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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん
992/999

12-55 なぜなにむいむいたんの裏

―1―


「むふー。ランちゃんさん、お帰りですよー」

 気がつくと俺の前にはシロネが居た。


「主殿、お待ちしていました。ご無事で良かったです」

 いや、シロネだけではない、ミカンの姿も見える。


「虫」

 何処か不機嫌そうに見える紫炎の魔女ソフィアの姿も、


「ランもこちらに来て暖まるのじゃ」

 何故かご機嫌なセシリアの姿も、


「あの……、お帰り……です」

 何故か凄く控えめなステラの姿も、


 ……。


 皆の姿があった。


 皆がこたつに入り暖まっている。


 5人でこたつに入るのはどうかと思うぞ。俺が入る場所がないじゃん。


「むふー。ランちゃんさんの冒険の軌跡を見ながら待っていたんだよー」

 そう言ってシロネはこたつの上に乗っているミカンを手に取る。

「うむ、主殿も苦労されていたのだな」

 ミカンもミカンを食べている。ミカンがミカンを食べている。いや、なんだ? この世界、ミカンが存在したんだ。いや、もちろん食べる方のミカンだぞ。


「ラン、早くせねば、この果物がなくなってしまのうじゃ」

 セシリアがこたつから手を出し、手招きをする。ああ、そうだな。ミカンがミカンを恐ろしい勢いで食べているからな、すぐになくなってしまいそうだ。


「むふー。どうしよう、また、一から彼の冒険を見る? それとも、この世界の解説でもしようかなー」

 シロネは、そんなことを言っている。


 そうだな、こたつに入って、皆と語り合うのも悪くないか。


 シロネとミカンが横にずれ、俺が入るスペースを作ってくれる。


 こたつは暖かそうだ。


 そうだ、ここはなぜだか、無性に寒いもんな。


 そう、寒い。


 こたつで暖まろう。


 俺は、こたつへと、皆の元へと歩こうとして、その足が止まる。


 あれ?


 何で、こんな……。


「主殿、こちらです」

 ミカンがこたつ布団を持ち上げる。おー、中は暖かそうだなぁ。そうだよな、ここは寒いもんな。


 暖まらないと……。


 そこで音が広がる。


 音が聞こえる。


「虫、どうした?」

 紫炎の魔女が俺に呼びかける。

「むふー。ランちゃんさん、お話の途中ですよー」

 シロネがこたつを叩いている。


 音。


 音、広がる、音。


 いや、違う。


 違う。


 違う。


 違う、違う、違う。


 違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う、違う……ッ!


 俺の手には、

 真紅妃が、


 俺の足には、

 黄金妃が、


 俺の腕には、

 巴の腕輪が、


 俺の手には、

 世界樹の弓と竜泉の大剣が、


 俺の体には、

 円緋の衣が、


 俺の胸には、

 無敵のワッペンが、


 俺の頭には、

 無形の軍帽が、


 そうだ、これは違う。


 ああ、そうだ、これは違う。


 はぁ、そうだよな。


『葉月、悪趣味なことはやめろッ!』

 俺は叫ぶ。


 その瞬間、周囲が真っ暗な闇に包まれる。


 全てが――先ほどまで楽しそうにこたつに入っていた、皆が消える。


 そして、俺の前方にスポットライトが落ちる。


 そこには、楽しそうに微笑む少女姿の葉月が居た。葉月が、邪悪さをたっぷりと詰め込んだ悪意の笑顔で、こちらを見ている。


「せんぱーい、遅かったね、待ちくたびれたよー」

『戯れ言はいい、皆は何処だ』

 俺の言葉に、葉月は一度ため息を吐き、そして指を鳴らした。


 葉月の鳴らした音に合わせて、スポットライトが増えていく。


 暗闇の中、スポットライトの下では、皆が磔されたように浮いていた。


 シロネが、ミカンが、ソフィアが、セシリアが、ステラが、エミリオが浮かんでいた。


『皆は無事か?』

 葉月が笑う。

「あのね、実力の違い、格の違いってぇのを理解が出来なかったのかな? ホント、モブ先輩は困るなぁ。見知った顔だからって、慈悲をかけたのを勘違いしてるよねー。いつでも、どうにでも出来たんだよ? 見逃してあげていただけなのを理解出来ないの?」

『つまり、無事ってことだな』

 俺はそのまま真紅妃と竜泉の大剣を振り払う。


 目の前の葉月ごと空間と世界が斬り別れていく。


 そして、切り払われたところから、元の赤い線が走る黒い物質で作られた壁と床が現れる。


「んにゃ、ランちゃん!?」

 切り裂いた空間の先には驚いた顔の二夜子と、何かよく分からない動きをしている14型、目を閉じて狐耳を動かしているユエインが居た。


『ふーん。そういうことが出来るようになったんだ。それで調子に乗っているのかな』

 何処からか葉月の声が聞こえる。

『葉月、すぐにお前のところに行く。首を洗って待っていろッ!』

 俺の言葉に答えるように、葉月の笑い声だけが周囲に響く。笑っていられるのも今のうちだ。


 葉月は、この黒い物体の――この黒い物質で作られた道の先か。


「ランちゃん、さっきのは?」

『葉月のお遊びだろう。この黒い球体に降りたところで罠にかかっていたようだ』

 葉月、お前は本当に趣味が悪いぜ。悪趣味だ。


 と、そこで俺はユエインの方へと向き直る。

『幻の中、途中で音が聞こえた。あれはユエインが?』

 俺の言葉に狐姿のユエインは小さく微笑み頷く。

『私が見ていた幻――悪夢の中では音が違いましたから』

 ユエイン、二夜子、14型も別々の悪夢を見ていたのだろうか。

『助かった』

「さすがはユエインやねー」

 二夜子はのほほんとしたものだ。うーん、二夜子だけは悪夢を見ていなかったもしれないなぁ。


『さあ、進むぞ』

「ついに敵の本拠地やねー」

『ですね』

 二夜子、ユエインが頷き、14型がスカートの端を掴み優雅にお辞儀をしている。


 ああ、この先が、この物語の終焉だ。

2021年5月16日修正

皆が貼り付けされた → 皆が磔されたように

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