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むいむいたん  作者: 無為無策の雪ノ葉
12 むいむいたん

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990/999

12-53 俺はこの世界に生きている

―1―


 城の外に出る。


 さて、と。


「で、ランちゃん、どうするん?」

 そうだな。


 この広さなら大丈夫だろう。


『とりあえず、夜まで休憩だ。14型、食事にしよう』

「はい、マスター」

 14型が食事の用意を始める。


「はぁ、ランちゃんは食べてばっかりやねー」

『二夜子、いいじゃないですか』

 猫と狐はのんきなものだ。


 14型が何処からか謎のテーブルを取り出し、ティーセットを広げる。

「ランちゃん、これなら城の中でも良かったんやない?」

 二夜子、気にするなよ。


 空は青いだろ。


 空は綺麗だろ。


 それにここは暖かいじゃないか。


『二夜子、青空ですね。開放感があっていいですよ』

 ユエインが狐の手で器用に14型の調理を手伝う。


 狐が火を作り、鍋に火をかける。

「今のユエインは狐姿やから、狐火やね」

 二夜子が、何がおかしいのか腹を抱えて笑っている。


『水は自分が出そう』

 水を作るのは得意なんだ。


「はぁ、こんな感じやと、まるで、うちらしかおらんみたいやね」

『そうだな』

 静かなところで食事だ、食事。


「マスター、申し訳ありません。あり合わせのものしか作れないのです」

 いつの間にか14型が城の食料庫から色々と持ってきていたようだが、それでも簡単なものしか作れなかったようだ。

 ポンちゃんが居ればなぁ、ポンちゃんがなぁ。


 完成したのは、何かの肉を焼いてソースをかけたものと、野菜やお肉、魚介類を突っ込んだスープだった。

「それでも美味しそうやね」

 二夜子は大喜びだ。


 簡単な料理、か。それでもさ、最初の葉っぱを食べていた頃を思えば、随分と、美味しそうな、普通に料理だよなぁ。料理だぜ、料理。


「さあ、マスター、どうぞ」

 14型が肉を切り分けてくれる。ああ、ありがとう。


 もしゃもしゃ。


 ソースはポンちゃんが作り置いてくれたものかな。


 うん、美味しい。


「14型ちゃん、うちも、うちも」

 羽猫姿の二夜子が肉球のついた手を振ってせがんでいる。それを見た14型が、ため息でも吐いてそうな雰囲気を醸し出しながら二夜子の元へと歩く。そして、その二夜子の口にステーキ肉を突っ込んだ。

「ほわわぁぁ、熱い、あちゅいっ! ほふほふ、でも、うまうま」

 まぁ、二夜子は猫姿だからな。多分、猫舌なんだろう。大変だな。


 さあ、食事を続けよう。


 もしゃもしゃ。


「にしても、ランちゃん、いきなり食事にしようってどうしたん?」

『食事に始まって、食事で終わるってな』

 これでいいんだよ。


 もしゃもしゃ。


 空を見る。


 食事をしながら、空を見る。


 青い。


 この世界は作り物かもしれないけどさ、俺たちには、この世界を生きている俺には、現実としか思えない。


 本当に綺麗だ。


 もしゃもしゃ。


 食事も美味しい。


 美味しいご飯があって、綺麗な空がある。


 もしゃもしゃ。


「マスター、お水です」

 14型がティーカップに入れた水を飲ませてくれる。って、だから、無理矢理突っ込もうとするな。ほんと、コイツは……。わざとやっているんじゃないか?

「ははは、ランちゃんと14型ちゃんは仲がいいねー」

『そうですね』

 まぁ、俺は14型のマスターだからな。仲が良くて当然だぜ。


 そして、日が落ちる。

『とても偽りの世界とは思えないな』

「元々の世界を再現しているみたいやからねー」

『今でも信じられません』

 皆で空を見る。


 空には見慣れた姿の月と赤い月があった。


 真っ赤な月。


『二夜子、良いか?』

「はいはい、何かな、何かな?」

 この広さなら大丈夫だろう。


『あの赤い月まで飛べるだろうか?』

「うーん、常識的に考えたら難しいやろねー」

 小さな羽猫が二本足で立ち、腕を組んでいる。


 そして、にぱっと笑った。

「でも、この世界は想いの世界やからね。ランちゃんが教えてくれたことやね」

『そうですね、この世界は、そういった世界でしたね』


 願えば叶う。


 想いの力が重要な世界。


 強い想いが魔素に働きかけ、世界を作り替える。


『はは、そこは元の世界よりも良いかもな』

 いや、今なら、そこ『も』、かな。

「ランちゃん、でも、そこが難しいんよね。善も悪も、倫理も道徳もなく、想いが強い方が何でも出来てしまう、危うい世界ってことやからね」

 そうだな。


 俺は改めて赤い月を見る。


 俺たちが向かうのは――赤い月。


 この世界を作った、想いの世界を作った大本締めの葉月のところだ。自身をこの世界の神だと思い込んでいる、この世界の支配者、そして創造者。この世界の根源。


「ランちゃん、行くよ」

 二夜子が、その姿を大きく、空を羽ばたく姿へと変えていく。


『ここが最後なんですね』

 ユエインは、かつての仲間たちを思い出しているのだろうか。


 ……。


 いや、最後じゃないさ。


 この世界はこれからだ。


「マスター、生きましょう」

 ああ、そうだな。


 14型、行こう。生きて、行こう。


 俺と14型、ユエインが二夜子の背に乗る。


「うにゃああああ」

 二夜子が飛び立つ。


 赤い月を目指して飛ぶ。

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