12-56 力? そんなもん、ねぇよ
―1―
黒い物質に赤い線が走る壁によって作られた通路を駆けていく。
とにかく進む。
「また同じ結果になるのに、何で頑張っちゃってるの? また繰り返したいの?」
何処からか葉月の声が聞こえる。俺たちの行動を見ているのだろう。
俺たちの前方の黒い物質が動き、床部分から砲台を模したような四角いブロックが現れる。
そして、その砲台から光線が放たれる。
「ランちゃん!」
二夜子が叫ぶ。
俺は、その光線を腕輪で弾く。
そして、何事もなかったように通路を駆ける。
「へー、何やら面白い力を手に入れて調子に乗っているのかな?」
何処からか葉月の声が聞こえる。俺たちの行動を監視しているのだろう。
俺たちの前方の黒い物質が動き、床から、壁から、至る所から砲台を模したような四角いブロックが現れる。
そして、その砲台から次々と光線が放たれる。
「ランちゃんっ!」
二夜子が叫ぶ。
俺はその光線を腕輪で弾く、弾き返す。それでも間に合わないものは纏った袈裟のようなマントが光を発し防ぐ――防いでくれる。
そして、俺は、俺たちは、何事も無かったように通路を駆ける。
俺たちが通路を駆けていると、前方の黒い物質が動き、床に穴を作る。落とし穴か?
そして、その穴から縛られ、吊されたシロネがせり上がってきた。
「むふー。ランちゃんさん、ごめ……」
俺はその現れたシロネを竜泉の大剣で、右から左へとなぎ払うように切断する。
「ランちゃん!」
二夜子が叫ぶ。
シロネの体が、上半身が、顔が、ずり落ちるように、驚き、自分の身に起きたことが信じられないという表情のまま、現れた穴へと落ちていく。内臓が、臓物が、血が、あらゆるものが飛び散る。
俺は、それを無視して穴を飛び越え、先へ、先へと進む。
「酷い、酷いなぁ。彼女は本物だったのに! まさか躊躇しないなんて! 可哀想に」
何処からか葉月の声が聞こえる。
俺は、俺たちは駆ける。
今度は、空中に黒い球体が次々と生まれる。それが、ひゅんひゅんといった感じで進路を塞ぐように飛び交う。
そして、その黒い球体に線が入り、瞳が生まれた。
「ランちゃん!」
二夜子が叫ぶ。
その瞳から次々と光線が放たれる。
俺は、それを躱し、腕輪で弾き飛ばし、防ぎ、世界樹の弓を持ち、矢を放ち、撃ち落としていく。
そして、駆ける。
赤い線が走る黒い物質の通路を駆けていく。
「ねえ、その頭にかぶっている帽子、似合ってないよ。おしゃれのつもり? 相変わらずセンスないよねー」
葉月の声が聞こえる。
俺は、俺たちは、それを無視して駆ける。
俺たちの進行を邪魔するように黒い物質が動き、壁を作り、通路を塞ぐ。
それを俺は飛び上がり、黄金妃で蹴り破り、進む。
「ランちゃん……、もう驚かへんよ」
二夜子は叫ばない。
「そんな滑稽な姿で、何処まで頑張るつもりなの? 無駄だよ」
葉月の声は続く。
それでも俺は、俺たちは駆ける。
葉月の妨害を乗り越え――走る。
「その特殊な装備を手に入れて強くなったつもり? また同じになるって分からないの? 前回もチェンソーを作ってご満悦だったよねぇ」
葉月の声が聞こえる。
そこで、俺は一つため息を吐く。
一つだけ、葉月の間違いを訂正しなければならない。いや、二つ、か。
『葉月、聞こえているんだろう? お前の間違いを訂正してやるよ』
まぁ、無視しても良かったんだが、こうして反応してしまうってのは、俺もまだまだってことだよなぁ。
『まず、一つに、この帽子はおしゃれだ』
無形から譲り受けた旧式の軍帽。何か特別な力があるわけではない。本当に、ただの帽子だ。あいつの想いを受け継いだって証だってだけだ。
『そして、もう一つ。お前は、この身につけているものに特殊な力があるように思っているようだが、そんなものは――無いッ!』
リッチから託された世界樹の弓、
ゆらとから託された世界の壁槍、
優から託された竜泉の大剣、
巴から託された腕輪、
円緋から託された袈裟、
無形から託された軍帽、
これらに特殊な力なんて無い。
魔法を無効化する?
スキルを無効化する?
威力が高い?
攻撃を防ぐ?
そんなものは、一切、無いッ!
真白ちゃんから託された無敵のワッペンと同じだ。
ただ、その形をしているだけの入れ物にしか過ぎない。
大事なのは想いだ。
お前の嫌がらせを防いでいるのは、託された想いの力だ。
これらは『形』でしかないんだよッ!
お前には分からないだろうな!
この世界になる前から存在している、俺たちの証だってだけだ。だから、こそ、お前に届くんだよッ!
俺は、俺たちは駆ける。
そして、周囲の様子が変わった。
黒い物質で作られた横壁に、まるでスクリーンへと投射しているように映像が映し出される。
駆け抜けていく俺たちを追いかけるように映像が流れる。
それは俺の冒険の軌跡だった。
色々な人との出会い、迷宮の攻略、それらが映し出される。
俺の記憶を読み取って流しているのか。
ここで感傷に浸れとでも言うのか?
そして、ついに最深部へと到達する。
『ここが最終地点のようですね』
「せやねー」
「マスター、ご注意ください」
道が行き止まり、そこには、まるで呼吸でもしているかのように、鼓動を続ける黒い球体があった。
「やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ」
何処からか芝居がかった葉月の声が聞こえる。
俺は蠢く黒い球体を真紅妃で貫いた。
今年最後になります。一年間ありがとうございました。
来年度も『むいむいたん』をよろしくお願いします。
連載の再開は1月4日を予定しています。