだよ!」


 俺は矢を放つ。


「そんな矢がっ!」

 葉月の前に障壁が生まれる。


 矢が障壁を貫く。


 次々と生まれる障壁を抜け、矢が飛ぶ。

「何で、こんなちっぽけな矢ごときが防げないんだ! 思い通りになるはずなのにっ!」

 葉月は叫ぶ。


『お前の想いよりも、俺たちの想いの方が強かっただけだ』


 そして、一本の矢は葉月の膝に刺さり、葉月が崩れ落ちる。


 俺はそれを確認し、ゆっくりと葉月の元へと歩いて行く。周囲の戦いはまだ続いている。

『終わりだ』

 葉月が顔を上げる。


「は、はは。はいはい、私の負け、私の負けでいいよ。降参、降参」

 膝に矢を受けた葉月は何処か疲れた顔でこちらを見ていた。


 俺は真紅妃を構える。


「な、何? 私を殺すつもり? はは、無理無理。この世界は私が創った世界なんだよ。私がいなくなれば、世界を保つ事なんて出来ないんだよ」

 葉月は小憎たらしい表情で口の端を上げる。

「私を殺すことなんて誰にも出来ない。私の負けでいいから、それでいいでしょ。もう満足したでしょ」

 ああ、そうだな。


 そうだよな。


『確かにな。葉月、お前を殺すことは、この世界の終焉を意味する。それを行うのは不可能だろうな』

「だったら、もういいでしょ。ここまで、私を追い詰めて気が済んだでしょ」

 葉月は、こちらを見てニヤニヤと笑っている。


 でもな……、

『これで終わりに出来るかよッ!』

「だったら、どうするの! 私を拷問にでもかける? それで気が済むならやれば? これでも馬鹿みたいに長く生きているから、その程度、何でも無いから、好きにすればぁ?」

 葉月は力を込め、立ち上がり、勝ち誇った表情で俺を見ている。


 俺は考えていた。


 この世界は葉月の世界。こうなることは、ある程度予測できていた。


 葉月を殺すことは出来ない。


 だからと言って、牢獄に閉じ込めるようなことも出来ない。抜け出された時が危険だしな。


 どうにかして無限の責め苦を味合わせる? そうだよな、こいつには、それくらいの目に遭って欲しい。俺の仲間が、みんながどれだけ、こいつに苦しめられたか。


 けどさあ。


 ……。


 だから、俺は決断する。


『葉月、もう終わらせよう』

「な、何をするつもり?」

 葉月は、俺の意思を感じたのか、驚き一歩後ろへと下がる。

『お前にとっての終わり、そして始まりだ』


 俺は次元を乗り越える力を得た真紅妃と黄金妃の力を借りる。


 そして、真紅妃で葉月を貫く。


 葉月の時を貫く。


「な、何を……」

 葉月の顔が驚いた表情のまま固まり、そして、その顔がどんどんと幼くなっていく。


『葉月、俺はお前を裁くことは出来ない。そこまでの力は無い。だから、やり直せ』

 葉月の体が、どんどん小さくなっていく。


 そして、最後には幼く、可愛らしい笑顔の赤子へと姿を変えた。


『もう一度、やり直せ、葉月』

2017年1月6日修正

ソファが炎で → ソフィアが炎で

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